シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

茗溪学園中学校

2015年01月掲載

茗溪学園中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.科学的な読み方「三読法」が授業のベース。積極的に発言しようとする生徒は伸びる!

インタビュー2/3

茗溪独自の三読法がベース

6年間の授業で大切にしていることを教えてください。

重光先生 中学生の現代文では、茗溪独自の読解法を指導しています。「三読法」と言って、要は3回読むのです。「精読」と「速読」に分けており、「精読」の「三読法」では、事件の始まり、クライマックスなど、場面分けを目的とする「構造読み」から入ります。班ごとに話し合い、意見を出させて、クラス全体で討議します。場面が決まると、次は「形象読み」です。一つひとつの言葉がもっている形象性に注目し、例えば「夕日」という言葉を肯定的にとらえればどのように読めるだろうか。否定的にとらえればどのように読めるだろうか。この場面ならどちらの読みがふさわしいだろうかと考えます。そのような「形象読み」の後に、文章全体の主題、つまり作者が一番伝えたいことはなにかを考えます。

国語科主任/重光智章先生

国語科主任/重光智章先生

古典は文化に親しむことが目的

神戸先生 中学の古典では、古典文化に親しむことを目当てに古典文学を読みます。ただ、文章を読むだけではなくて、映像を見たり、歴史の授業で習ったことを振り返ったりして、当時の生活様式や環境を楽しみます。現実には、古典文学を楽しむということは難しく、そこが悩ましいところです。

授業では文法も取り扱わなければなりません。そこで生徒がつまずいて、古典に苦手意識をもってしまうことも多いので、それをなんとか克服し、古典の楽しさを教えることを目標にしています。

中3の研修旅行(広島・京都)が日本文化の源流を知ることを目的にしています。テーマを一つあげて、それがどういうところから出てきて、どう伝わって、今に至るのかということを調べるので、当時の風習や生活を想像する手助けを、古典の授業の中でしたあげたいという思いで授業をしています。

大学受験対策にも結びつく力をつけることが難しい

神戸先生 高校では扱う作品の幅が広がります。漢文に興味を示す子が多いので、高1は漢文から入り、興味をもってもらったところで、歴史物語に入ります。男子にも興味をもってもらえるような作品を選び、高2あたりから「源氏物語」や「枕草子」などに取り組みます。それらの作品はなぜ今でも読み継がれているのか。どこがおもしろいのか。それを伝えるだけでは大学入試に対応できません。そこが葛藤です。いかに文法や速読なども交えながら、生徒のやる気を失わせずに、高3までもっていくことができるかが今の課題です。

茗溪学園中学校

茗溪学園中学校

小説は主題が深いものを選ぶ

使っている教材はどのようなものですか。

重光先生 中学生の間は普通の教科書がベースになります。ですから、我々が使いたい教材がたくさん載っているものを選んでいます。ただ、すべてはカバーできないので、教科書には載っていないけれど扱いたい作品は、シラバスに沿ってプリントにして渡しています。

どんな作品を取り上げていますか。

重光先生 小説では主題が深いもの。「形象読み」をしていくうちに、段々「見えてきたな」という実感を覚えるものを選ぶようにしています。中1は教科書にも載っている芥川龍之介の「トロッコ」、中2は太宰治の「走れメロス」、中3は教科書に載っている「故郷」。その前に、志賀直哉の「暗夜行路」の一場面を読ませます。高校の教科書に載っているような屋根の一場面のところを読ませて、「こんな主題になるんだ」と、生徒が「あっ」と思うような作品を選んでいます。高校生では芥川龍之介の「羅生門」や、高2では夏目漱石の「こころ」、高3では森鴎外の「舞姫」というように、段階を経て、少しずつ主題が重くなっていくように、教材を配列しています。

説明的文章の素材選びは苦労しています。「速読」でいかに速く要点をまとめ、筆者が言いたいところはどこかを見つける作業をさせているので、それにうまく合う文章や、中学生の間は論理関係が見えやすいものを選んでいます。

説明的文章でも「三読法」に取り組んでいるのですが、大事にしているのはその文章の評価です。「この論理関係はおかしいよね」「大学の先生が書いていてもこんなミスをするんだ」と、気づける力をつけてほしいと思っています。そして自分が文章を書く時に、自分にとって都合のいいデータばかりを並べるだけではダメだということを役立ててほしいと思っています。

開校当初から三読法が授業のベース

今日は「精読」の時間というように、決めて行うのですか。

重光先生 そうです。この話の事件の始まりはどこ、ということを1時間かけて討論させて、次の時間に、この話のクライマックスはどこかを決めていきます。ディベートが始まり、うまく機能していない班には助言をし、徐々に決まっていくので、それを黒板に書かせて、肯定、否定の立場で討論をします。

こうした授業になったのはいつからですか。

重光先生 開校当初からです。都留文科大学の大西先生が茗溪の国語のかたちを作ってくださいました。先生の「科学的読み」という研究がベースに、今も学会に所属している先生がいらっしゃるので、説明的文章の読み方に関しては少しずつ読み方を変えながら、今に至っているという感じです。

先生方にとっては、教師になって初めて知る読み方、教え方になると思いますが、大変ではなかったですか。

重光先生 最初は大変でした。発問の仕方とか、補発問をたくさん準備しておかなければいけないんですよ。子ども達から意見を引っ張り出す時に、「ここから何が言える?」と聞けば、当然シーンとなるわけです。こちらでかみ砕いてあげなければ出てこない時もあるので、教員はたくさんの補発問を作って、できるだけ意見が出やすいように工夫しています。

