シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

カリタス女子中学校

2017年05月掲載

カリタス女子中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.与えられた情報から考えを進めて、自分なりの答えを導き出す力を磨こう

インタビュー1/3

出来事のその後を考えてほしかった

出題意図からお話いただけますか。

大瀧先生 歴史を勉強するときに、普通は古い時代から行います。縄文時代に土偶が作られた。これは必ず勉強するところだと思います。ところが、弥生時代に進むと土偶の話は出て来なくなります。それを学校の授業で「弥生時代には土偶が作られなくなった」とは説明しないと思います。

歴史の勉強をしていると、「~が作られました」「~が始まりました」という話はたくさん聞きますが、「~がなくなっていきました」という話は意外と聞きません。幕末から明治あたりは特に、いろいろな人が出てきて何かをしますが、すぐにいなくなってしまいます。伊藤博文のような人は例外ですが、登場したものの、その後、二度と出て来ない人が多いので、私は学生時代に「あの人たちはどうなったのだろう」と気になっていました。流れを勉強するのが学校の授業ですし、授業時間が限られているので、仕方がないところもあるのですが、釈然としないまま現在に至っているため、入試問題に反映してみました。

おもしろい切り口ですよね。

大瀧先生 こういうことは自分だけでなく、生徒も同じように思っているのではないかと思うことが時々あります。考えてみれば、自分で調べればよかったのでしょうけれども、学生時代はそういうことも思いつかず、ただ疑問だけが残っていたのです。
ですから授業では、折に触れて、「これまではこうだった」「これはその後こうなった」などという話を付け加えるように意識しています。高校時代、世界史ではそういう疑問を感じなかったんですよね。世界史のほうが大まかで、自分でつなぎやすかったからかもしれません。日本史は細かくて、自分では補えなかったからなのかもしれないです。

カリタス女子中学校 校舎

カリタス女子中学校 校舎

なにか理由があったに違いない

大瀧先生 本題に入りますと、弥生時代になると土偶は作られなくなりました。「その理由を推測しなさい」という問題でした。私は古い時代の専門ではありませんが、調べるかぎり、縄文時代の日本列島に関しては、文字で残されているものがまったくありません。ですから、縄文時代に土偶が作られた本当の理由は確認できません。縄文時代、弥生時代の研究者の間でも、一致した見解はなさそうです。そもそも土偶を作らなくなったことが、研究テーマとして取り上げられていないようなのです。また、この問題を作っているときに初めて気づいたのですが、弥生時代にも作られていたようなのです。私は弥生時代になくなったと思っていたのですが、最初のうちは東日本で作られていたようです。そして急速になくなったということなので、水稲耕作の文化が広まるとともに、なくなっていったのではないかと推測しています。

このように、不確かなことの多い時代ですが、「縄文時代に土偶が作られた」ということは、受験生も勉強する機会があると思います。理由も勉強したとすれば、豊かな実り、豊かな生活、子孫の繁栄などが頭に残っていると思います。それは土偶の形や、出土したときの状況などから、何千年も後に生きる私たちが「たぶんこうだったのではないか」と推測していることに過ぎないのですが、ここまで考えると、おそらく間違いないのは、なにかしら必要があったから作られ、必要がなくなったから作られなくなったのだろうということです。調べてみると土偶は1万5000体くらい発見されているらしいので、それだけあるのなら、なにか理由があったに違いないと思うのです。

カリタス女子中学校

カリタス女子中学校

与えられた情報から考えを進めることが大切

大瀧先生 受験生がこの問題に取り組んだときに、まず問題文を読んで、次にAからFまでの文を読みます。また、自分が勉強してきた知識もあるので、それも思い出しながら答えを考えたと思います。そうすると、おそらく朝鮮半島から日本に水稲耕作が伝わった。その水稲耕作は西から東に広まった。すると土偶が作られなくなっていった。そんなことが導き出せたと思います。
大人向けの通史の本を読むと、縄文時代は長いので、草創期、早期、前期、中期、後期、晩期と分けて理解、研究されていますが、その中でも土偶が盛んに作られた時期と、作られなくなった時期があるようです。

<参考文献>岡村道雄『縄文の生活誌』(講談社)より

草創期 最古の土偶
早期前半 土偶は少数ながらつくられた
早期後半~前期前半 土偶が見られなくなる
前期後半
中期前半
中期後半 土偶の隆盛
中期末期 社会が急速に崩壊 ※気候の寒冷化
後期~晩期 土偶はさらに発達
晩期半ば 土偶の小型化・簡略化 ※再び気候の寒冷化(晩期末期~弥生初期)

