中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

駒場東邦中学校

2016年07月掲載

駒場東邦中学校【社会】

2016年 駒場東邦中学校入試問題より

日本では、「主権者」である国民が選挙で選んだ代表が政治を行う方法がとられています。この方法で政治を行う場合に注意すべき課題について、問いに答えなさい。

(問)選挙の時、各政党は、様々な政治課題についてどのように取り組むかという約束(公約)をかかげ、選挙活動を行います。国民は自らの関心のある政治課題についての各政党の公約などを判断材料にして投票し、選挙後、各政党は、公約を実行しようとします。しかし、政策によっては、公約としてかかげていたにも関わらず、国民の賛同をなかなか得られないこともあります。
なぜそのようなことが起きるのでしょうか。その理由について、【資料1】からわかることをふまえて説明しなさい。

【資料1】

選挙の時に国民が判断材料にした問題(複数回答)(%)

1 景気対策 55.9
2 年金 48.6
3 医療(いりょう)・介護(かいご) 48.4
4 消費税 38.0
5 子育て・教育 29.0
6 雇用(こよう)対策 24.1
7 原発・エネルギー 23.6
8 財政再建 18.8
9 外交・防衛 17.4
10 震災からの復興 16.6

(明るい選挙推進協会ホームページ上の2014年総選挙時のデータより作成。上位10位まで。)

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この駒場東邦中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、出題意図についてのインタビューを見てみましょう。

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

例1 政党が重視し実行しようとしている公約と、国民が関心を持ち、選挙のときに重視した公約には、ずれがあるから。

例2 国民が選挙で投票する時に判断材料にする公約は、政党のかかげる公約のすべてはなく、一部であることが多いから。

解説

資料1からは、5割以上の人が「景気対策を」、5割近い人が「年金」「医療・介護」を投票するときの判断材料にしており、多くの国民の関心が上位3つに集中していることが読み取れます。このことをふまえて、次のような事例を考えてみてください。

「年金」にはとても関心があるけれど、「外交・防衛」にはあまり関心がない有権者がいたとします。この有権者が「年金」に関する公約に賛同して政党Aを選んだ場合、同じ政党Aがかかげる「外交・防衛」に関する公約に対して、どのような考えを持っていたと考えられるでしょう。「賛同はできないけれど、年金のことが最優先だから、外交については目をつむろう」という考えだったかもしれませんが、そもそも、「関心のない外交・防衛については公約そのものを知らなかった」かもしれません。どちらであったにせよ、投票する時にあまり判断材料にされなかった政策は、いざ実行しようとすると世論の大きな反発を受けることがあります。実行する段になって、はじめて関心が集まるからです。

有権者が、政党や候補者を選び、投票するという行動をとるとき、有権者はその政党や候補者が発信しているすべての情報を受け取って、判断しているわけではありません。多くの場合、ほしい情報だけ、関心のある情報だけを、意識的/無意識的に選択して受信し、判断しているのです。しかしながら、投票するということは、その政党や候補者を、主権者である自分たちの代表者として選んだということなのですから、「関心がないので知らなかった」ではすまされない側面があります。一方で政党も、有権者に受けのよい公約のみを強調し、賛同が得られそうにない政策はマニフェストに小さく掲載するだけというような手段をとっていたとしたら、「公約としてかかげていたのだから」ではすまされない側面があるということです。

日能研がこの問題を選んだ理由

選挙権年齢が18歳に引き下げられたことを受けて、2016年入試では、選挙に関する出題が数多く見られました。多くは、18歳という年齢そのものや、日本の選挙のしくみを問うものでしたが、駒場東邦中学校のこの問題は、受験生にとっておそらく初見であろう資料を使い、因果関係を説明する力を求める問題です。

資料中に見られる個々の政策については、特に細かい知識を必要としません。問題文と資料から読みとれる情報を結びつけ、「公約としてかかげられていたのに、なかなか賛同を得られないのはなぜだろう」という疑問に対する答えを、論理的に導き出します。求められるのは、情報を読みとる力と因果関係をつかむ論理性、そして、それを簡潔に伝える表現力だといえるでしょう。

また、この問題を解くことによって、受験生は、解き終わったあとにも「選挙」についてさまざまな角度から考えたり、疑問をもったりすると思われます。「何を判断材料として」「どのように代表者を選択し」「投票して終わりではなく、その後どうするのか」という、議会制民主主義の大きな課題に目を向けるきっかけになるという点でも、非常に魅力的な問題だと感じ、この問題を選びました。