シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

カリタス女子中学校

2017年05月掲載

カリタス女子中学校【社会】

2017年 カリタス女子中学校入試問題より

みなさんは、日本列島で縄文時代に土偶がつくられ、古墳時代には埴輪(はにわ)がつくられたことを知っていますね。土偶は人間をかたどっていると考えられ、埴輪の中にも人物の形の埴輪があります。その一方で、弥生時代には、人間をかたどったモノはつくられなくなりました。では、弥生時代に土偶がつくられなくなった理由について、どのような推測をすることができますか。次の(A)~(F)の文を参考にしながら、あなたの考えを述べなさい。

*推測…わかっていることをもとに、「たぶんこうではないか」と考えること

(A)縄文時代の遺跡(いせき)のようすを詳しく調べると、縄文時代に入ると、地球上の氷が溶けて海の水が増えたことで、日本列島の海岸線が内陸の方に移動し、縄文時代の途中からは、海岸線が逆の方向に移動したことがわかる。これは、縄文時代の途中から気候の寒冷化が進んだことを示している。

(B)縄文時代の途中から終わりころにかけて、土偶がさかんにつくられるようになった。

(C)土偶は、女性をかたどったと考えられるものが多い。縄文時代の人びとは、何かを祈るために、何かの願いをこめて土偶をつくったのだろう。

(D)縄文時代の終わりころ、朝鮮半島に近い九州の北部で、水田を用いた米づくりが開始された。

(E)紀元前4世紀ころには、水田で稲を育てることを中心とする弥生文化が西日本に成立し、やがて東日本にも広まった。

(F)弥生時代には、日本列島で銅剣や銅鐸(どうたく)がさかんにつくられた。日本列島の人びとは、何かを祈ったり、感謝したりするために銅剣や銅鐸をつくったと考えられている。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、このカリタス女子中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例
  • 土偶は、縄文時代の中でも寒冷化が進み、生きていくのが難しかった時期に、子孫の繁栄や自然のめぐみへの願いをこめてつくられていた。弥生時代になると稲作が広まったことで、食料を確保しやすくなり長生きできる人も増えた。このため土偶を作る必要がないと考えるようになったと推測した。
  • 縄文時代の途中から寒冷化が進んだことで、狩猟採集が困難になった人々は、子孫の繁栄や食料が増えたりすることを祈って、人間の中でも特に女性をかたどった土偶をさかんにつくった。弥生時代になり稲作が広まると、祈り方や祈る対象、祈りの時に使う道具も変化していった。このため土偶は必要がないと考えられるようになったと推測した。
解説

設問には(A)~(F)に書かれた文章を参考にして、弥生時代に人間をかたどった土偶(人間をかたどったモノ)がつくられなくなった理由を推測していきます。(A)~(D)の文には、縄文時代について、温暖な時期から寒冷化が進んだことや、寒冷化にともなって土偶がつくられるようになったことが書かれています。(D)・(F)の文には、弥生時代について、稲作が日本列島に広まったことや、銅剣や銅鐸がさかんにつくられるようになったことが書かれています。(A)~(F)の文から具体的に読み取ったことをもとに、変化が生まれた理由を自分なりに筋道立てて推測することができるかがポイントです。

日能研がこの問題を選んだ理由

縄文時代や弥生時代について、遺跡や遺物の名や特徴を聞くといった知識の有無を試す問題は多くの学校で見られます。しかし、今回のカリタス女子中の問題は、知識の有無だけではなく、縄文時代にあった土偶(人間をかたどったモノ)が弥生時代になってからつくられなくなった理由を、資料をもとに自分なりに筋道立てて考える力が試されている問題です。このため、1つに決まった模範解答はなく、さまざまな解答が考えられる問題であるといえます。しかし、好き勝手に書けばよいわけではなく、問題に提示されている(A)~(F)の文から丁寧に情報を読み取ったうえで、自分が持っている知識と結びつけながら、変化の理由を推測していく必要があります。

歴史の解釈は変わり続けています。今後も、新たな遺跡や遺物の発掘などによって、私たちが学んできたことや、今の子どもたちが学んでいることとはまったく別の解釈が出てくることもあるでしょう。今教科書に載っていることを正しいものとしてただ受け止めるのではなく、さまざまなもの(情報)をもとに、筋道立てて考え(推測し)、判断するといったものの見方や考え方は、中学校に入ってからも、この先の将来でもずっと必要なことです。このような力が問題を通して試されていると感じたことから今回この問題を選びました。