シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

浅野中学校

2021年11月掲載

浅野中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.身近な円周率を自分の言葉で説明

インタビュー1/3

そもそも「円周率」とはどういうものか?

奥野先生 この問題では、円周率の値のように、日ごろ当然だと思っていることがどれだけわかっているか、また、それを自分自身の言葉で表現できるかどうかを試しています。
円周率は便宜的に「3.14」という近似値を使っていますが、本来は無限に続くとても奥深く興味深い小数です。自然に使っていますが、その意味するところを考えることがあるでしょうか。意味がよくわからなくても計算はできます。でも、計算ができればそれでいいというような勉強をしてほしくないと、私たちは思っています。

まだ証明の学習をしていない小学生にとって、「説明する」ということは非常に難しいことだと思います。入試問題で考え方を聞く場合、問題を解く過程(途中式)を書かせるのが一般的ですが、それよりも文章で説明してもらう方が明確に問うことができ、採点の方針もはっきりします。そのため、昨年度に引き続きこのような形式の問題を続けて出題しました。

数学科・情報科/奥野 康弘先生

数学科・情報科/奥野 康弘先生

直径の長さと円周の長さを比較する

出来具合はいかがでしたか。

奥野先生 円周率とは、「円周」の長さが「直径」の長さの何倍かを表す数であることは、大抵は答えることができていました。ただ、「半径」や「長径」という間違いもありました。
理由の説明は、1割程度が無答だったと記憶しています。説明が苦手な受験生はそれなりにいました。
この問題は「直径の長さ」と「円周の長さ」を比較します。誤答で多かったのは、面積で何とか考えようとして全く違う計算をしたものでした。辺の長さが1の正三角形の面積は、無理数(分数で表せない数)を習っていない小学生は正確には求められません。また、3.14が頭からどうしても離れなかったようで、3.14を使って3より大きいと説明しようとして、論理が矛盾している解答もありました。

円周率の定義を説明のヒントにできたか

奥野先生 この問題はノーヒントで解くのは難しいと思い、設問文の冒頭で円周率の定義をあえて聞きました。さらに正六角形と円の図を示して、正三角形に分割しやすいように中心に点を付けて直径を引きやすくしました。正答率がさほど低くなかったのは、ある程度の受験生は誘導にうまく乗れたのだと思います。
一方、円周率の定義や図をヒントにして説明を考えようという発想に至らなかった受験生は、苦しい説明になっていました。柔軟にとらえてもらえるといいなと思いました。

浅野中学校 校舎

浅野中学校 校舎

事実を並べただけでは説得力に欠ける

受験生の「説明する力」をどのようにみていますか。

奥野先生 正六角形の周りの長さ6cm、円の直径2cm、正六角形の周りの長さは直径の3倍という数値を用いていること、その数値が何を表すものかわかるように書いていれば、基本的には正解です。
答案を見ると、ポイントを並べて“文章らしく”している解答が結構ありました。わかった数値を並べただけでは、要素は満たしても読み手が納得する説明にはなっていません。「円周の長さは、正六角形の周りの長さより長いため」というように因果関係がわかるように書いてもらいたいところです。
採点は、できるだけ受験生の考えをくみ取り、表現の稚拙さはある程度許容して、言いたいことがわかれば点数をあげています。

小学生のうちから説明することを意識しよう

2年続けて説明する問題を出していますね。

奥野先生 この問題は、円周率という「身近さ」と、文章で「説明する」という2つのポイントを1問で満たしています。どちらか一方でも問いたいですし、この問題のように両方のねらいを満たす題材が見つかったら積極的に出題したいですね。
中学・高校では説明する力が一層大切になります。小学生のうちから意識だけはしておいてほしいというメッセージも込めて、説明する問題を出しています。

従来の記述問題は後半にありました。説明問題を大問1に置くことで受験生の取り組み具合に変化はありましたか。

奥野先生 後半だと時間が足りなくて記述問題に手がつけられなかったり、難易度が上がった設問として出すため後回しにしたりということがありましたが、大問1の小問集合問題として出すことで取り組んでくれるようになっています。

