シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

サレジオ学院中学校

2015年06月掲載

サレジオ学院中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.多数決は果たして万能か?

インタビュー1/3

実際にクラスで起きたことをもとに作問

吉見先生 この問題は、実は私が受け持った中3のクラスで実際に起きたことをもとに作問しました。議題は違いますが、設定の数字はすべて実際の数字です。このとき、「この決め方はなんだかおかしい」とクラスで共有したことが、多数決による採決の可否を考えるきっかけになりました。

リード文を読んでまず思ったのは、「46人もいてなぜ挙手がたった8人なのか」ということでした。なるほど、実際の数字だったのですね。

社会科/吉見拓也先生

社会科/吉見拓也先生

大多数の意見ですべてを決めてしまってよいのか

吉見先生 私は常々、多数決で物事を決めるのが必ずしも民主的とは言えないのではないか、という問題意識を持っていました。生徒たちは何でも多数決で決めていて、多数決が万能であるかのようにとらえています。多数決は迅速で効率的な決め方のように思えますが、政治参加の手段として考えたとき、大多数の意見ですべてを決めることに疑問を持ってもらいたいと思い、この問題を出題しました。この話は授業で民主政治を説明するときの“鉄板ネタ”になっています。

リード文で「この決まり方はなんだかおかしい」と示して受験生を誘導していますが、「おかしい」という感覚を持ってもらいたいということで、あえて視点を限定しました。

この問題は与えられた条件をもとに、その場で考える問題です。このような状況になったらどうすればよいか、主体的に考えるきっかけになればと思います。他人任せにしないで、自分は何ができるかを考えることが、将来「一市民として何ができるか」いう視点を持つことにつながればと思います。

『全体の割合に対して』という視点で説明

吉見先生 ①と②どちらの問題も概ねよく書けていました。①の解答は、人数や割合の数字を出したり、「過半数」という言葉を使ったり、いろいろな表現で理由を説明していました。「挙手をした人数が非常に少ないから」「5人だけの意見で決めているから」といった答えが多く、作問の意図をくみ取ってもらえたと思います。「全体の割合に対して」という視点で指摘できていれば、点数をあげました。

設定の数字が極端だったので、受験生は「過半数の賛成を得ていないから」という方向だけでなく、いろいろな答えを考えられたと思います。

サレジオ学院中学校

サレジオ学院中学校

『挙手を呼びかける』という周りを巻き込む提案も

吉見先生 ②はさらにいろいろな解答がありました。模範解答は「代案を出す」になりますが、「与えられた中からベターなものに挙手をして、自分の考えを示す」という案も考えられます。現実の選挙で代案を出すのは難しい。「投票したい立候補者がいないから選挙に行かない」という人がいますが、「投票しない」のが一番いけません。とりあえずでも選挙権を行使して、一国民として自分の役割を果たせる大人になってほしいものです。

印象に残っているのが、「周りに挙手をするように呼びかける」という答えです。自分一人で解決しようとするのではなく周りを巻き込み、みんなでいいものをつくろうとする連帯感が伝わってきて、一理ある意見だと思いました。

クラスの一員=フォロワーの視点で解答

吉見先生 ②で「どのようなことをすれば良かったのでしょうか」と聞いたのは、「クラスの一員として何ができるか」という意味です。「用紙を配って何でもいいから案を出すように指示する」というように、案を出すシステムをつくる答えは的確な解答とはみなしませんでした。

学級委員ならばそうしたアプローチもあるでしょう。実際のクラスでは、再度話し合うにあたり学級委員が用紙を配ってみんなに意見を書いてもらい、それを元にたたき台を作ってみんなで議論して決めました。ただしこの問題は、「Aさんができること」を答えてもらいたいので、リーダーである学級委員とは立場が違います。ここではAさんという「クラスの一員=フォロワー」の立場に立って考えてもらいたかったのです。

サレジオ学院中学校 教室

サレジオ学院中学校 教室

インタビュー1/3

サレジオ学院中学校
サレジオ学院中学校ドン・ボスコ(1815年北イタリア生)が設立したサレジオ修道会が、1960(昭和35)年に目黒サレジオ中学校を創立。75年に川崎市鷺沼へ移転。91(平成3)年にはサレジオ学院へ改称。95年に港北ニュータウンに新築移転を果たす。大阪星光学院もサレジオ会により創立された姉妹校。
港北ニュータウン内に位置し、校地は約4万8千平方メートルの広さに及ぶ。そのなかにグラウンド、テニスコート、体育館、サブ・グラウンドを配するなど、校地の大半以上を充実したスポーツ用地が占め、大きな魅力のひとつとなっている。ほかにチャペル、ドン・ボスコシアター、サレジオホール(食堂)などの施設がある。
少人数の家庭的な雰囲気のなか、キリスト教精神に基づく情操教育を実践。週1時間の宗教の授業(中1は2時間)「朝のはなしの放送(人生の道しるべの話)」「カテキスタ(倫理・宗教教育を担当する人)」によるカウンセリング、生徒が自分らしく、いきいきと過ごせるコミュニケーションルームの設置などを通じて豊かな人間形成を目指す。
中学では学習姿勢を養うことを重点におくが、高3ですべての教科で演習中心の授業ができるようなカリキュラムを構成。英語は『New Treasure』を使用。中学の英会話も2分割授業を行うティームティーチングと、フィリピンと回線を結んで行うオンライン英会話を実施。高1までは4クラス編成、高2から文理分けし、6クラス編成として1クラスの人数を減らし、きめ細かな指導をする。補習は中学では英・数を中心に必要に応じて実施。夏期・春期講習は指名制・希望制で行い、高2・高3では約1週間の勉強合宿もある。大学受験も学校の授業だけで十分対応できる体制を整えている。夜9:00まで使用できる自習室がある。
サレジオ学院の基本方針「アッシステンツァ(ともに居ること)」のもとで明るく家庭的な校風が築かれてきた。学校行事は多彩で、四季折々のプログラムが用意されている。特に感謝祭、慰霊祭、クリスマスの集いは学校の個性が表れる。そのほか林間学校(中1)、スキー教室(中2)、研修旅行(中3卒業後、全員、イタリア)、フィリピンの語学研修(高校、希望制)、文化祭、秋季校外学習、マラソン大会など。クラブ活動は文化部6、体育部9、同好会5あり、活動は週3日。中学テニス部は2年連続全国優勝の快挙を成し遂げた強豪だ。独特なカテキスタは、サレジオ会員を中心とする先生のグループで、宗教の時間などを通じて生徒の心のケアに対応している。