シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

浅野中学校

2015年08月掲載

浅野中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.“型破り”の記述問題で受験生のいろいろな力を試したい

インタビュー2/3

教員の日頃の興味関心が見えるリード文

貴校の入試問題は例年大問1〜3に長めのリード文があり、大変興味深い内容で、学校から受験生へのメッセージが織り込まれていると感じます。

麻生先生 リード文は、各分野の教員が日頃興味を持っているテーマについて自由に作成していて、実はかなり力を入れています。リード文中に設問のヒントが隠れていることがあるので、読み飛ばさないで読んでほしいと思います。とはいえ、結構な文章量なので読む力が必要です。

今年の歴史分野のリード文は「地震」を取り上げました。東日本大震災も記憶に新しいですし、防災に関しては江戸時代の大地震が話題に挙がりますから、時事色が強いテーマだったかもしれません。リード文のテーマは、公民分野や地理分野は結果的に時事問題が多くなる傾向はありますが、いつもそうとは限りません。また、「地震」のような特殊なテーマの場合でも設問はオーソドックスです。

社会科/麻生 徹先生

社会科/麻生 徹先生

用語を使うところまで丸暗記するのは無理がある

地理分野で、国土面積(km2)と人口密度(人/km2)のデータから人口を求める問題がありました。通常、面積と人口から人口密度を求める問題はよくありますが、違う角度から聞かれて受験生は意表を突かれたのではないでしょうか。このように貴校の問題は、知識を使って問題を解く力が試される問題が多いように思います。

麻生先生 本校の入試では「知識の運用能力」を集中的に聞いています。この問題もそうですが、選択問題で運用能力を試すことは可能です。本校を受験されるお子さんは「基礎知識が身についている」ということを前提に作問していますから、「社会は暗記科目」と思われていると本校のような入試問題は厳しいでしょう。

もちろん、最低限押さえるべき知識は覚えなければなりませんが、覚えた知識を使って考えるところまで全部暗記しようとするのは無理があります。覚えることばかりに努力するのではなく、覚えた知識を使って問題を解く練習もしてほしいと思います。

数は少ないですが基礎知識をストレートに問う問題を出して、基礎知識が身についているかどうかも見ています。入学後も各分野の基礎知識をしっかり身につけるように、定期試験では基礎的なことも聞きます。

現代のテクノロジーは利点だけでなく問題点もある

最後の長文記述問題ですが、今年は「自動改札機とETC」の利点と不都合な点とその理由をそれぞれ2つずつ指摘する問題でした。出来具合はいかがでしたか。

麻生先生 どちらも利便性の高いシステムですが、利便性を享受するだけでなく、便利さの背後に何が潜んでいるのかを考えてもらいたかったし、そうした力のあるお子さんに入学していただきたいと思っています。現代のテクノロジーは利点だけでなく少なからず問題点があります。インターネット等もそうですが、問題点をわかった上で使ってもらいたい。そのことに受験生が気づきやすい例として日常生活で使用する自動改札機や車で移動する時によく利用するETCをとりあげました。

答案を見ると、利点は2つ書けたけれど不都合な点が書けていない答案が多かったです。「『記録』あるいは『管理』という語を必ず使うこと」という大ヒントを出したのですが、答えにはあまり結びついていませんでした。

「記録に残ってしまう」ところまでしか思いつかなかった受験生が多かったのではないでしょうか。

麻生先生 記録に残ると「どんな」不都合があるかというところまで答えてもらいたかったですね。例えばICカードに記録されるデータが不正に取得されて悪用される可能性がある、電車の乗り降りなど行動の記録が残るので個人の監視・管理につながる、システム障害が発生したときの経済的損害が大きい、といった問題点が挙げられます。

大問4に関しては今後も“型破り”な問題を出すつもりです。こうした問題を解く場合もベースとして基礎知識は不可欠です。ニュースを鵜呑みにせず多角的に見る力がある、統計の背後を考えられる力のあるお子さんは、5〜8割程度は得点できると思います。不都合な点を2つ書けた受験生は非常に少なかったですが、この問題が満点近かった受験生は他の大問もしっかり得点できていました。

浅野中学校 校舎

浅野中学校 校舎

社会科の記述力は設問の要求にきちんと応えていること

麻生先生 社会科の記述力は、まず設問の要求にきちんと応えることです。「2つ挙げなさい」と指示されたら2つ挙げていることです。ただ、何も書かなければ絶対に点数はもらえません。試験のときに「これを書いても点数がもらえないのでは」と思わずに、とにかく書いてみましょう。

大問4は、今年は字数指定を120字から180字以内に増やしました。もう少しコンパクトに書くことは可能ですが、少ない字数で要領よくまとめる力は記述力としてはもう一段階上の力になります。大問3までの難易度や問題数を考慮して、字数の条件を緩和して取り組みやすくしました。

