シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

栄光学園中学校

2014年06月掲載

栄光学園中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.勉強の楽しさを、学内にとどまらず、多くの子どもに伝えたい。

インタビュー3/3

数学は苦手という生徒の約9割は思い込み

得意、不得意はいつから分かれるのでしょうか。

井本先生 これは、9割以上が思い込みがきっかけだと思います。自分は苦手、自分はダメだと思ってしまったら、そこで思考は止まります。粘りも出ません。小学校のどこかで、苦手だとか、できないとか、できた感動がないのに答えは合っているとか、そういうような状況に陥ると、勝手に苦手と思い込んでしまうのだと思います。

解決する方法はありますか?

井本先生 私は、生徒が間違えても絶対に怒りません。怒ると、生徒は答えを当てに行くので、それを避けるために、失敗は大歓迎という雰囲気をつくります。子どもは慣れるのも早くて、そういう雰囲気になると間違えることを恐れなくなります。

次は、楽しさですよね。おもしろい、やりたいという意欲を引き出します。そこは教材になるので、適切なものを与えていきます。

算数科/井本先生

算数科/井本先生

生徒が作った問題を期末試験に出すことも

先生自身はいつから数学を好きになったのですか。

井本先生 小学生時代からずっと好きでした。家での勉強は他の勉強を先に片付けてから、やっと数学ができる!という感じでした。栄光学園に入学し、5年間、同じ先生に教わりました。その先生は教えない先生でした。でも、(教材として)出す問題がすごいのです。感動しました。もう退職されましたが、先生に影響されて、友達と競うように問題を作っては、先生に見てもらっていました。

今はそれを生徒がしています。ある日、職員室に戻ると、私の机の上に「2014入試問題」が置いてあり、体裁が本物そっくりだったので焦りました。ここにあってはいけないものですからね。見ると、中1の生徒が表紙を似せて作ったものでした。彼らは問題を作ることが好きで、よく持ってきます。いい問題は授業で使ったり、期末試験に出したりします。その時は、必ず作問者の名前を載せるので、励みになりますし、自分で作った問題は絶対できますよね。ポイントも加算されるので、問題作りに一生懸命取り組む生徒がいます。

評価も工夫して生徒の学ぶ意欲をかき立てる

ポイントで評価しているのですか。

井本先生 はい。日々授業で問題を出して、解答を回収するので、そのつどポイントをあげています。できていればプラス10ポイント、できていなければマイナス4ポイント。「難問に挑戦」の場合はポイントが上がり、最短の提出日までに出せばプラス30ポイント。次の提出日ならプラス20ポイント。というように細かく規定を作っています。そして毎月、一人ひとりにポイント表を渡します。合わせて、自分がクラスの中でどの位置にいるか、おおよその見当がつく資料を渡しています。基本的に、遊び感覚で学べるようにしたいので宿題は出しません。宿題を出すよりもたくさん勉強している、という状況に持っていきたいので、こちらもチャレンジです。

栄光学園中学校

栄光学園中学校

入学当初のやる気を大切に、習慣づける

自主的に取り組む仕組みを作っているのですね。

井本先生 そうです。自主的にやったものには誇りを持つんですよね。私は中1、中2と、2年間継続して授業を担当することが多いので、中1の最初は「難問に挑戦」と言っても、少しやさしい問題を出すのです。入学当初の生徒はやるぞという気持ちでスタンバイしているじゃないですか。その意欲をしぼませないようにリードしていくと、毎回提出することが習慣になるので、出さずにはいられなくなります。習慣づけは意識して取り組んでいるところです。

「息子が12時すぎても問題を解いていて、『早く寝なさい』と言っても『明日までに出さないとポイントが減っちゃうから』と言って聞かないんです」などという話は、保護者からよく出る話です。仕掛け次第ですが、宿題を出すよりも回収率は高いと思います。この4月だけで、1009部のレポートが集まりました。それだけ彼らが勉強しているということです。

