出題校にインタビュー!
芝浦工業大学柏中学校
2016年01月掲載
芝浦工業大学柏中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.入試問題はあとになっても覚えている。だからおもしろい問題を出したい。
インタビュー1/3
息子の一言が問題づくりのきっかけに
古宇田先生 この問題は、大問4の4番目の問題として出題しました。問題づくりのきっかけは、息子の一言です。息子が計算のことをまだなにも知らない当時、自宅の風呂場に九九の表を貼っていまして。子どもの頃って、風呂から上がる時に1から100まで数える、みたいなことをしますよね。うちでは、それを九九の表に替えて、読んで上がるのを日課にしていたのです。ある日、息子が「パパ、大発見した」とうれしそうに言うので、話を聞いてみると「九九の表にある九の段の数字の並びが、1の位と10の位で逆になっている」と主張するんです。本人にとっては世紀の大発見なんですよね。よく考えてみれば、九九は算数の大きな柱の1つですよね。九九の表を通して、色々な思考を経験して欲しい。日本で算数を学べば、記憶に残るものなので、これをどうにか題材にしたいなと思ったのがきっかけです。
数学科/古宇田大介先生
九九の表から発展させて4つの小問に
古宇田先生 ただの九九の表だけではつまらないですよね。なにかできるものはないかなと思った時に、100を超える数はないことに目を向けました。おそらく頭の中では、かけ算だけでなく、少し違うものも入れるかと思い、「ならば引いてみる?」というように広げていったのだと思います。
今回取り上げられた問題は、大問の最後の(4)なのですが、実は最初に思いついたのは、(2)<100ひく九九の表には85という数が2回現れます。それぞれの下にある数字はいくつですか。両方を答えなさい>でした。この問いの前に、考えるステップになるような(1)を設けたのですが、もう少し問題を広げたいと思い、中学数学の教科書を参考にして、今回の問題をつくりました。
問題づくりには対称性を意識した
古宇田先生 出題の意図としては、解説してくださったとおり、「100ひく九九の表と九九の表の往来」をどのようにするか、というところで、2つの対称性が頭にありました。
一つは交換法則に表れる対称性です。例えば2×3が3×2に等しいということなのですが、現在は、交換法則が成り立たない例を学ぶ機会がないんですよね。以前の高校生は「行列」という分野で、交換法則が成り立つことの大切さを経験することができた。今はその機会がなくなってしまったんです。一方で、交換法則というものを1つの「性質」として教え込む傾向がある。だからこそ子どもたちには、交換法則の大切さを感じる経験をして欲しいという気持ちがありました。今回の問題は答えが複数ありますが、交換法則による対称性に気がつくことが大切です。
もう一つの対称性は、問題に登場する十字形、また実際の問題(3)では長方形という形にあります。真ん中を中心に、両サイドの数字を足したり、引いたりするということです。小学生にとっては「対称」は線対称、点対称のことだと思っているかもしれません。対称というのは図形だけでなく、いろいろなところに潜んでいるということも分かってもらいたいと思い、問題に反映させました。
芝浦工業大学柏中学校
算数は面白いと思ってもらえる問題をつくりたい
古宇田先生 生徒たちは、入試の問題を覚えているものなんですよ。実は、私も中学受験をしたのですが、受験校の入試問題のいくつかは今でも覚えています。本校に入学してくる生徒たちにとっても、本校入試で出された問題は共通話題の1つになります。その意味でも、入試問題によるメッセージは、こちらが思っている以上に生徒たちへ届けられるものだと思っています。大人になっても覚えているかはさすがに分かりませんけれどね。
本校の算数の入試問題は、大問が3題含まれているのですが。その中には、特徴的な問題が必ず入っています。他に比べて特別に難しいということではなく、知識を要求するわけでもないのですが、面白いと思ってもらえる問題を出したいと考えています。中学校の入試問題は、良くも悪くもゴールとして意識されがちです。だからこそ、受験勉強の経験を通して、算数が楽しい、面白いと思ってもらえるような問題も出題したいと思っています。
受験勉強を楽しんできた生徒は高校で花開く
古宇田先生 最近分かってきたことなのですが、中学受験をした生徒は、中学までの算数と、中学からの数学のギャップに悩まされるのですね。しかし、高校生になるといろいろなものが花開いてくるんです。例えば高等学校の新しいカリキュラムに「整数の性質」というものがあります。中学受験の学びを通して、数の遊びを経験している子どもたちは、すごく元気になるんです。直前の関数分野で辛そうな表情をしていた生徒でも、整数の性質になると生き生きした表情で授業に参加します。そういう生徒たちは、おそらく中学受験の時に、おもしろい体験として数と向き合っていたのではないかと思います。今、受験勉強を頑張っている子どもたちには、楽しむということを大切にしてほしいです。
芝浦工業大学柏中学校 図書館
この問題の正答率は3割弱
古宇田先生 正答率はほどほどでした。受験生全員で、(1)(2)までは約8割。(3)が3割強。(4)は3割弱でした。恐らく(3)ができた子は、(4)もそれ程難しくなかったと思います。
(1)(2)は、「100ひく九九の表」の中で、出てくる数字を考える問題なので、その計算でルールに慣れてもらいながら、先ほどの対称性に気づいてもらう流れです。
(3)は、表の中で横に並んだ3つの数の和から、3つの数を考えさせる問題でした。多少、書き出すことを期待し、この問題を通して真ん中の数と、左右の数の関係が見やすくなるだろうと考えていました。そして3つの数ですから、割る3(真ん中の数は3つの数の平均値)ですよね。割る3に気づくことができれば、(4)での割る5にも気づくことができたのではないかと思います。割る5は、この問題の最後に乗り越える壁。割る5で真ん中が84、ということがわかれば、比較的スムーズに解けるのではないでしょうか。
カレンダーのように、足す7で、同じ曜日の日にちが分かるというのは慣れていると思うのですが、九九の表ではタテとヨコの両方から考える。この感じは、あまり経験がなかったかもしれませんね。
インタビュー1/3