シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

浅野中学校

2021年11月掲載

浅野中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.思考の原点となる基礎固めに注力

インタビュー3/3

わかっていることをしっかり表現する

授業ではどんなことを大切にしていらっしゃいますか。

奥野先生 特に大切にしているのは、数学の基本的な力を身につけることです。当たり前のことをきちんとやりたいと思っています。例えば、正しく計算すること、証明の書き方、定義や定理の意味をきちんと理解して使いこなせるようになることなどです。これらの基本が身についてれば、難問にも食らいつくことができると思っています。
計算を適当に書くなど(自分が)わかっていればいいだろうではなく、きちんと書く練習をしています。表現力がまだ未熟な中学の始めから省略するのはよくありません。式の展開(カッコを開く)などを省略しすぎず、論理を追って、わかっていることをわかっている形で表現できることを目指します。

図書館「清話書林」

図書館「清話書林」

「忘れる」前提で復習を繰り返して基礎固め

奥野先生 せっかく勉強しても人間は時間が経つと忘れてしまいます。ですからタイミングを見計らって、基礎知識を思い出すようにしています。繰り返し復習することで理解が深まり、使いこなせるようになります。思考の原点となる強固な基礎を高3に上がるまでに築けるようにと思っています。

どんなことを繰り返し触れているのですか。

奥野先生 間違いやすい計算がそうです。例えば、項が3つ以上、頭にマイナスが付いている分数式の場合、マイナスの分配が2つ目の項までで、3つ目以降が分配されない間違いが見られます。
分配の法則で間違えやすいのは、項が多いとき、分数のときです。そうしたやりがちな間違いを、私は「気持ち(注意)が続かない」と表現して、「最後まで気持ちを切らさずに計算しよう」と生徒にしばしば呼びかけています。

小テストで間違えやすいところをチェック

そうした間違えやすいところに気づけるのは、生徒さん一人ひとりをよく見ていらっしゃるからでしょうね。

奥野先生 小テストをすると、そうしたことがわかります。「ここはこう考えてしまったか」ということを見つけると、繰り返さないように指摘して返します。特に低学年の担当教員は、小テストや宿題をとても丁寧にチェックしています。

德山先生 小テストの頻度は教員次第ですが、代数と幾何それぞれ少なくとも週1回(計2回)はやっていると思います。結構な頻度でやっている印象です。

奥野先生 小テストの時間がないときには、宿題の答えを配布しないで提出してもらい、「ここはやり直し」といったやり取りをすることがあります。通常、宿題は自分で丸付けをしますが、いずれの場合でもいい加減な取り組みを見つけた場合には再提出させます。考える大切さがわかれば自分でやれるようになるので、その習慣がつくまで、こちらも我慢強く取り組ませます。
宿題の量が多いときは多少目をつぶりますが、絶対に外せないところはしっかり取り組んでもらいます。そのあたりは指導の“押し引き”をしています。

宿題に追われて大変な生徒さんにはどのようにサポートしていますか。

奥野先生 宿題ができるかできないかは、自宅で学習時間を確保できるかどうかに左右されるので、学校にいる間のちょっとした時間も活用するようアドバイスしています。質問もできるので、宿題がはかどりやすいと思います。

德山先生 宿題は部活より優先されるので、部活をやりたい生徒は必死で宿題をしています。

図書館 掲示物

図書館 掲示物

オリジナルテキストで授業の質を担保

どんな教材を使っているのですか。

奥野先生 ベースとなるのは教科書や問題集ですが、ここは重点的にやりたいとか、ここはある程度飛ばしてもいいといったノウハウがあるので、効果的・効率的に学習できるようにオリジナルのテキストを使っています。毎年、担当教員が内容を手直しして引き継がれています。
オリジナルテキストを使うことで、どの教員が教えても授業の質が担保できています。このテキストを見ると、自分が気づかなかった他の教員の教え方を知ることができるので、指導法の勉強にもなります。

德山先生 他教科の教員から見て感心するのは、量が増えることなく質を維持していることです。改訂を繰り返しながら肥大化していない、ということは削除する見極めができているのだと思います。

生徒が興味を持ちそうな数学関連の書籍を紹介

数学のおもしろさを伝えるために、授業ではどんなことを心がけていますか。

奥野先生 私は生徒が食いつきそうな話題を、「ところで」と話したりしています。
教科としては、生徒が興味をもちそうな数学関連の書籍を紹介しています。あえて難しめのものも揃えてもらっています。「これって、どうなのかな」と投げかけて、「本を読んでみたら」と誘いをかけて、興味を持つきっかけづくりをしています。
本校は自習時間など図書館に足を運ぶ機会が多いので、興味のある生徒は自ら本を手に取ります。

受験勉強でおもしろい問題との出会いを楽しむ

数学の力を伸ばしている生徒さんに共通点はありますか。

奥野先生 私の印象ですが、自由な発想ができる、数学を楽しめる生徒は、数学の力を伸ばしているように思います。根っからの数学好きは、数学研究会に所属して自分で問題を作ったりして数学を研究しています。
学年が上がると問題が難しくなりますが、チャレンジするのが楽しいと思えるといいですね。大学受験は大変ですが、やりきった生徒から「あまりできなかったけれど、受験勉強楽しかったな」という声が聞かれます。受験勉強をしたから、おもしろい問題に出会うことができたと思うのでしょう。

