シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

駒場東邦中学校

2016年07月掲載

駒場東邦中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.小学校で学んだ知識を使って問題を読み解き、答えを導き出せる子がほしい。

インタビュー1/3

社会の一員として歩むための準備を行う。それが社会科

先生 本校では、すべての教科で「自分で考え、答えを出す習慣をつけること」と、「バランスの取れた能力を身につけること」を第一にあげています。その上で社会科では、社会の一員として歩んでいくための準備を行うことを目標に、主体的に調べて考える力の習得に力を入れています。世の中で起きていることに興味関心をもち、そのことに対して、身につけている基本的な知識をもとに深く掘り下げ、社会の一員としてどういうことができるかを考え、実行してもらいたいと思います。

その基本方針は、カリキュラムにも反映されています。中1から地理、歴史、公民、3つの授業がスタートし、完全に分断するのではなく、社会というくくりの中で関連づけながら授業を進めています。公民では、社会の一員という観点から、中学校に入り、クラスや学校の中での自分の位置づけや、どういう仕組みの中でどう学習していくか、あるいは相手の気持ちやルールなどを考えさせます。歴史、地理では、小学校で身につけた知識をより掘り下げます。単なる復習ではなく、新しく獲得する知識や情報とあわせて、「さまざまな角度」から、「もう一度考えてみよう」という提案を通して、「気づく」ことを促しています。

駒場東邦中学校/先生

駒場東邦中学校/先生

行事と絡めてレポートや発表機会も多数

先生 レポートや発表も、たくさん行っています。中学では、林間学校(中1・中2)、鎌倉見学(中2)、奈良京都研究旅行(中3)などの行事と絡めながら、主体的に調べ、考える力をつけていきます。

たとえば、中1では現地調査の仕方やまとめ方などを学び、さまざまな資料を活用できるようにします。中2では問い、仮説を設定し、現地調査を経て、文章にまとめることを重視しています。中3では再度自ら課題設定をして、先行研究と現地調査を行い、1年かけて、論文を完成させることにチャレンジします。主体的に調べ、考える力は、1回やったからといって身につくものではないので、段階を追って、繰り返し取り組むことにより、6年かけて必要な力を身につけられるようにと考えています。

入試問題にも社会科の考え方やメッセージを反映

先生 入試問題も、本校として入学してほしい生徒像が伝わるように、ここ数年は、総合問題として大問1問を出題し、いろいろなことを関連づけて出題する方法をとっています。社会科の中でも、「歴史が好き」「公民が好き」「地理が好き」と、それぞれ得意分野があると思いますが、科目を分断せず、「全体として考える」というスタンスで授業を行っていますので、必然的な構成だと思います。

大問1問形式は、いつ頃からですか。

先生 2002年度からです。いくつかの大問で構成するなど試行錯誤した時期もありましたが、他校の入試も参考にしながら、40分80点という条件の中で、今、本校が行う試験として最適なものを考えて、現在はこの形式に落ち着いています。

駒場東邦中学校 校門

駒場東邦中学校 校門

小6がもっている知識で立ち向かえる内容を吟味

入試問題を作る上で、もっとも注意していることはなんですか。

先生 この学校を目指す小学生へのメッセージとして、何を問うことが適切なのかを常に考えています。そのメッセージが、小学生の学習を変に歪めるものになってはいけないと思っていますので、特別な知識を問うような問題は出していません。毎年、小学校の社会科の教科書、すべてに目を通して、内容をチェックし、「小学校で学んでいる知識が身についているか。」「その知識を活用して考えることができるか。」「考えたことを表現できるか。」、そのような力を問う方向で問題を考えています。

大人が試行錯誤していることを小学生なりに考えてほしかった

先生 18歳選挙権についても出題していますが、時事問題をたくさんインプットしなければ対応できない問題ではないと思います。現在の政治システムは小学6年生で学びます。学んだ内容が現場でどう機能しているのかを聞いているのがこの問題です。「公約を掲げてもうまくいかない」ということは小学生でも理解できると思います。そこで、その理由を考えてみようというわけです。大人が試行錯誤していることを、小学生なりに考えてほしいと思いました。私たちは、6年間かけて、生徒が社会へ出るための支援をしていくわけですが、それと同じことを入試問題でも試みています。

駒場東邦中学校

駒場東邦中学校

求めているのは、自分で判断するために必要な知識

先生 本校では、知識の習得を求めていますが、それは問題に答えるための単なる知識ではありません。実生活の中で、自分で判断するために必要な知識です。ですから入試でも、もっている知識を駆使すれば答えられる問いを用意しています。はじめて見る資料が出題されるかもしれませんが、きちんと読み込み、よく考えて、答えを導きだしてください。

この問題も、選挙では社会におけるさまざまな問題が争点にされますが、いろいろな考えの人がおり、ズレが生じるというこの社会をより深く考える上での、きっかけになると思い、出題しました。

議論を重ねて、問題を精査

1つの問題をみなさんで作るとなると、議論はかなりあるのでしょうね。

先生 議論せずにできる問題はありえませんよね。例えば、大学受験では文系、理系に分かれますが、社会に出れば判然と分かれているわけではありません。渾然一体となっているものがほとんどなので、子どもたちは、社会から、あるいは自然界から、答えのない問題が投げかけられてくるわけです。私たちは常にそういうことを想定し、問題作りにも取り組んで現状に至っています。

(入試問題を作る時は)「また、この時期が来たな」という感じで、議論は白熱しますが、ある程度の共通認識をもって議論しているので、出すことになった問題は、私たちが出しておきたいものの中から選ぶことができていると思います。

駒場東邦中学校

駒場東邦中学校

条件を少し備えていれば部分点はつく?