大瀧先生 上記の参考文献を見ていただくと、土偶は縄文時代の最初に少し作られましたが、その後、ほとんど作られなくなって、中期ごろにたくさん作られるようになった、と書かれています。今回取り上げていただいた問題のBの文。ここでは「縄文時代の途中から終わりころにかけて」という書き方をしましたが、途中というのは中期を指しています。終わりのころというのは晩期です。そして、朝鮮半島から日本に水稲耕作が伝わった。それが日本列島の西から東に広まっていった。ここまではわかるだろうと思います。

そこからもう一歩考えを進めると、朝鮮から入ってきた知識、技術などは、新しいもの、新しい生活だったと思われます。それまでは木の実を取ったり、イノシシやシカなどを獲ったりして生計を立てていたと思うのですが、水稲耕作が伝わり、しばらくの間定住して稲を育てるという新しい生活になったのだと思います。それにより土偶は必要とされなくなったと考えていいのではないかと思います。それをもっと大胆に、短い言葉で表現すると「水稲耕作を必要とする新しい生活を営むようになった人たちは、土偶は役に立たないと考えた」おそらくこんなふうに言っていいと思うのです。これが、この問題文と自分の知識から、それほど無理なく導き出せる解答、ということになるのではないかと思います。

カリタス女子中学校

カリタス女子中学校

素朴な疑問は忘れずにあたためておこう

大瀧先生 出題意図ということでいうと、提示された文章をもとに、受験生なりに推測する力を見たいと思い出題しました。おそらく小学生は、この時代を学んだときに「どうして土偶はなくなってしまったのか」と思うと思います。学年が進んで、テストのために覚えなければいけない状況になると、だんだんそういうことを思わなくなってしまうのかもしれませんが、素朴な疑問は大切にしていてほしいと思います。これは歴史に限ったことではありません。他の教科でも素朴な疑問はあると思います。それは受験勉強の中では解決できないことだと思うので、そこで忘れてしまわないで、時々思い出して考えてほしいと思います。ひょっとすると、他の人が思いつかない新しい発見や新しいものの見方が、そこから生まれるかもしれないからです。素朴な疑問から、もし、新しい発見や新しいものの見方が発見できれば、非常に理想的な勉強のあり方の1つだと思います。

カリタス女子中学校

カリタス女子中学校

インタビュー1/3

カリタス女子中学校
カリタス女子中学校ラテン語で「愛」を意味するカリタス。カナダで、聖マルグリット・デュービルが創立したケベック・カリタス修道女会を母体に、1961(昭和36)年にカリタス女子中学・高校が創設された。62年に幼稚園、63年には小学校が創設されている。
多摩川沿いの閑静な住宅街にあり、緑にも恵まれた環境。2階建てアリーナ、人工芝の広いグラウンド、テニスコート、屋内プールなど、スポーツ施設も充実している。生徒に人気のある図書室は蔵書も豊富で明るくきれい。専用回線で常時インターネットに接続されているコンピュータ室も完備。聖堂や1200名収容の講堂もある。カフェテリアでは飲み物、パン・弁当を販売。06年4月に「教科センター方式」の校舎が完成した。
キリスト教の愛と真理の原理に基づく教育方針。祈る心、学ぶ心、交わりの心、奉仕の心の「4つの心」をもった人間を育成することを目指す。また、異なる文化を理解する力を育み、国際的なセンスを身につけるため、中1から英語とフランス語の2つの外国語を導入。
中1から古典学習や体系的な作文教育を行い、豊かな国語力を育成する。独自の教材も含めて進められる英・仏2つの外国語教育は密度の濃い内容。中1から2時間の授業が設けられた仏語は、高校で第一外国語として履修も可能で、大学入試にも対応する。英語は中学が週6時間のうちネイティブ教員によるオーラル1時間、さらに2016年度より始まった英語既習者クラスではネイティブ教員の時間が2時間ある。中1・中2の理科実験や、英・仏・数の授業は、1クラスを2つに分けたハーフクラスで行われる。補習は必要に応じて実施。高校2年から私立文系・国公立文系・理数の3コース制。大学受験に的を絞った意欲的なカリキュラムで、国公立大、難関私大に多数の合格者を輩出。現役進学率も着実に伸びている。
制服は「カリタスブルー」を基調としたスーツスタイル。放送を通じての「朝の祈り」で1日が始まり、全学年で聖書の心を学ぶ「カトリック倫理」の授業がある。奉仕活動を行うアンジェラスの会を中心に、教育里親の会、バザー、施設訪問など幅広いボランティア活動を展開。球技大会や体育祭、文化祭など学年を越えた交流があるほか、1月の外国語発表会は、学年ごとに劇、歌、スピーチなどで日ごろの語学学習の成果を発表する。中2で2泊3日のイングリッシュキャンプがあり、高1の希望者には、カナダ研修が実施されている。またターム留学やセブ島英語研修も参加者が増えている。高2の修学旅行は九州北部。クラブ活動は、運動部8、文化部14あり、中高合同で活動。