シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

鷗友学園女子中学校

2020年05月掲載

鷗友学園女子中学校【社会】

2020年 鷗友学園女子中学校入試問題より

(略)
AIの登場は第4次産業革命ともいわれ、政治や経済に大きな影響を与えると考えられています。これまでも、日本国憲法制定時には規定されていませんでしたが、社会や経済の進展に伴い、新たに主張されるようになった権利があります。AIが普及(ふきゅう)し、社会に変化が起こると、新たな権利の保障が必要になってくるかもしれません。

下線部について。人間はAIとどう向き合っていけばよいのでしょうか。以下の文章を読んで、問いに答えなさい。

AIとは、膨大(ぼうだい)なデータをもとにコンピュータが状況(じょうきょう)に応じて自ら判断をする最先端の技術です。私たちの身近なところでも既(すで)に実用化が進んでいます。例えば医療の現場です。病気や異常がないかを見つけるため、膨大な数の画像診断(しんだん)をすることがあります。この作業を人間が行うと、どうしても病気や異常を見落としてしまうということが起こり得るので、AIを利用することで、高い成果を上げている例もあります。このようにAIが人間に取って代わることがありうる、といわれています。

(問)「シンギュラリティ」という言葉があります。AIが人間の知能を超(こ)えるとされる転換点(てんかんてん)のことです。この到来(とうらい)を2045年と予想している人もいる一方で、「シンギュラリティ」は起こらないという人もいます。
「シンギュラリティ」は起こらないと考える人は、なぜ、そのように考えるのでしょうか。AIにとって不得意であり、人間にとって得意だと思われることに触れながら、答えなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この鷗友学園女子中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

AIは、情報を累積し確率に基づき行動を選択するため、予想外のできごとへの対応が不得意であるが、人間は、何もないところから創造することや考えることが得意である。そのため、シンギュラリティは起こらないと考える。

解説

解答例では「予想外へのできごとへの対応力」を軸に理由が書かれていますが、これにかぎらず、さまざまな解答の書き方があるでしょう。問題中にしめされた文章には、AIが医療分野の膨大な数の画像診断で高い成果を上げているという説明があるので、その対になるような人間の得意なこと(ことばや人の気持ちを汲み取る)書くこともできそうです。決められたたった1つの解答ではなく、多様な表現が可能なこのような記述式問題は、近年増加傾向にあります。

日能研がこの問題を選んだ理由

中学入試において、AI(人工知能)の登場による影響やその活用に関する出題は、ここ数年増えてきています。高齢社会であり、人口減少社会でもある日本にとって、AIは人手不足解消の手段としての期待があります。一方で、AIが人間の仕事を肩代わりできるということは、多くの人間が仕事を失うことにつながるという不安の声もあります。このような社会背景をふまえ、AIと人間について、「得意・不得意の両方を考えた上で」、シンギュラリティが起こらないと考える理由を問いかけているのがこの問題です。

AIはどのようなことが得意か、そして、シンギュラリティとはどのような意味の言葉かなど、考えるために必要な情報は問題文中にあります。さらに、AIが不得意で人間が得意なことに触れるよう、記述する際の方向性もしめされています。受験生は、しめされた情報と持っている知識をフル活用し、自分なりの考えをその場で整理し、表現する力が求められます。また、シンギュラリティが起こることを前提にした問題やAIそのものについての知識を問う問題は他にもありましたが、AIと人間の得意・不得意の両面を考察し「どちらかがどちらかを超える構造」ではなく、「互いに不得意を補い合う」ことを示唆するような問題は、これまであまり見られませんでした。そうした意味で、この問題は、受験生それぞれの考えを大切にしている点や、AIと人間の共存という視点を提示しているという点で、新しさを感じます。

このような理由から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。