シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

浅野中学校

2015年08月掲載

浅野中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.知的好奇心を刺激し、いろいろな角度から物事を見られる力を養う

インタビュー3/3

学習したことと現実をリンクさせる社会科見学

麻生先生 体験を通じて生徒にいろいろなことに興味を持たせようと、「社会科見学(希望制)」を実施しています。高1は国立劇場での芸術鑑賞会の帰りに、近くの最高裁判所を見学しています。今年は例年より多く70名が参加しました。当日、生徒は興味を持って見学してくれました。

今年は参議院第二別館内にある裁判官弾劾裁判所も見学しました。弾劾裁判所については中3で習いますが、その場へ足を運んだことで「実感が伴った知識」になったと思います。現場に足を運んで、学習したことと現実がなるべくリンクするように工夫しています。

社会科/麻生 徹先生

社会科/麻生 徹先生

生徒の可能性を広げる『教養講座』

麻生先生 また社会科に限らず、生徒の知的好奇心を高め視野を広げようと、昨年から「教養講座」を始めました。複数学年を対象にし、学期に1度は必ず行うようにしています。
例えば、中1・中2を対象に、神奈川県埋蔵文化財センターから講師をお招きして考古学の世界を体験しました。本物の縄文土器片に触れながらの拓本作りに、生徒は夢中になって取り組んでいました。また、社会科の私と英語科の教員がタイアップして、高1・高2を対象に、「ハーバード白熱教室」で有名なマイケル・サンデル教授の著書を原書で読み、内容についてディスカッションを行いました。これは新設の図書館1階の多目的スペースで、大学のゼミのような形式で実施しました。今後も若手教員が中心になって様々な講座を企画していきたいと思っています。

知っていることにも別の一面がある

麻生先生 歴史の教員は、よく「この歴史上の出来事には別の見方がある」ということを取り上げています。知っていることでもあえて検証することで、物事を多角的に見られる力を身につけさせたいと思っています。最近いろいろな試みを行っているのは、「知っている」だけで終わらせず、多角的な視点を持たせるためでもあります。

歴史上の人物がどのように問題を解決したかということは、現代の政治を見る上でヒントにもなります。今の世界情勢のニュースを見聞きしたときに社会科で学んだことを思い出せるように、知識と現実がつながるように工夫しています。宗教を取り上げる際は、「イエスは○○と言った」「ブッダは××と言った」だけではおもしろくない。今のどんな問題とリンクするのか、あるいは、その発想が現代のどんな場面で活かせるかを考えさせています。

浅野中学校 校舎

浅野中学校 校舎

具体性から一般性が見えてくる

麻生先生 高校では「尊厳死」のような難しい問題を取り上げて、簡単なディスカッションを行うことがあります。討論では結論めいたものは出さないようにしていますが、賛成論、反対論にはそれぞれ普遍的な部分があることに気づかせるようにしています。具体的な社会現象を見ることで普遍的な思想が見えてきます。

尊厳死の法制化に危機感が持たれる一方で、法制化しようとするのは、何らかの必要性があるからです。何らかの統一基準を設けようとするのは人間の普遍的な行動の1つだと思います。そうした両者のせめぎ合いを生徒に見せられたらと思っています。

人の死のあり方は昔から議論されてきた人類普遍の、共通の問題です。現代の問題を現代に限定して考えると見解が浅くなってしまうので、私は日々の出来事がこれまでの大きな流れとつながっていることを意識して現代の話をしています。

浅野中学校

浅野中学校

『九転十起』の精神で、物事にしつこく取り組んでみよう

麻生先生 受験生には物事にじっくり取り組む姿勢を身につけてほしいですね。問題が難しいからすぐに解答を見たり、日常生活で頭を抱えるような問題にぶつかって「もういいや」と投げ出したりせずに、どうすればいいか粘り強く向き合ってほしいですね。そうした「しつこさ」は入試の本番でも生かされると思います。本校の校訓は「九転十起」です。間違えてもいいのです。「1度間違えてもあきらめずに取り組む」というつもりで粘り強くチャレンジしてほしいと思います。

