シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

芝浦工業大学柏中学校

2016年01月掲載

芝浦工業大学柏中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.自分たちで創り出す数学を目指して

インタビュー2/3

スタンスはみんなの算数・数学

生徒さんには、数学が好きな子が多いですか。

古宇田先生 数学が好きな子が多いように思います。

井上先生 校名に大学の名前が入っていますからね。高校は特に、芝浦工大をはじめ、理系に進むと決めて入ってくる子が多いと思います。

古宇田先生 芝浦工大にあこがれて入ってくる生徒には、その思いを大切にしてほしいと思いますが、中学から入学する生徒だと、将来の具体的な目標をイメージできている生徒はあまり多くありません。ですから、進路指導の中で文・理に偏らず分かれていくのは自然だと思っています。数学の立場で言うと、数学は理系の科目と思われがちですが、本来、数学は社会のいろいろなところにあるので、文系の生徒にとっても数学は大切な科目です。ですから、私の中では「みんなの算数・数学」というスタンスでいます。

数学科/井上教子先生

数学科/井上教子先生

大事にしているのは、一つの言語として書けるようにすること

授業で心がけていることはありますか。

井上先生 学校や数学科で、こうしてほしいというようなものはありませんが、先生方が、それぞれいろいろな思いをもって指導しています。細かいことでいえば、書き方から教えたり、幾何に関しても、中学の学習は大事ですので、手厚くしたり。それぞれが思い入れをもっていることを、授業の中に取り入れてやっていると思います。

古宇田先生 算数から数学に変わるところで、様々な表現につまずく生徒が多いので、一つの言語として正しく書けるように、ノート指導は意識して取り組んでいます。初めは言葉の型がないと書けないですから、まずそれを教えます。当てはめながらでも良いので、考えて説明する練習が大切です。これは中学時代にしっかり経験を積んでおかないと、あっという間に高校でつまずくんです。特に中学1年の数学の学びは、将来につながります。だからこそ、授業の中でいろいろな経験をさせようということは、みんな考えているように思います。

中1で関数のグラフを使ってのお絵描きに取り組む

古宇田先生 本校では、一人1台、タブレットPCを持っています。中1では関数のグラフを使って絵を描いたりしています。描きたい絵が決まると、こういう線がほしいと考えるんですね。例えば○をつくりたいから円の方程式というように、そのために必要な方程式をどこかからもってくるので、すごいなと思います。また、数学史の話を織り交ぜたり、おもしろい問題を授業の中に盛り込んだりと、先生方が個々に味のある授業を行っていると思います。

芝浦工業大学柏中学校 校舎

芝浦工業大学柏中学校 校舎

ICTの活用はバランスが大事

ICTの活用は進んでいますか。

井上先生 中学開校時からタブレットPCは持たせていますが、進んでいるかどうかはわかりません。グラフなどをポンと出して、そこから授業を進めていく方法もあると思いますが、ICTばかりだと手で書かなくなります。やはり紙媒体で見て、考えて、書いて……ということが大事だと思うので、織り交ぜていくことを考えると、数学のICT活用はそこまで進んでいかないというのが実情です。ただ、ある先生は、撮影した動画を生徒に家で見てもらい、それを前提に授業を進めたり、グループ学習をしたりということをしています。個々に任されているので、教員により異なります。

うまくいったものは、そのまま踏襲しています。物事を決めてから行うのではなくて、個々にいろいろチャレンジし、報告したものの中からいいものを選んで、みんなでやっていくというスタイルです。

数学科には若い先生が多いですか。

古宇田先生 そうですね。過半数が30代です。

井上先生 失敗を恐れずにやってみるという人が多いので、うまく回っています。

自分で経験し、考えることで「自分の世界」ができていく

古宇田先生は授業でどのような工夫をされていますか。

古宇田先生 私は反転授業の取り組みをしています。アクティブ・ラーニングがこれだけ大切だと言われている理由の一つは、自分の意見をうまく発信できない子が増えているからだと思うのです。私は数学という教科を通して、生徒のコミュニケーション能力を高めたり、発信することの楽しさを実感させたりすることが必要だろうと思って取り組んでいます。

昔、ある先生から「自分で想像できる世界の大きさが、自分の世界の大きさなんだよ」と教わったことがあります。想像というのは、自分の経験を通した思考によりつくられるんですよね。ですから、自分で経験し、考えることが「自分の世界」をつくることだと考えています。そして次の段階として、他の人の世界を覗いてみたり、他の人の世界とつながることで、自分の世界を広げることができる。それは、自分の意見を他の人に伝えて、共有するということと、人の意見を聞いて理解するということ。その力を今、きちんとつけていかなければいけないのではないかと感じています。それは、中学だから、高校だからということではなく、今の世代の子どもたち、みんなに大事なことなのだろうと思います。

