シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

栄光学園中学校

2014年06月掲載

栄光学園中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.子ども自身の力で、解き方をひもとくことができる力を育もう。

インタビュー2/3

『数学は定義が大事』と教えることにメリットはない

授業でも対話が中心になりますか。

井本先生 大切なのは生徒を観察すること。生徒の成果物を見ること。それを使って授業を行うことだと考えています。腕のいい先生は、決まって生徒の解答をよく見ています。いくら先生が別解を考えて「こんな解き方もできるよ」と見せたところで、生徒自身が解けるようにならなければ意味がありません。

大学で数学を学ぶと、数学は定義が大事だと思い込みがちです。だから教員は「数学は定義が大事」と教えますが、子どもの学ぶ順序からするとおかしいのです。

小学校の先生は、生徒基準で教えています。まず、惹きつけて、どういう順に進めれば、小学生がスムーズに取り組めるかどうかを細かく考えています。その視点を中高でも活かさなければいけないのですが、中学生には「定義はね」「方程式はね」「文字はね」と、数学の概念で定義から入ってしまうので、消化できない生徒をつくってしまうのです。

例えばaの2乗×aの3乗は、aの(3+2)乗なのか、(3×2)乗なのか。できる子は、a×a×a×a×aだからaは5個と、具体的に置き換える作業を自然としていると思います。そういう具体・抽象の行き来をしながら、理解を深めさせることが大事だと思います。

算数科/井本先生

算数科/井本先生

教員の間で授業をオープンにし、切磋琢磨する。それも栄光学園の文化

授業は先生の裁量に任されているのですか。

井本先生 はい。これも本校の特徴だと思うのですが、先生方の間で「僕はこうやるよ」というような、授業の情報交換を頻繁にやっています。これは数学科に限ったことではなく、どの教科もそうだと思います。研究会といった堅苦しいものではなく、「授業を見せて」「見に来ない?」というようなやりとりが日常的に行われているので、それはいい文化だと思います。

井本先生はどんな授業をされているのですか。

井本先生 授業で扱った問題は、基本すべて僕が直接正答か誤答かをチェックします。その日のうちに解答を示さず、授業中にできなくても、家で解いて提出すればよしとしています。回収した解答をまとめて、プリントを作り、次の授業に彼らの正答・誤答を示す。その繰り返しです。僕の解答は示しません。

教員は忙しいため、解答を見ることを省きがちですが、学校は多くの生徒の情報を集めることができます。その情報を次の授業に活かさない手はありません。期末試験で答案を見て分析しても、次にその分野をやるまでは使えないので、スピーディーに現状を把握し、活かすことを心がけています。

授業の準備に時間をかけることで、余裕が生まれた

井本先生 授業は教員の仕事です。だからいろいろなことを想定して準備をします。それが余裕につながっていると思うのですが…。私も若い頃は、授業が想定外の方向に行きそうになると、授業をコントロールしたくなりました。昔の授業を考えると恥ずかしいです。

変わるきっかけがあったのですか。

井本先生 授業を変えようと思ったのは、初めて高3を担当した時です。受験期に「問題を解いたのですが、これで合っていますか」と持ってくるので「どこがわからないの?」と聞くと、「どこが」というよりも「この答えが合っているかを知りたい」という生徒がたくさんいました。「どこがわからなかったのか」と聞いても、答えられない彼らにとまどいを覚えました。「ここで覚えたやり方を使ったけど、それでいいか」と聞くのです。きちんと理屈を理解して問題を解いているわけではない彼らが東大に入っていくのを見て、この状況はよくないと思いました。翌年、中1を担当することになったので、ここで徹底的に自分で考えることを鍛えようと思い、生徒のつまずいているところを日々チェックする、現在の方法に変えました。

栄光学園中学校 校舎

栄光学園中学校 校舎

生徒自身で難問を突破する力を育む授業に着手

井本先生 その時にもう一つ引っかかったのは、「解答を見ればわかるけど、初見でそれを自力で解くことができない」という声が多かったことです。我々が解き方を教えた時に、生徒はやり方を学んで理解しても、難しい問題を自分で突破する力は習得していないのです。そこに気づいた時、自分がそうした力を育むことに注目していなかったことを反省し、どうすれば突破する力がつくのかを考えました。

具体的な方法を思いつかなかったので、生徒に問題を解かせる、作業をさせる、ディスカッションをさせる、考えさせるなど、できるだけこちらが手を出さないようにして、生徒を観察しました。そして、彼らのレポートから誤答を拾い集めてよく見ると、いろいろな段階でつまずきがあることに気づきました。

