シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

麻布中学校

2026年09月掲載

麻布中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.論理的に考え、数学の言葉で説明する力を育てる授業

インタビュー2/3

次に授業を中心とした学校の話をお聞きしたいと思いますが、それぞれ先生方の考える授業の特徴、またどんなことに気をつけて授業を行っているか、などぜひ教えてください。

重田先生 本校は数学科出身の教員が多い職場ですが、論理的な説明をしっかりしたいと考えている教員が多いように思います。そして、それを受け入れる側の生徒も割と理解してくれる、そんな環境があるように感じます。

中1、中2の代数で計算のトレーニングをしてもらう必要があるのですが、それだけれはなく、たとえば中1であれば「割る0はなぜできないか?」といった論理的な説明を理解してほしいと思いますし、できれば自分で説明できるようになってほしいですね。これはなかなかレベルの高いことだと思いつつやっていることです。

佐藤先生 今年の中1の幾何の教科書は私が作ったものですが、言葉遣いをできるだけ丁寧にするよう心掛けました。幾何って図形の性質を学ぶ分野ですが、どちらかというと図形の性質は二の次で、学びを通じ論理や数学の言葉遣いを正しく身に付けよう、ということを重点に置いて作りました。そのため、中1には少し難しかったかもしれません。最初は「図形だから楽しそう」と思ったかもしれませんが、生徒も授業が進んでいくうちに「難しいな」と思っているのではないでしょうか。

数学科/佐藤 巨崇先生

数学科/佐藤 巨崇先生

授業で使用する教科書を教員自ら作成

教科書は毎年替えているのですか?

佐藤先生 毎年というわけではなく、担当者ごとに違いますが、たまたま今年は私が作りましたということですね。

同学年全クラスを同じ先生が担当するのですか?

佐藤先生 基本的にはその学年を持っている教員の誰かがその学年のテキストを作っています。自分のクラスだけではなく全クラス分作ることになりますが、学年ごとで異なります。以前は冊子にはしていなくて、毎授業でプリントを配っていたのですが、ここ10年くらいで冊子化が進みました。

石塚先生 私は、過去のテキストを参考にしながら自分が足したいものを入れ込んでテキストを作っています。私個人的には、論理をしっかり理解するよりも問題を解くのが好きなのですが、論理も重んじてはいるものの発展的な問題を追加したりしながら生徒に楽しんでもらえるようなテキスト作りを心掛けています。他の教員が作成した過去のテキストを参照し、いいとこ取りをしているイメージですね。

複数年同じテキストが使われることはないのですか?

佐藤先生 ほぼないとは思います。だいたい数学科は6年間持ち上がりになることが多いので、高3まで行って中1に戻ってきた時に、ある教員は6年前と同じものを使うかもしれないですし、6年前の自分とかなり違っているところが出てきて全く別のものになる教員もいると思います。

麻布中学校 教科書

麻布中学校 教科書

よい「ざわめき」が生まれる授業風景

授業に関してのご質問です。生徒さんはただ先生の説明を聞いているだけではなく、あれこれ意見を言う子も多いと思うのですが、そのあたりはいかがですか?

重田先生 授業の進め方は教員によってさまざまだと思います。私の場合、説明している間は、聞きたい生徒がきちんと話を聞けるよう、静かにすることを求めています。一方で、問題を解く時間は、生徒同士で相談してもよいことにしています。すると、わからない生徒が「これはどうやるの?」と友達に尋ねる場面が生まれます。教える側にとっても、自分の考えを言葉にして説明することで理解が整理され、さらに深まるきっかけになると感じています。

石塚先生 私の担当している生徒の場合、高3だと静かに授業に臨んでくれますが、中2ぐらいだと授業をきちんと受けている状態って、静かに聞いているよりも多少うるさいほうが安心するぐらいの感覚があります。

「うるさい」というと、どういったうるささなのでしょう?

佐藤先生 いい意味と悪い意味の両方です。生徒の心に刺さるような印象的な問題が出てきたときに、「この問題はどういうことなんだろう?」と教室がざわつくのはまったく問題ありませんし、「なぜこうなるのですか?」と疑問に思ったときは、その場ですぐに質問してもらって構いません。

一方で中学1、2年生はまだ幼いところもあり、授業とは関係のない話で次第に騒がしくなってしまうこともあります。そのようなときには、教室を静かな状態に戻すために、相応の労力が必要になることもあります。

授業の脱線も学びを深めるきっかけに

いろいろな話し合いが生徒たちの中で起こったりすると、予定していた授業進度のイメージと全然違う方向に行ってしまうことは多いのでしょうか?

佐藤先生 私は現在中1生を4クラス持っていますが、全クラス毎回授業の進度が違いますので、メモを取っていないと大変です。とはいえ、きっちり予定通りに授業を進めている教員もおそらくいるとは思います。

重田先生 私は割と予定通り終わることが多いですが、生徒の思わぬ問いかけによって即答できなくて時間がかかってしまうこともあります。ただ、それはよいことだと思っています。たとえば、こちらが想定してない質問が出てくることで、「あいつは今何を聞いているんだ?」とか「そんなのが分かるやつがいるんだ」とクラスにとっても結構刺激になりますし、新たな学びになると思います。

石塚先生 生徒がそういうケースで脱線する時って、大半が授業に関係する内容なわけで、そこに素早く対応、解決できるのがライブ授業のいいところだと思っています。

クラスによって雰囲気はかなり異なるのでしょうか?