芝浦工業大学柏中学校 制服

芝浦工業大学柏中学校 制服

授業準備により生徒の理解が深まっている

古宇田先生 反転授業だと、授業内で生徒同士が話す割合が増えます。アンケートを取ると、授業の統制が取れていないという結果が出るかもしれないですが、研修会などで他校の様子を見学させて頂くと、知的意欲の高い生徒達の授業は賑やかです。自習になると、とたんに静かになります。それを目指しているとまでは言えませんが、授業中に賑やかになることを、私はあまり止めたくありません。

先生の反転授業では、どの程度の事前準備が必要ですか。

古宇田先生 教科書を読んで来る程度です。ただ、それはそんなに簡単なことではないと思っています。理解する上での補助となるような動画をネット上にアップしたりもしています。私は現在高校の担当なので、スマートフォンで見る生徒が多いです。生徒たちは数学の予習ができるようになると、授業の見え方が全然違うようで、ちょっとした話にも反応してくれます。分からなかったものが分かったという、嬉しい声も聞くことができています。

生徒たちが創り出す数学を目指して

反転授業を取り入れるきっかけはどのようなことでしたか。

古宇田先生 一つは、私が赴任してすぐにSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定校になったことです。そういう取り組みの中で、こちらが与えて、飲み込ませて、はき出させる数学ではなく、生徒たちが創り出していく数学を見たことは大きかったと思います。課題探究などの活動を入れると、生徒の様子が従来の授業で見えるそれと、明らかに変わってくるんです。ですから、日々の授業の中でも生徒たちが主体的に数学をする機会を増やしたいなと。できるところから、無理のない範囲で取り組んでいます。

芝浦工業大学柏中学校 図書館

芝浦工業大学柏中学校 図書館

授業は学びの自治活動のよう

生徒さんに変化は見られますか。

古宇田先生 生徒だけでやらせると変わりますが、私が入ると、あまり変わらないんです。

アクティブ・ラーニングとはそもそも主体的な学びということですよね。そのため「授業の中で、いかに私が目立たないか」ということにこだわっています。勿論、こちらがイニシアチブをとることもありますが、活動はある程度のルールや規則を作った上で行います。学びの自治活動のようなイメージです。結果として生徒たちを見守る時間の割合が多くなりました。

数学への興味は、自分でやらなければ持つことはできません。友達と教え合うことで感化されることはあるかもしれませんが、最終的には自分です。そういう意味では、数学に対する興味・関心を高められる授業になっているかどうかはわかりませんが、学びへの興味・関心にはつながっていると思います。

インタビュー2/3

芝浦工業大学柏中学校
芝浦工業大学柏中学校芝浦工業大学は、1927(昭和2)年に有元史郎が創設した東京高等工商学校が前身。80年には芝浦工業大学柏高等学校(男子校)が、新しい高校教育を目指して創立。創立10周年には男女共学に。創立20周年を迎える99(平成11)年に中学校を新設した。大学は06年に豊洲へ移転した。04年に文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクールに指定された。
増尾城址公園に隣接し、自然環境が豊か。全校舎にLANを整備するなど施設面の充実も素晴らしい。
なかでも人工芝グラウンド、グリーンホール、ソーラーハウスプールは自慢の施設。そのほかグラウンド、カフェテリア、売店などを備えている。コモンスペースではインターネットに自由アクセス可。
「創造性の教育」「主体性の教育」「生きる力の教育」「感性の教育」「健康と安全の教育」の5つを教育方針の柱とする。
探究活動に力を入れており、生徒自らが課題を設定し、様々な困難を乗り越え、粘り強く取り組む経験を大切にしている。豊洲の芝浦工業大学中学・高校とは兄弟校。
きめ細かな指導と基礎学力の徹底が特色。一日の始まりは25分のモーニングレッスンで、読書、計算、英読の学習などにあてている。外進生とは高1まで別クラス。放課後は補習や上位者講習などを実施。付属校だが難関大学現役合格を目指したカリキュラム編成で様々な進路に応じたコースを選択することができる。
高校で20年以上の実績をもつ独自教科「総合学習」をさらに充実・発展させるため、中1から「ワールドデイ」を実施。環境・国際などをテーマに自ら問題を発見し、自分なりの答えを出す力を養う。高杖での中1グリーンスクール、中2の京都・奈良研修、中3のニュージーランドホームステイなど、体験学習の機会も多い。1人1台のノートパソコンをもち、中2からは全員が教材Webページ作りのコンテスト「Webコンテスト」に参加するのは、中学校開校時から続く特色の1つ。クラブ活動は、原則として月・水・金・土曜日の活動。野球、サッカー、吹奏楽、演劇、鉄道研究など18のクラブ・サークルがあり、一部を除き中高別に活動する。ノーチャイム制。