シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

頌栄女子学院中学校

2021年08月掲載

頌栄女子学院中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.電車の省エネ運行と物理の知識、どうつながる?

インタビュー1/3

電車に乗っていて疑問に思った電力の無駄

この問題の着想や出題意図を教えてください。

小島先生 電車は平坦なところを走っているようで、思いのほかアップダウンがあります。地下鉄のトンネルも平坦ではありません。
駅が低い場所にあると、下りで加速している分、停車するのに大きな力を必要とします。これはエネルギーの観点ではとても無駄なことをしています。電車に乗っていて「もう少し何とかならないのかな」と抱いた疑問を、入試問題に取り入れました。
地下鉄の場合、駅を地下の浅いところに設けて駅と駅の間をより深くすることで、電車が駅を発車すると下り坂で加速がつき、次の駅に近づくと上り坂で停まりやすくなります。このように線路に「すり鉢状の勾配」を付けることで、節電して走ることができます。

教頭/小島 和夫先生

教頭/小島 和夫先生

出来具合は予想以上。問題の流れにうまく乗れた

小島先生 調べると、すり鉢状の勾配を採用している鉄道会社が結構ありました。鉄道ファンなら知っているでしょうが、そこまで知っている受験生はまずいないだろうと判断し、出題することにしました。実際、知っていたと思われる答案は見当たりませんでした。
知っている受験生がいたとしても、知らない受験生が不利にならないように、この問題の前に、振り子の運動の問題と、斜面上の物体の運動の問題を解いて、わかったことを地下鉄の省エネと結びつけて考えてもらうようにしました。問題の流れに乗って出題の意図を読み取ることができれば、どうすれば電力を節約できるか、発想できるだろうと思います。

解答具合はいかがでしたか。

小島先生 こちらが想定していた以上によくできていました。
この問題は最後の問題です。本校の理科の入試問題は入試時間40分に対して問題数が多い(40問以上)のですが、他の問題も解いた上で、この問題にもしっかり取り組めた印象です。受験生は問題の流れにうまく乗って解いてくれました。

「最高速度」に言及した模範解答を超える答案も

具体的にはどんな解答がありましたか。

小島先生 模範解答と同程度に書けていれば満点には十分ですが、「水平なところを最高速度のまま走って」というように、最高速度に言及した受験生が何人かいました。
模範解答の図には最高速度になるところがほとんどありません。でも、最高速度になったらそのまましばらく水平に走り、それから上る方がエネルギーを有効活用できるし、速く走行できます。解答用紙の限られたスペースに、これだけ丁寧に説明できるとは思っていませんでした。こちらの想定をはるかに超える素晴らしい解答です。

頌栄女子学院中学校 校舎

頌栄女子学院中学校 校舎

書き込む駅を「3つ」にした理由

作図のポイントを教えていただけますか。

小島先生 駅と駅の間の線路がすり鉢状になっていれば、図の採点基準は満たします。
駅の数が2つの場合、内容をきちんと理解していなくても正解できてしまう可能性があります。駅の数を3つにしたのは、本当にわかっているかどうかを見極めるためです。
3つの駅はどれも同じ深さ(浅・浅・浅)にあること。誤答で多かったのは、2つ目の駅がすり鉢の底に位置する(浅・深・浅)パターンです。このように、振り子の運動経路を真似て全体としてはすり鉢状になっているけれど、内容は理解できていない答案が結構見られました。この間違いは想定どおりです。

振り子の問題で電車の往復運転を示唆

小島先生 1番目の駅より2番目を深く、3番目をさらに深くして、右肩下がりに駅を配置した間違いも一定数ありました。
「下りで加速する」ことを読み取るまではいい。けれど、電車は折り返し運転をしますから、下り坂だけというわけにはいきません。電車の運行のことを考慮していなかったのでしょう。この場合は途中点をつけました。

前の問題で、「C点を通るときの右向きの速さと左向きの速さ」について聞いています。これは電車でいえば折り返し運転に該当します。片道で考えるのではなく往復で考えようというヒントだったのかなと思いました。

小島先生 その通りです。振り子が行ったり来たりすることから気づいてほしいですね。
今思えば、まず斜面の運動で加速をとらえて、次に振り子で折り返しに気づかせる方が、誘導としては親切だったかもしれません。

このままでも誘導としては親切・丁寧だと思います。出来具合がよかったのは、受験生もそれにうまく乗ることができたのでしょうね。

小島先生 こちらの意図を読み取ってくれた受験生は、この問題に関しては満点が取れていたと思います。

頌栄女子学院中学校 校舎内

頌栄女子学院中学校 校舎内

インタビュー1/3

頌栄女子学院中学校
頌栄女子学院中学校岡見清致の信仰に基づく教育事業として、頌栄学校を1884(明治17)年に開校。1947(昭和22)年に中学・高校となり、64年に頌栄女子学院と改称。94(平成6)年から高校募集停止、中学・高校6年間を通した教育をおこなっている。併設校に英国学校法人のウィンチェスター頌栄カレッジ(大学)がある。
プロテスタント系キリスト教主義の学校で、聖書の教えを徳育の基礎におく。女性にふさわしい教養を身につけることが方針で、高雅な品位や豊かな国際感覚を備え、社会に奉仕貢献できる人間形成を志す。校名の「頌栄」は神の栄光をほめたたえるという意味。自慢の制服も同校の教育方針に沿い、国際感覚にマッチするものとした。言動、身だしなみについては日常きめ細かく指導している。帰国生との交流により、多様な価値観をも育んでいる。
区の保護樹林に指定される木々に囲まれた運動場など緑にあふれる校内には有名な建築家ライトの高弟の設計による記念堂をはじめ、礼拝堂と講堂をかねるグローリアホールなど施設も完備。ホワイトハウスと呼ばれる校舎や新体育館も近代的。南志賀高原と軽井沢に山荘をもつ。食堂は高校生から利用可(テイクアウトは中学生も利用可)。パン類の販売あり。
中学では英・数の多くがクラス分割などの少人数制授業。このなかでは高校で学ぶ内容も取り入れられている。英・数は時間数も標準より多い。聖書の授業も週1時間組み込まれている。中3の数学では習熟度別授業を導入。中3では卒業論文を制作、夏休み前から準備し、6000字以上でまとめる。高2からは文科と理科、さらに高3では理科コースが2つに分かれる。進路に応じた選択科目も多数用意されている。中学では主要教科を中心に昼休み・放課後に補習を実施、高校では長期休暇中にも受験講習を行っている。ICU、青学、早慶などに推薦枠があるのも大きな魅力だ。
2期制で、土曜日は休日としている。1日は礼拝で始まり、中学・高校とも週1回の合同礼拝もある。高校では礼法の授業がありしつけにも厳しい。タータンチェックのスカートの制服はあまりにも有名。校内にはイギリスの学校の雰囲気が漂い、生活スタイルも校舎内で革靴を履いたまま過ごす欧米流。クラブ活動ではハンドベルクワイヤーや弓道部が知られている。花の日礼拝、イースター、クリスマスなど礼拝形式の行事が多く、そのほかキャンプ、コ・ラーナーズ・デイ(研究発表会)、頌栄フィールド・デイ(運動会)、カナダとイギリスの語学研修など盛りだくさん。奉仕活動にも力を入れている。