シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

捜真女学校中学部

2016年07月掲載

捜真女学校中学部【国語】

2016年 捜真女学校中学部入試問題より

次の文章を読み、後の問いに答えなさい。

(略)

あきは、たしかに、この答えはまちがいだとおもう。あきは、もういちど、算額の問題をよみなおした。
「今、半円ノ内ニ、図ノ如(ごと)キ〈注:ような〉勾股(こうこ)形(直角三角形)トニ円アリ……」
それは、半円に直角三角形を内接させ、この直角三角形の内接円と、弓形内にえがいた最大の円があいひとしいときの外接円〈注:外側の円〉と小円の半径の関係を問う問題である。
三之介は小円の半径を四寸〈注:約十二センチメートル〉として、外接円の半径を一尺二寸〈注:約三十六センチメートル〉という答えをだしていた。
あきは、この問題をまえに父からだされて解いていた。そして、このばあい、小円の半径の十三倍が、外接円の半径の四倍にひとしいという関係がなりたつことをたしかめている。
小円の半径が四寸ならば、外接円の半径は、一尺三寸でなければならない。三之介のだした答え 一尺二寸は、あきらかにまちがいである。
あきはそれを、小声ながら、はっきりとしたことばで説明した。
「なに?」
三之介は、はじめ、冷たくわらって、あきのことばをきいていたが、とちゅうから顔が青ざめてきた。
三之介も、算額をあげるほどの自信のもちぬしであった。その学力はかなりの水準に達しているので、あきの指摘(してき)に、じぶんのまちがいをすぐ気づいたらしい。くちびるをかみしめて、問題をにらみつけていた。
青山が、おどろいてささやいた。
「水野、まさかあの娘のいうことが正しいのではないだろうな」
「いやあ、それが、どうもおかしいのだ。いや、どうもよくわからなくなってきた。頭痛がする。平左、この額は当分かかげないように、寺にいっておいてくれ。あとはたのむぞ。青山、ゆこう」
そそくさと、人ごみの中へまぎれいった。

(略)

(遠藤寛子『算法少女』筑摩書房)

(問)文中の算額にえがかれている図形として、ふさわしいものを次のア〜オの中から一つ選び、記号で答えなさい。

ア

イ

ウ

エ

オ

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この捜真女学校中学部の国語の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

解説

江戸時代を舞台とした物語のひと場面にある、算額の問題に対する登場人物の言動を手がかりにして考えていきます。その際、「半円」「直角三角形」「円」「弓形」といった算数の言葉を読み取り、算額にえがかれた図形をイメージしていくことが大切です。

登場人物であるあきが「今、半円ノ内ニ、図の如キ勾股形(直角三角形)ト二円アリ」と、算額の問題を読みなおした部分があります。この部分を読むと、この算額には「半円」の中に、「直角三角形」と「二つの円」が書かれた図形が載せられていることがわかります。これらの図形が具体的にどのようなものであるのかをはっきりさせるために、次の文の詳しい説明に目を向けましょう。ここには「半円に直角三角形を内接させ、この直角三角形の内接円と、弓形内にえがいた最大の円があいひとしいとき」とあります。この、「半円に直角三角形を内接させ」という部分を明らかにすると、「半円の内側に直角三角形が接する」様子であると考えられます。「内接」という言葉は小学校では学びませんが、熟語のつくりに着目すると、「内側に接する」ということではないかと予測がつきます。

さらに、「直角三角形の内接円」は、「直角三角形の内側に接する円」と予測がたち、「弓形内にえがいた最大の円があいひとしいとき」とは、「弓形の内側にある円の大きさが、直角三角形の内側に接する円と同じ大きさであるとき」と予測することができます。このように、物語に書かれている「具体と抽象」の部分をとらえ、さらに、そこに書かれている言葉を自分なりに予測を立てながら「言い換えていく」ことによって、描かれている図形を明らかにしていくことができるのです。

これらの情報を整理したうえで、選択肢に目を通すと、イの図形であることがわかります。

日能研がこの問題を選んだ理由

この問題では、物語に書かれた言葉を手がかりとして、手がかりである言葉を視覚化し、書かれている内容としてふさわしい図形を選んでいきます。この物語の中で扱われている内容を読み取るときには、国語の視点とともに、算数の視点も使い、そこに書かれている「具体と抽象」の関係をとらえ、そこに書かれていることがらを「言い換える」必要があります。言葉を通してイメージを広げていく、そんなプロセスをたどる問題でした。

この問題に取り組むときに使う「具体と抽象」の関係をとらえる力や言葉を「言い換える」力は、これから先もずっと使い続けることのできる力です。そんな入試だけにとどまらない、今後生きていくうえでも大切な力が試されているという点に魅力を感じました。

このような理由から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことに致しました。