創立者 浅野總一郎翁像

創立者 浅野總一郎翁像

インタビュー1/3

浅野中学校
浅野中学校1920(大正9)年、事業家・浅野總一郎によって創立。当初はアメリカのゲイリー・システムという勤労主義を導入し、学内に設けられた工場による科学技術教育と実用的な語学教育を特色とした。戦後間もなく中高一貫体制を確立し、1997(平成9)年に高校からの募集を停止。難関大学合格者が多い進学校として知られているだけでなく、「人間教育のしっかりした男子校」としても高い評価を受けている。「九転十起・愛と和」を校訓とし、自主独立の精神、義務と責任の自覚、高い品位と豊かな情操を具えた、心身ともに健康で、創造的な能力をもつ逞しい人間の育成に努めることを教育方針とする。校章は、浅野の頭文字で「一番・優秀」の象徴である「A」と「勝利の冠」である「月桂樹」から形作られており「若者の前途を祝福する」意味が込められている。
横浜港を見下ろす高台にある約6万平方メートルの広大な敷地の約半分を「銅像山」と呼ばれる自然林が占めている。Wi-Fi環境が整い、中学入学後に購入するChromebookで授業や行事、部活動を展開している。2014(平成26)年には新図書館(清話書林)、新体育館(打越アリーナ)が完成、2016(平成28)年にはグラウンドを全面人工芝とし、施設面が充実している。
中高6年間一貫カリキュラムを通して、大学受験に対応する学力を養成することが目標。授業を基本とした指導が徹底している。中学の英語では週6時間の授業に加えて、毎週ネイティブスピーカーによるオーラルコミュニケーションの授業もある。数学では独自の教材やプリントが使われていて、中身の濃い授業が展開されている。高校2年から文系・理系のクラスに、高校3年では志望校別のクラスに分けてそれぞれの目標に向けた授業を行う。進路選択は本人の希望によるが、理系を選択する生徒の方が多くなる傾向がある。全体的にハイレベルな授業が展開されているが、高度な授業展開の一方で、面倒見のよいことも大きな特徴。授業をしっかり理解させるために、宿題・小テスト・補習・追試・夏期講習などを行い、授業担当者が細かく目を配っている。一歩ずつゆっくりと、しかし、確実に成長させるオーソドックスな指導方針が浅野イズム。
「大切なものをみつけよう」ーこれは学校から受験生へのメッセージ。生徒にとって学校は、一日の内の多くの時間を過ごす場所。勉学に励むことはもちろん、部活動や学校行事にも積極的に参加して、その中で楽しいこと、嬉しいこと、悔しいことや失敗をすることも含めて多くのことを経験してもらいたいと考えている。学校でのそのような経験が、学ぶことの意味、みんなで協力することの大切さと素晴らしさ、生涯、続いていくような友人関係、そして、決して諦めない強い心を育んでいくことになる。浅野中学校、高等学校という場を思う存分活用して、人生において大切なものをたくさん見つけ、成長してほしいとの願いが込められている。
部活動と学習を両立させる伝統があり、運動部の引退は高校3年5~6月の総合体育大会、野球部は甲子園予選までやり通す。中学では98%の生徒が部活動に参加している。ボクシング、化学、生物、囲碁、将棋、ディベート、演劇が全国レベル。柔道、ハンドボールやサッカーも活躍している。また、5月の体育祭と9月の文化祭を「打越祭」として生徒実行委員が主体となって運営する。これをはじめ、学校行事も盛んで生徒一人ひとりが充実した学園生活を送っている。
「銅像山」は、傾斜がかなりきつく、クロスカントリーコースとして運動部の走り込みに使われるだけでなく、中学生たちの絶好の遊び場所となっている。また、各学年のフロアに職員室を配置してオープンにすることで、生徒と学年担当の先生が日常的に対話を行っている。こうしたメンタルケアにも力を入れている。