シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

吉祥女子中学校

2015年10月掲載

吉祥女子中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.豊かな知識と思考力のバランスが取れた人材を育てる

インタビュー3/3

地理分野は物事を多面的にとらえる思考力が求められる

岡田先生 地理の統計は毎年更新されますが、趨勢が大きく変わることはそうありません。本校では、数値そのものを覚えるのではなく、統計データと知識を組み合わせて思考し、答えを導き出す力を鍛えています。例えば、中国内陸部で羊の放牧が多いのは乾燥した気候によるところが大きく、その地域に羊を食する習慣のあるイスラム教徒が多いことともつながります。
特に地理分野は思考力が強く求められ、分析力や判断力も必要です。知識がおぼろげでも、地形や気候、産業などの特徴をいくつか組み合わせると、正解にたどり着くことができるのは、地理のおもしろいところだと思います。生活感覚があるとか、ニュースをよく見ている、テレビの旅番組が好きといった生徒が高得点を取ったりするのは、地理が知識の体系よりも思考の体系が重要であることと関係しているからではないかと思います。
高3にはセンター試験の問題の中から、思考力が試される問題を宿題として週1回課しています。センター試験の問題は本当によく練られていて、思考力の重要性をひしひしと感じます。

吉祥女子中学校

吉祥女子中学校

地歴・公民の諸科目は相互の関連を大切に

小学生を見ていると、知識が“分野という壁”で分断されてしまっていて、地理分野の知識を歴史分野の知識とつなげることがなかなかできません。地理の気候には理科で習った気象の知識も使えるはずですが“社会科と理科は別物”と思ってしまう。それは教える上で課題の1つになっています。

岡田先生 私は高2の地理の授業の中では、「これは地学で習ったよね」とか「中学の地理で触れたよね」と振り返るようにしています。すると大抵の生徒は「そういえば…」と頷いてくれます。
高校では地理と世界史、日本史、および政経・倫理の相互の関連を重視して教えています。特に地理と政治・経済は環境問題など重なる部分が意外に大きいので、高1の政経の授業で、高2で習う地理分野の事柄にも触れるようにしています。シリアの難民問題のように今世界で起こっているニュースを取り上げる際は、電子黒板に地図を出してシリアの位置や周辺国との関係を確認するようにしています。少し脱線しますが、高1で習ったことが高2・高3の学習にうまくつながるように意識しています。

中3の公民や高1の政経で現代史的なことにも触れる

岡田先生 本校の中1・中2で地理と歴史を並行して学習しているのは、相互補完もありますが、高校のカリキュラムとのつながりを重視しているためです。中1で地理、中2で歴史を学ぶカリキュラムだと完全に分断されてしまいますし、本格的に地理や日本史、世界史を学ぶ高2までの間、少しでも間隔を空けないようにしているのです。中3の公民や高1の政治経済で現代史的なことにも触れて、高2につなげています。
地理はデータの読み取りなど理科的要素があることもあってか、理系の生徒は地理で受験する生徒が多いです。その際、歴史的な事柄がポッカリ抜け落ちないように、政経の授業で歴史的なことにも触れたり、苦手な民族や宗教の分野は夏期講習で思考するための知識を補強しています。

吉祥女子中学校

吉祥女子中学校

18歳選挙権スタートに向けて準備中

岡田先生 来年度から「18歳選挙権」がいよいよ現実になります。思想が偏らないように主権者教育を行うためのプロジェクトチームをつくり、準備を進めています。公民科を中心に、まず教員が新聞の読み比べを行いました。同じ選挙の結果でも見出しのつけ方がずいぶん違っていたり、社説も与党を擁護している立場もあれば批判的な立場もありました。生徒にどのように伝えるか、どんなものを素材として与えるかということを議論しているところです。
「投票するに当たってどのように選ぶか」というところまで踏み込んだときに、教員の言動が生徒の思想に影響しないように気をつけなければなりません。私は「個人的な考えだけれど」と前置きして自分の考えを伝えることがありますが、それが果たして適切な方法かどうか迷うことがあります。社会科以外の教員もクラス担任を受け持つので、HRでの話し合いを想定したガイドライン的なものも必要だと思われます。

伝える中身を濃くするには体系的な知識も必要

岡田先生 本校の建学の精神は「社会に貢献する自立した女性の育成」です。特にこれからの社会は、知識を備えるだけでなく、自分の考えを持ち、考えを表明したり、交渉したり、考えをまとめて説得力をもって相手に伝える力が必要です。それには体系的な知識の習得はやはり欠かせません。
単に意見をまとめるだけでは、議論をしても中身のないアピール合戦になっていしまいます。世界史や日本史、地理、政経などの知識があるからこそ、伝える内容をより豊かにでき、相手を説得することができるのだと思います。
現在、授業内容の充実について活発な議論を行っているところです。社会科では自由研究セミナーのようなときに古典を読ませるなどの案が出ています。発表やディベートはこれまでも行っていますが、もっと取り入れたいですし、夏期講習もよりアウトプットを取り入れる考えです。大学受験を視野に入れながら、現在求められているアクティブラーニング的な要素をどのように入れるか、バランスも含めてよりよい授業を模索しています。

吉祥女子中学校 図書室

吉祥女子中学校 図書室

インタビュー3/3

吉祥女子中学校
吉祥女子中学校1938年(昭和13)年に、地理学者の守屋荒美雄が創立。2007年(平成19)年より高校募集を停止し、完全中高一貫校となる。
「教育とは捧げる心、思いやる心、微笑む心」という設立者の言葉を心におき、「社会に貢献する自立した女性の育成」を目指している。なでしこの花を型どった校章には、「清く、美しく、強く、正しく」育つようにと願いが込められている。
教科指導では、知的好奇心に訴えかける学習指導を展開。国語の調べ学習、社会科のディスカッション、保健体育科での「性とは生である」の理念に基づく研究発表など、自分を表現する機会がたくさんある。理科の実験レポートでは、レポート作成の基礎から完成まで丁寧に指導。理系・医学部への高い進学実績へと結びついている。英語は中学1年~高校1年で『ニュー・トレジャー』Stage1~3、数学は『体系数学』などハイレベルなテキストを使用。高校3年では、受験対策学習に力を入れ、高い進学実績を上げている。高校2年生・3年生では、文系・理系・芸術系のクラス編成になる。2012年より、国公立大学志望者の増加に合わせて、高校2年生までは文系を国公立・私立に分けず、高校3年生で分けるようにした。
アメリカ、オーストラリア、カナダ、中国、韓国に姉妹校があり、語学体験で訪問するほか、1年間の留学制度もある。中学の音楽ではバイオリンが必修となっており、課外授業ではピアノや日本舞踊などが学べる。クラブは、弓道やサッカー、ソフトボール、テニス、陸上などが活躍。ボイスレスパフォーマンスは声のない演劇を行う珍しいクラブ。
図書館の蔵書数は6万8000冊で、CDやDVDなども充実。八王子には、運動会や部、クラブの練習や合宿で利用するキャンパスもある。