社会の一員である以上、『自分には関係ない』ということはない

麻生先生 現代社会におけるテクノロジーの問題は技術的・知識的な面では理科の話になるかと思いますが、例えばクローン技術の問題は理科の知識に通じているだけでは解決しないと思います。テクノロジーは社会の中で位置づけられる部分もあり、そこは社会科の領分だと思います。

科学技術を私たちの生活に応用する際に国民の側から社会的コンセンサスをつくりあげることは大事であり、専門家だけに任せておくと原発問題のようにとんでもないしっぺ返しに遭うことがあります。社会の一員である以上、「自分には関係ない」と思わずにいろいろなことに目を向けてほしいと思います。「理系に進学するから社会科はいいや」という高校生がいますが、そうなってほしくないので、私は現代社会の授業で意図して医療や生命の話題を取り上げるようにしています。

浅野中学校

浅野中学校

インタビュー2/3

浅野中学校
浅野中学校1920(大正9)年、事業家・浅野總一郎によって創立。当初はアメリカのゲイリー・システムという勤労主義を導入し、学内に設けられた工場による科学技術教育と実用的な語学教育を特色とした。戦後間もなく中高一貫体制を確立し、1997(平成9)年に高校からの募集を停止。難関大学合格者が多い進学校として知られているだけでなく、「人間教育のしっかりした男子校」としても高い評価を受けている。「九転十起・愛と和」を校訓とし、自主独立の精神、義務と責任の自覚、高い品位と豊かな情操を具えた、心身ともに健康で、創造的な能力をもつ逞しい人間の育成に努めることを教育方針とする。校章は、浅野の頭文字で「一番・優秀」の象徴である「A」と「勝利の冠」である「月桂樹」から形作られており「若者の前途を祝福する」意味が込められている。
横浜港を見下ろす高台にある約6万平方メートルの広大な敷地の約半分を「銅像山」と呼ばれる自然林が占めている。Wi-Fi環境が整い、中学入学後に購入するChromebookで授業や行事、部活動を展開している。2014(平成26)年には新図書館(清話書林)、新体育館(打越アリーナ)が完成、2016(平成28)年にはグラウンドを全面人工芝とし、施設面が充実している。
中高6年間一貫カリキュラムを通して、大学受験に対応する学力を養成することが目標。授業を基本とした指導が徹底している。中学の英語では週6時間の授業に加えて、毎週ネイティブスピーカーによるオーラルコミュニケーションの授業もある。数学では独自の教材やプリントが使われていて、中身の濃い授業が展開されている。高校2年から文系・理系のクラスに、高校3年では志望校別のクラスに分けてそれぞれの目標に向けた授業を行う。進路選択は本人の希望によるが、理系を選択する生徒の方が多くなる傾向がある。全体的にハイレベルな授業が展開されているが、高度な授業展開の一方で、面倒見のよいことも大きな特徴。授業をしっかり理解させるために、宿題・小テスト・補習・追試・夏期講習などを行い、授業担当者が細かく目を配っている。一歩ずつゆっくりと、しかし、確実に成長させるオーソドックスな指導方針が浅野イズム。
「大切なものをみつけよう」ーこれは学校から受験生へのメッセージ。生徒にとって学校は、一日の内の多くの時間を過ごす場所。勉学に励むことはもちろん、部活動や学校行事にも積極的に参加して、その中で楽しいこと、嬉しいこと、悔しいことや失敗をすることも含めて多くのことを経験してもらいたいと考えている。学校でのそのような経験が、学ぶことの意味、みんなで協力することの大切さと素晴らしさ、生涯、続いていくような友人関係、そして、決して諦めない強い心を育んでいくことになる。浅野中学校、高等学校という場を思う存分活用して、人生において大切なものをたくさん見つけ、成長してほしいとの願いが込められている。
部活動と学習を両立させる伝統があり、運動部の引退は高校3年5~6月の総合体育大会、野球部は甲子園予選までやり通す。中学では98%の生徒が部活動に参加している。ボクシング、化学、生物、囲碁、将棋、ディベート、演劇が全国レベル。柔道、ハンドボールやサッカーも活躍している。また、5月の体育祭と9月の文化祭を「打越祭」として生徒実行委員が主体となって運営する。これをはじめ、学校行事も盛んで生徒一人ひとりが充実した学園生活を送っている。
「銅像山」は、傾斜がかなりきつく、クロスカントリーコースとして運動部の走り込みに使われるだけでなく、中学生たちの絶好の遊び場所となっている。また、各学年のフロアに職員室を配置してオープンにすることで、生徒と学年担当の先生が日常的に対話を行っている。こうしたメンタルケアにも力を入れている。