逗開で誤解

  • Vol. 1430 : 2017/03/01

逗子開成中学校男子校

今年もたくさんの花が咲きました。
その形や色、香りは人それぞれ。
でもどの花々も、これから大地から栄養を吸い上げ、ときには冷たい雨を浴びながら、
それでもたっぷりの陽の光を受けて大きな実をつけていく。
それは一緒。
彼ら彼女らの今後が、本当に楽しみです。

さて、今年も行きました、入試応援。
2月1日から5日まで。
これはいつからか私たち中学入試に関わる者の年中行事になっています。
個人的には子ども達はすでに一人で志望校の校門をくぐる準備ができていると思います。
ですから、そこまで追いかけていく必要はないのでは、とも思います。
でも、行けば行ったで嬉しそうな子ども達の顔、顔、顔。
来てよかったと思うこと、多いです。
入試応援に「行く愛情」と「行かない愛情」。
どちらも“有り”なのかもしれません。

今年の5日は逗子開成中学の3次試験の応援に行きました。
毎年この日の私の行き先は“逗開(ずかい)”で決まり。
そう考えると、毎年この日はここに行く、そういう場所ってあまり思い浮かびません。
子どもの頃は、お正月やお盆休みに祖父母の家に親戚が集まるといったことが結構あった気もするのですが、
なるほど、祖父母が一人もいなくなったのは、もう随分前になりますか……。

失礼、“逗開”の話でした。
朝の7時です。
JRの逗子駅を出て、海の方へ向かって歩くのです。
鄙びた商店街がしばらく続くのですが、私のすぐ前を、Nかばんを背負った男の子とお母さんの後ろ姿。
どこか不安げな足取り。
いつもなら私、知らないおじさんを装って、顔を見られないように足早に抜き去り、
校門のところであたかも初めて会うような顔をして握手、激励します。
でも、集合時間から逆算しても親子の到着は相当早く、何か困っているのではないかと思い、
こんなことは滅多にしないのですが、驚かせないように後ろからそっと声をかけてみました。
話を聞くと、ちゃんと学校の場所も知っているし、集合時間も分かっているとのこと。
ほかの学校で合格も取っているけれど、一番行きたい学校は“逗開”だから早く来た。
そういうことでした。
どうやら私の心配性が、状況から、勝手に親子を不安にさせていただけのようでした。
そこからは明るく三人で話しながら学校まで歩きました。
遠目には私たち、幸せそうな三人親子に見えたことでしょう。

しかし5分も歩けば“逗開”です。
駅近の学校は、それ以上私に甘美な疑似親子体験を許しません。
校門にはすでに塾関係者で花道ができています。
お母さまがちょっとためらいがちに、「あの…」と、私の顔を覗き込みます。
私は「はい…」と、ハンフリーボガードのように返します。
別れの寂しさなんか少しも感じていませんよ、といった声で。
「あの……逗子開成中の先生ですよね…」
「え…」子どもがあきれたように母親に言います。
「お母さん、そんなわけないじゃん。
 どうして逗開の先生がボブ(日能研の授業担当者。仮名)を知ってるんだよ。
 日能研の先生って言ってたじゃん」

まったくその通りだ!
“逗開”の先生がボブなんか知ってるわけがありません。
少年よ、君は冷静だ。
きっと今日の試験は上手くいく!
私は彼の合格を確信しました。
そして5分間だけ、“逗開”の国語の先生かもしれないと思われていたことに、
ちょっぴりくすぐったさを感じもしました。
その後、自分が授業を担当する子ども達にも会えて、多くの合格にもつながりました。
そんな2月5日。
また来年もきっと、私は“逗開”です。
大好きな子ども達がたくさん通う、潮の香りのする学校です。

ちなみに日能研には、ジミーとかトニーとかマイケルとか、異国風の名前を騙る(語る)日本人が結構います。
かくいう私も、ハリーなんて呼ばれて喜んでいる一人です。

ハリー

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