先生 単答式の問題と記述式の問題がありますが、単答式は基本的な問題ですので、高得点者が多く、そこではあまり差がつきません。合格者と不合格者の間で差がつくのは、知識の応用と、表現力が問われる問題です。

この問題も、1問前で大事なことを聞いています。その内容と、問題文、さらに資料1からわかることも踏まえて書くことを求めていましたが、それができた受験生もいれば、早とちりをして、条件を十分に踏まえることができなかった受験生もいて、差がつきました。

今回、1つ前の問題もあったので、なんとなく答えを書けた気になってしまうという落とし穴はあったかもしれません。ただ、少数でしたが満点に近い解答もありました。限られた時間で見事だなと思いました。

完全ではなくても、部分点はもらえる、ということですね。

先生 部分点はあります。ちんぷんかんぷんの解答は0点ですが、問題文をよく読み、問われていることにしっかりと答えられている部分が少しでもあれば、部分点をつけています。

入学後に伸びるかはモチベーションの違いが大きい

満点を取るような生徒さんは、入学後も活躍されているのでしょうか。

先生 入試はとてもシビアです。狭い得点差の中に、多くの受験生が集中しています。それぞれに得意、不得意を埋め合って入ってきているので、入学時はフラットで、個人差が出るとすれば入学後だと思います。

教頭先生 入学後に伸びるかどうかは、生徒が持っているモチベーションの違いが大きいと思います。親も子も「これからだよ」という家庭環境の中で育っている子は、入学後もしっかり勉強に取り組みますが、駒場東邦に入ることを目標に勉強してきた子もいます。そういう子がいた時に、「そうではないよ」とやる気にさせていくのが、大切です。

先生 社会科が好きな子、興味をもっている子は、そのままでもかまいませんが、苦手意識のある子、関心が薄い子は、学ぶ環境が変わることを利用して、社会科に対するイメージや勉強の仕方をリセットして始めてほしいですね。入試を受けて「家に帰ってから勉強したくなった」「社会科に興味をもった」という子が入って来てくれるとありがたいです。

駒場東邦中学校

駒場東邦中学校

インタビュー1/3

駒場東邦中学校
駒場東邦中学校1957(昭和32)年4月、東邦大学の理事長であった額田豊博士が、当時の名門・都立日比谷高校校長の菊地龍道先生を招き、公立校ではできなかった夢を実現させるため、現在地に中・高を開校。71年に高校募集を停止し、完全中高一貫教育の体制が確立した。2017(平成29)年に創立60周年を迎えた。
神奈川、東京のどちらからも通学至便で、東大教養学部にも程近い都内有数の文教地区に位置。300名収容の講堂、6万9千冊の蔵書を誇る図書室、9室の理科実験室、室内温水プール、トレーニング室、柔道場、剣道場、CALL教室など申し分ない環境が整っている。職員室前のロビーには生徒が気軽に質問や相談をできるよう、机やイスを設置している。
先生、生徒、父母の三者相互の理解と信頼に基づく教育を軸に、知・徳・体の調和のとれた、科学的精神と自主独立の精神をもった時代のリーダーを育てることを目指す。年間を通じて行事も多く、とくにスポーツ行事などでは、先輩が後輩の面倒をよく見る「駒東気質」を培う。中1では柔道・剣道の両方を、中2・中3はどちらかを履修することになっている。
2004年から中学校では1クラス40名、6クラス編成に。「自ら考え、自ら行動する」習慣を身につけながら、各教科でバランスのとれた能力を身につけることが目標。英・数・理では特に少人数教育による理解の徹底と実習の充実をはかっている。中1・中2の英語と理科実験は分割授業。数学は中2(TT)・中3(習熟度別分割)・高1と高2(均等分割)の少人数制授業を行う。英語は、深い読解力をつけるために中3~高3までサイドリーダーの時間を導入。さらに高3ではネイティブ指導のもと自分の考えを英語で表現するコンプリヘンシブ・クラスなど独特の指導も展開している。文系・理系に分かれるのは高3になってから。中学生は指名制、高校生は希望制の夏期講習を実施する。
濃紺の前ホック型詰襟は、いまや駒東のトレードマーク。伝統的に先輩・後輩の仲がよく、5月中旬の体育祭では全校生徒が4色の組に分かれ、各色、高3生の指導の下、一丸となって競い合う。9月の文化祭は、多くの参加団体と高校生約200名で構成される文化祭実行委員会によって、一年かけて準備される。中学では林間学校、鎌倉見学、奈良、京都研究旅と探究活動が充実しており、高校の修学旅行は生徒によって毎年行き先が決められる。クラブは文化部16、体育部16、同好会15があり、兼部している生徒も多い。中学サッカー部・軟式野球部・アーチェリー部・囲碁部・陸上部・化学部・模擬国連同好会などは関東大会や全国大会に出場。アメリカ・台湾への短期交換留学制度もある。