勉強の楽しさを、一人でも多くの子どもに伝えたい

そういう体制ができると、いろいろなことを仕掛けたくなりますね。

井本先生 授業中に、自分が生徒の前で話すのは10分、15分です。あとは生徒が問題を解いたり、教え合ったりしているわけですが、「図形センス」「きっちり論理」など、いろいろなシリーズの教材を一つの授業の中に織り交ぜて、退屈させないようにしています。その代わり、1回だけでなく、同じ問題を何度も繰り返し解かせるようにしています。

中1にアンケートをとると、「授業がおもしろい」と答える生徒が多いので、それが励みです。教えてできるようにさせるのではなく、「自分でやってごらん」という方向で行っているからだと思います。

私は年3回フィリピンに勉強を教えに行きますが、彼らは学ぶことに飢えているので、すごく喜ぶんですね。日本の子どもも、本来そうであるはずなのですが、子どもの試行錯誤に大人が手を出して、勉強をつまらないものにしてしまっています。自分一人で大きなことはできませんが、日本の養護施設でも教えていますし、教材開発にも力を注いでいます。できるだけいろいろなことにかかわって、「勉強は楽しい」ということを教えてあげたいですし、栄光学園にはそういう文化があるので、大事にしていきたいと思っています。

栄光学園中学校

栄光学園中学校

インタビュー3/3

栄光学園中学校
栄光学園中学校1947(昭和22)年、イエズス会運営の中学・高校として横須賀に創設。初代校長はグスタフ・フォス師。1957年に設立母体の上智大学から独立、学校法人栄光学園となり、1964年現校地に移転する。当初はしつけの厳しさで知られたが、1970年代からは進学校として一躍全国的に知られるようになった。
キリスト教的価値観に基礎を置き、「生徒一人ひとりが人生の意味を深く探り、人間社会の一員として神から与えられた天分を十全に発達させ、より人間的な社会の建設に貢献する人間に成長するよう助成すること」を教育理念とする。ただし正課として宗教の授業を設けたり、礼拝を義務付けたりすることはない。6年間完全中高一貫教育、通学時間の制限などを堅持している。
2017年、新校舎が完成した。低層2階建てで、2階部分は木造校舎。教室から容易に大地へ降りられ、人が自由に集えるスペースを設けられていることで、仲間や先生との交流を自然に育める環境づくりがされている。豊かな自然環境を生かしながら、先進のコンセプトを取り入れた「みらいの学校」である。約11万m2の校地は、首都圏私立中学校のなかでも有数の広さ。トラックフィールド、サッカーグラウンド、テニスコート、バスケットコート、野球場などを備える。そのほか、コンピュータルーム、聖堂、図書館などがある。丹沢札掛には山小屋がある。
中高6年間を初級・中級・上級の3ブロックに分け、各発達段階にふさわしい指導目標を掲げ、適切な指導方法を工夫しつつ教育を実践。決して「進学校ではない」としながらも、カリキュラムの内容はレベルが高く、進度も速い。英語は『ニュートレジャー』を使用。初級では日本人教師と外国人教師のペアで行う授業があり、中学2年~高校2年ではGTECの受験を義務付けている。高校1年では週1時間、必修選択の「ゼミナール」があり、中・韓・スペイン語の講座、マジック研究、料理研究、プログラミングなど、授業では扱わないテーマの講座も行っている。その中には、毎週異なるOBを招き、多角的に話を聞く講座もあり、放課後は他学年も聴講ができる。
イエズス会運営の学校独自の「中間体操」のほか、30kmを踏破する「歩く大会」など体を鍛える行事が多い。大船駅からの、通称「栄光坂」を通学することも鍛練の後押しになっているようだ。「愛の運動」と呼ばれるボランティア活動では養護施設などへの訪問や、クリスマスの施設招待など、カトリック校らしい多岐にわたる運動を実践。
課外活動としての聖書研究会への積極的な参加も呼びかける。フィリピンの姉妹校との交流は単なる語学研修ではなく、アジアの国に住む人とのふれあいから、自らを振り返り、成長する機会としている。また、イエズス会の運営する大学のボストンカレッジで、アメリカの高校生とともに学ぶカトリック・リーダー研修もある。クラブ活動は原則として全員参加。活動は週2回だが、工夫して熱心に活動している。