中高6年間でどんな力をつけてもらいたいと思っていますか。

奥野先生 自分の進路を決める段階になったとき、進路選択の妨げにならないだけの数学の力を身につけさせたいですね。「数学ができないから」とは言わせたくない。「もう少し頑張ればいけるぞ」と励ませるように、生徒が困らないだけの力を身につけさせたいと思っています。

受験生のみなさんや保護者の方へメッセージをお願いします。

德山先生 中学受験という同じ苦労をして、同じ学校に入ってきた仲間は、その苦労をよく理解し、いずれは、自分の人生の味方になってくれるような友人になるかもしれません。そんな仲間にきっと出会えるように思います。今の頑張りは生涯の財産となりますから、ぜひ頑張り抜いてほしいと思います。皆様を応援しています。

浅野の中学入試は各科目、さらにその中の分野に偏りなく出題されていることがほとんどです。日頃から様々なことに興味を持って、苦手を減らしておくことが大切です。大勢の生徒さんが受験し、試験は1回限りで募集人員もまとまった数です。そのため、志願倍率は毎年同じぐらいで安定しています。ただし、同じ得点帯に多くの受験生がいるため、ちょっとしたミスによる失点が結果に大きく影響します。受験の終盤ではミスをなくすための意識を高めていくことが大切になると思います。今までの自分の努力を信じ、力を出し切れるよう頑張ってください。

図書館「清話書林」

図書館「清話書林」

インタビュー3/3

浅野中学校
浅野中学校1920(大正9)年、事業家・浅野總一郎によって創立。当初はアメリカのゲイリー・システムという勤労主義を導入し、学内に設けられた工場による科学技術教育と実用的な語学教育を特色とした。戦後間もなく中高一貫体制を確立し、1997(平成9)年に高校からの募集を停止。難関大学合格者が多い進学校として知られているだけでなく、「人間教育のしっかりした男子校」としても高い評価を受けている。「九転十起・愛と和」を校訓とし、自主独立の精神、義務と責任の自覚、高い品位と豊かな情操を具えた、心身ともに健康で、創造的な能力をもつ逞しい人間の育成に努めることを教育方針とする。校章は、浅野の頭文字で「一番・優秀」の象徴である「A」と「勝利の冠」である「月桂樹」から形作られており「若者の前途を祝福する」意味が込められている。
横浜港を見下ろす高台にある約6万平方メートルの広大な敷地の約半分を「銅像山」と呼ばれる自然林が占めている。Wi-Fi環境が整い、中学入学後に購入するChromebookで授業や行事、部活動を展開している。2014(平成26)年には新図書館(清話書林)、新体育館(打越アリーナ)が完成、2016(平成28)年にはグラウンドを全面人工芝とし、施設面が充実している。
中高6年間一貫カリキュラムを通して、大学受験に対応する学力を養成することが目標。授業を基本とした指導が徹底している。中学の英語では週6時間の授業に加えて、毎週ネイティブスピーカーによるオーラルコミュニケーションの授業もある。数学では独自の教材やプリントが使われていて、中身の濃い授業が展開されている。高校2年から文系・理系のクラスに、高校3年では志望校別のクラスに分けてそれぞれの目標に向けた授業を行う。進路選択は本人の希望によるが、理系を選択する生徒の方が多くなる傾向がある。全体的にハイレベルな授業が展開されているが、高度な授業展開の一方で、面倒見のよいことも大きな特徴。授業をしっかり理解させるために、宿題・小テスト・補習・追試・夏期講習などを行い、授業担当者が細かく目を配っている。一歩ずつゆっくりと、しかし、確実に成長させるオーソドックスな指導方針が浅野イズム。
「大切なものをみつけよう」ーこれは学校から受験生へのメッセージ。生徒にとって学校は、一日の内の多くの時間を過ごす場所。勉学に励むことはもちろん、部活動や学校行事にも積極的に参加して、その中で楽しいこと、嬉しいこと、悔しいことや失敗をすることも含めて多くのことを経験してもらいたいと考えている。学校でのそのような経験が、学ぶことの意味、みんなで協力することの大切さと素晴らしさ、生涯、続いていくような友人関係、そして、決して諦めない強い心を育んでいくことになる。浅野中学校、高等学校という場を思う存分活用して、人生において大切なものをたくさん見つけ、成長してほしいとの願いが込められている。
部活動と学習を両立させる伝統があり、運動部の引退は高校3年5~6月の総合体育大会、野球部は甲子園予選までやり通す。中学では98%の生徒が部活動に参加している。ボクシング、化学、生物、囲碁、将棋、ディベート、演劇が全国レベル。柔道、ハンドボールやサッカーも活躍している。また、5月の体育祭と9月の文化祭を「打越祭」として生徒実行委員が主体となって運営する。これをはじめ、学校行事も盛んで生徒一人ひとりが充実した学園生活を送っている。
「銅像山」は、傾斜がかなりきつく、クロスカントリーコースとして運動部の走り込みに使われるだけでなく、中学生たちの絶好の遊び場所となっている。また、各学年のフロアに職員室を配置してオープンにすることで、生徒と学年担当の先生が日常的に対話を行っている。こうしたメンタルケアにも力を入れている。