佐藤先生 かなり違います。40人ほどのクラスの中に、突出して理解力の高い生徒が1、2人いる場合、その生徒から出てくる質問は、ほかの生徒とは大きく異なります。また、同じ説明をしていてもほとんど反応がないクラスもあれば、「それはなぜそうなるのですか」とすぐに質問が出るクラスもあります。そうした生徒の反応や問いかけによって、クラス全体の雰囲気も大きく変わってきますね。

麻布中学校 校舎と中庭

麻布中学校 校舎と中庭

突出した力を持つ生徒への向き合い方

先生方から見て、突出している、あるいは「すごい」と感じる生徒にはどのような違いがあるのでしょうか?

重田先生 我々が勉強を好きになるきっかけを少しでも与えられていたとしたら、とても嬉しく思います。ただ、そういった生徒って、どちらかというと自分自身でどんどんのめり込んでいったという印象が強いですね。IMO(国際数学オリンピック)で銀メダルを獲得したり、論文の共著者になったりするレベルまで到達すると、もはや私たちが教えることでどうにかなるものではありません。

石塚先生 とはいえ、そんな生徒に対しても、わからないことがあったときに質問できる窓口はきちんと用意しておきたいです。

佐藤先生 通常の授業で突出した生徒だけに焦点を当ててしまうと、クラス全体の授業が成り立たなくなってしまいます。結果としてそのレベルの生徒にとっては、普段の授業だけでは物足りない部分もあると思いますので、発展的な課題を増やすなど、別の形で学びを深められる機会を用意するのがよいとは考えます。

生成AIの時代だからこそ自分で考える力を

近年いろいろな取材をさせていただくと、「ここ数年で緻密な問題を考えるのが面倒に感じる子が増えているのではないか?」、また「答えをすぐに知りたがる子が増えているのでは?」といった話をよく聞くのですが、御校ではいかがでしょうか?

重田先生 問題が解けたら解説には関心を示さず、「解けたからもういいや」となる子はそれほど多くないと思っています。ただ、生成AIが発展する以前から、生徒が正解や答を早く知りたがる傾向は感じていました。

とくに、「まずは自分で考えてみよう」と促してもあまり手を動かさなかったり、すぐあきらめてしまったりして、私が説明を始めるのを待っているような生徒が増えている印象があります。ただ、ここ数年で劇的に変化したとまでは感じていません。とはいえ、すぐに答を得られる生成AIがそういった生徒にとって一つの誘惑になることは確かです。

それに対し、本校では生成AIに頼らず自分で考えることが大事ということを、校長も折に触れて述べていますし、そこは対抗していきたいと思っています。

御校には、どちらかといえば「自分で学びたい」という意欲を持って入学してくる生徒が多いと思われます。そのため、他校と比べると生成AIの利用率は低いのかもしれません。それでも、以前から生徒が正解を早く知りたがる傾向を感じていたとのことですが、その背景には、どのような要因があるとお考えですか?

重田先生 あくまで個人的な見方ですが、とても忙しい中学受験を経験する中で「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視しすぎてしまう場合が増えているのかもしれません。算数で一つの問題をじっくり考えることは重要なことですが、一方で中学受験は限られた時間の中で多くの問題をこなし、正解できるようになることが求められます。そういう中でじっくり試行錯誤することよりも、早く解き方や答を知りたがる姿勢につながってしまうのかもしれません。

麻布中学校 図書館

麻布中学校 図書館

インタビュー2/3

麻布中学校
麻布中学校1895年、江原素六によって創立された。明文化された校則もない、自由闊達な校風が伝統。責任のともなう自由が重視され、一人ひとりの多様性や自主性を伸ばす教育が行われている。自発的な研究も盛んで、お互いを高めあう気風がある。OBも、政治家、作家、ジャーナリスト、俳優、経済界など、幅広い分野の第一線で活躍する。
中3国語の「卒業共同論文」、高1社会科の「基礎課程終了論文」など、各教科とも書くこと、表現することが重視される。その集大成が「論集」である。高1・高2では土曜日の2時間、教養総合として約30のテーマから選択する授業がある、OBなど学外の複数の講師が担当する講座もある。カナダ、中国、韓国など、海外学校との国際交流も活発に行われる。
クラブ活動や行事も盛んであり、文化祭、運動会とも大変な盛り上がりを見せる。将棋や囲碁は全国レベル。オセロ部、バックギャモン部、TRPG(テーブル・トーク・ロールプレイング・ゲーム)研究会など、他の学校ではめずらしいユニークな部活動もある。
2015年には、ランニングコースも備えた新体育館が完成した。また、放課後や休み時間に多数の生徒が訪れる図書館は、100周年記念館の2F、3Fにあり、蔵書は8万冊を超える。自発的に学ぶ意欲が育つ、個性的な私立男子校の代表格である。