特徴的だったのは、証明をする時に、提示されている数値などを使い、頭から突っ込む子が多いことでした。それは悪いことではありませんが、目的地へ行く時に、車をやみくもに発進させるようなもの。できる子はどうしているかというと、目的地(終点)を起点に、この道へ出るには、この道を通って、というように逆算しながら、方針立てをするのです。

生徒自身が試行錯誤して、はじめて突破する力が育まれる

井本先生 この方針立てが、突破する力であると考えます。小学生に当てはまるかどうか、わかりませんが、中学生はそこを見てあげると、すぐに成果が出ます。ただ、最初から「方針立てが大事だよ」と言っても、生徒の耳に入りません。生徒自身が自分で試行錯誤し、やってもやってもできないことを経験させて、生徒が「なぜできないのか」を考え始めた時に、「方針立てを大事にしてごらん」と言うと、腑に落ちるのです。

私は中学生の幾何を担当していますが、早めに定理を教えてしまうと、別解など出てきません。定理がわかると、試行錯誤をしなくなってしまうので、定理の活用を中心に教えるのではなく、今ある道具でどう解けるかを考えさせます。そこが数学のおもしろいところだと思います。

栄光学園中学校 グラウンド

栄光学園中学校 グラウンド

小学生を指導する先生にも、突破する力に注目してほしい

小学生に、算数を学ぶ上でのアドバイスはありますか。

井本先生 子どもに要求はしません。「こうしてください」といっても、できないですし、我々が「こうしてください」ということで、そこにこだわってしまう弊害があるからです。強いていうならば、小学生を指導する先生に、突破する力をつけるための工夫に向けてほしいですね。

子どもは、教える人が大切にしていることに、思い切り影響されます。自分たちの反省も含めて、子ども自身で突破する力を育むことが大切であることを、教育に携わる人の間で共有していければ、いい状況になっていくと思います。

インタビュー2/3

栄光学園中学校
栄光学園中学校1947(昭和22)年、イエズス会運営の中学・高校として横須賀に創設。初代校長はグスタフ・フォス師。1957年に設立母体の上智大学から独立、学校法人栄光学園となり、1964年現校地に移転する。当初はしつけの厳しさで知られたが、1970年代からは進学校として一躍全国的に知られるようになった。
キリスト教的価値観に基礎を置き、「生徒一人ひとりが人生の意味を深く探り、人間社会の一員として神から与えられた天分を十全に発達させ、より人間的な社会の建設に貢献する人間に成長するよう助成すること」を教育理念とする。ただし正課として宗教の授業を設けたり、礼拝を義務付けたりすることはない。6年間完全中高一貫教育、通学時間の制限などを堅持している。
2017年、新校舎が完成した。低層2階建てで、2階部分は木造校舎。教室から容易に大地へ降りられ、人が自由に集えるスペースを設けられていることで、仲間や先生との交流を自然に育める環境づくりがされている。豊かな自然環境を生かしながら、先進のコンセプトを取り入れた「みらいの学校」である。約11万m2の校地は、首都圏私立中学校のなかでも有数の広さ。トラックフィールド、サッカーグラウンド、テニスコート、バスケットコート、野球場などを備える。そのほか、コンピュータルーム、聖堂、図書館などがある。丹沢札掛には山小屋がある。
中高6年間を初級・中級・上級の3ブロックに分け、各発達段階にふさわしい指導目標を掲げ、適切な指導方法を工夫しつつ教育を実践。決して「進学校ではない」としながらも、カリキュラムの内容はレベルが高く、進度も速い。英語は『ニュートレジャー』を使用。初級では日本人教師と外国人教師のペアで行う授業があり、中学2年~高校2年ではGTECの受験を義務付けている。高校1年では週1時間、必修選択の「ゼミナール」があり、中・韓・スペイン語の講座、マジック研究、料理研究、プログラミングなど、授業では扱わないテーマの講座も行っている。その中には、毎週異なるOBを招き、多角的に話を聞く講座もあり、放課後は他学年も聴講ができる。
イエズス会運営の学校独自の「中間体操」のほか、30kmを踏破する「歩く大会」など体を鍛える行事が多い。大船駅からの、通称「栄光坂」を通学することも鍛練の後押しになっているようだ。「愛の運動」と呼ばれるボランティア活動では養護施設などへの訪問や、クリスマスの施設招待など、カトリック校らしい多岐にわたる運動を実践。
課外活動としての聖書研究会への積極的な参加も呼びかける。フィリピンの姉妹校との交流は単なる語学研修ではなく、アジアの国に住む人とのふれあいから、自らを振り返り、成長する機会としている。また、イエズス会の運営する大学のボストンカレッジで、アメリカの高校生とともに学ぶカトリック・リーダー研修もある。クラブ活動は原則として全員参加。活動は週2回だが、工夫して熱心に活動している。