インタビュー3/3

浅野中学校
浅野中学校1920(大正9)年、事業家・浅野總一郎によって創立。当初はアメリカのゲイリー・システムという勤労主義を導入し、学内に設けられた工場による科学技術教育と実用的な語学教育を特色とした。戦後間もなく中高一貫体制を確立し、1997(平成9)年に高校からの募集を停止。難関大学合格者が多い進学校として知られているだけでなく、「人間教育のしっかりした男子校」としても高い評価を受けている。「九転十起・愛と和」を校訓とし、自主独立の精神、義務と責任の自覚、高い品位と豊かな情操を具えた、心身ともに健康で、創造的な能力をもつ逞しい人間の育成に努めることを教育方針とする。校章は、浅野の頭文字で「一番・優秀」の象徴である「A」と「勝利の冠」である「月桂樹」から形作られており「若者の前途を祝福する」意味が込められている。
横浜港を見下ろす高台にある約6万平方メートルの広大な敷地の約半分を「銅像山」と呼ばれる自然林が占めている。Wi-Fi環境が整い、中学入学後に購入するChromebookで授業や行事、部活動を展開している。2014(平成26)年には新図書館(清話書林)、新体育館(打越アリーナ)が完成、2016(平成28)年にはグラウンドを全面人工芝とし、施設面が充実している。
中高6年間一貫カリキュラムを通して、大学受験に対応する学力を養成することが目標。授業を基本とした指導が徹底している。中学の英語では週6時間の授業に加えて、毎週ネイティブスピーカーによるオーラルコミュニケーションの授業もある。数学では独自の教材やプリントが使われていて、中身の濃い授業が展開されている。高校2年から文系・理系のクラスに、高校3年では志望校別のクラスに分けてそれぞれの目標に向けた授業を行う。進路選択は本人の希望によるが、理系を選択する生徒の方が多くなる傾向がある。全体的にハイレベルな授業が展開されているが、高度な授業展開の一方で、面倒見のよいことも大きな特徴。授業をしっかり理解させるために、宿題・小テスト・補習・追試・夏期講習などを行い、授業担当者が細かく目を配っている。一歩ずつゆっくりと、しかし、確実に成長させるオーソドックスな指導方針が浅野イズム。
「大切なものをみつけよう」ーこれは学校から受験生へのメッセージ。生徒にとって学校は、一日の内の多くの時間を過ごす場所。勉学に励むことはもちろん、部活動や学校行事にも積極的に参加して、その中で楽しいこと、嬉しいこと、悔しいことや失敗をすることも含めて多くのことを経験してもらいたいと考えている。学校でのそのような経験が、学ぶことの意味、みんなで協力することの大切さと素晴らしさ、生涯、続いていくような友人関係、そして、決して諦めない強い心を育んでいくことになる。浅野中学校、高等学校という場を思う存分活用して、人生において大切なものをたくさん見つけ、成長してほしいとの願いが込められている。
部活動と学習を両立させる伝統があり、運動部の引退は高校3年5~6月の総合体育大会、野球部は甲子園予選までやり通す。中学では98%の生徒が部活動に参加している。ボクシング、化学、生物、囲碁、将棋、ディベート、演劇が全国レベル。柔道、ハンドボールやサッカーも活躍している。また、5月の体育祭と9月の文化祭を「打越祭」として生徒実行委員が主体となって運営する。これをはじめ、学校行事も盛んで生徒一人ひとりが充実した学園生活を送っている。
「銅像山」は、傾斜がかなりきつく、クロスカントリーコースとして運動部の走り込みに使われるだけでなく、中学生たちの絶好の遊び場所となっている。また、各学年のフロアに職員室を配置してオープンにすることで、生徒と学年担当の先生が日常的に対話を行っている。こうしたメンタルケアにも力を入れている。