また、構造読みの討論では、子ども達が自由に発言するので、まずは肯定意見だけ、次は反対意見。それに対して再反論など、整理が大変な時もあります。

茗溪学園中学校 先生

茗溪学園中学校 先生

授業中に発言しようとしている生徒は伸びる

「精読」の時間はどの先生も同じようなことをするのですか。

重光先生 はい、そうです。1カ月、2カ月、ずっと同じ作品を読み続けているということもあります。その間に説明的文章の「速読」が入ってきたり、次の準教材の精読が入ってきたりするという感じですね。

授業の成果はいかがですか。

重光先生 授業中に一生懸命発言しようとしている生徒は力がついていると思います。授業で受け身になってしまうと伸びないのでバラツキはあります。「夕日から何が言える」と聞いた時に、最初は主観的でいいのですが、それからだんだん客観性、一般性を求めていきます。そこで主観でしか見ることができない子は、客観的な読みができないまま上がっていってしまうので、センター試験で解答を選ぶ時に、主観が入っている文章に入ってしまうと間違えやすいのです。そこはやはり客観性をもたなければいけないと思います。

高3までしっかり学習できれば、受験にも対応できるくらいの力はつくのでしょうか。

重光先生 最後の教材「舞姫」が終わった後はセンター演習になります。センター試験は対策が必要なので、選択肢の傷のつくり方を解説します。また、6年間学習してきたこと、つまり「構造読み」で大きな箱をとらえることとはどういう意味か。箱をとらえることがいかに大事という話をします。今の中3が入学する時にシラバスを大幅に変えたので、高3になる時にどんな成果が出るか楽しみです。

文理でクラス分けをしない

中学で入学する生徒さんと、高校で入学する生徒さんがいますが、クラス分けはどのようにしているのですか。

重光先生 本校はコース別をとっていません。文理のクラス分けもしません。高3は現代国語、情報、体育の授業はクラス単位で行いますが、それ以外はすべて選択授業で、学ぶかたちをとっています。

文理に分けると、卒業後に会う人が文系ばかり、理系ばかりになってしまいます。社会人になってから、いろいろな分野で活躍する人たちと会えるのが、本校のいいところだと思っています。

高校から入学する生徒には、入学式の前に一度来てもらい、茗溪の授業をレクチャーします。HR委員(学級委員)も来て、調理室で作った昼食を一緒に食べます。そこへ練習をしていたラグビー部員が「俺たちにも食わせろ」と言って、和に加わったりするので、入学式の前にすでに何人かとは顔見知りという状態でクラスに入っていきます。

茗溪学園中学校

茗溪学園中学校

インタビュー2/3

茗溪学園中学校
茗溪学園中学校1872(明治5)年創設の師範学校をはじめ、東京文理科大学、東京高等師範学校、東京教育大学、筑波大学などの同窓会である社団法人茗溪会が、1979(昭和54)年に中学校・高等学校を開校。以来中等教育批判に応える取り組みをする研究実験校として注目される。
知・徳・体の調和した人格の形成をはかり、創造的思考力に富む人材をつくることが教育理念。人類や国家に貢献できる「世界的日本人」の育成を目指す。自ら学び成長していく能力、Study Skillsを身につけさせる。通学生も短期の寮生活を体験するなど、共同生活を通じての人間形成を重視している。
筑波研究学園都市の最南端に位置し、広い校地にはグラウンド、屋外プール、テニスコート、バスケットコートなど体育施設も充実。全教室にプロジェクターが設置されているだけでなく、大教室や、天体ドーム、2つのコンピュータ室など、設備も機能的。近くに寮があり、約230名が生活。中学生は主に3人部屋、高校生は2人部屋。
生徒の将来を考えた教育構想から生まれた独自のカリキュラム。英語では外国人教師による少人数制の英会話などで語学力を強化。また、希望者は放課後に第2外国語として、フランス語・スペイン語・ドイツ語・中国語等を無料で受講できる。ほとんど全教科でコンピュータ利用の授業を実現するなど、情報教育にも力を入れている。中2~高3の英語・数学は習熟度別授業。高2から進路に合わせた選択履修となり、受験に向けた放課後の受験対策補習や夏期補習が本格的にスタートする。医学部など理系にも強く、海外の大学に進学する生徒も少なくない。
女子は剣道、男子はラグビーを校技として定め、冬には精神訓練のためそれぞれで寒稽古を行う。本物にふれる芸術鑑賞会、茗溪学園美術展、合唱コンクール、文化祭などは質が高い。学園内のいたる所に展示された生徒の作品を見ても、芸術への力の入れようがわかる。フィールドワークとして中1・中2はキャンプで観察や実習を行い、中3は沖縄での国内研修旅行で本格的な調査活動をする。高2ではシンガポールで海外研修を行う。クラブ活動はラグビー、剣道、テニス、水泳、バトミントン、美術、書道、無線工学部などが活躍。昼食は中学生が食堂で全員給食、高校生は寮生は給食、通学生は給食またはお弁当で、お弁当は教室でとる。世界各地からの帰国生が全校生徒の約22%以上在籍している。
平成23年度よりSSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)に認定され、近隣の筑波大学や世界の最先端の研究所群とさらに協力関係を深め、生徒の学習・研究活動のレベルのより一層の高度化を実現中である。