シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

大宮開成中学校

2025年09月掲載

大宮開成中学校【算数】

2025年 大宮開成中学校入試問題より

開成さんは毎日通学しているときに, 電車に乗車する人がどの席に座るかを観察してみました。その結果, 下のような優先順位があることがわかりました。

問題図 図1

以下, この優先順位のもとに席に座るものとします。例えば, 下の図のような5人がけの席に5人が順に座る場合を考えます。

問題図 図2

1人目と2人目は端であるAかEに座ります。3人目は必ずCに座ります。4人目と5人目はBかDに座ります。つまり, 5人の座り方は4通りあるといえます。次の各問いに答えなさい。

(問1)下の図のような6人がけの席に6人が順に座ります。座り方は何通りありますか。

問題図 問1

(問2)下の図のような7人がけの席に7人が順に座ります。座り方は何通りありますか。

問題図 問2

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この大宮開成中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

(問1)16通り

(問2)56通り

解説

(問1)
問題の例では、5人がけの席に5人が順に座る場合を、1人目から順にどの席に座るかを示しています。これにならい、1人目から順に座る席を考えていきます。

1人目は、優先順位①より、AかFに座ります。座り方は、この時点で2通りに分かれます。
2人目は、優先順位①より、1人目が座らなかった端の席に座ります。つまり、1人目がAに座ったならFに座り、1人目がFに座ったならAに座ります。

解説(1)_例

3人目は、両端がうまっているので、優先順位②より、CかDに座ります。座り方は、ここでさらに2通りずつに分かれるので、3人目までで2×2=4(通り)になります。

解説(1)_3人目

3人目まで座ったときの様子は、下のような枝分かれの図(このような図を樹形図といいます。)に表すことができます。

解説(1)_樹形図1

次に、4人目が座る席を考えます。

3人目が座った時点でうまっている席は、(A、C、F)、(A、D、F)のどちらかです。どちらの場合も、すでに両端がうまっていて、両隣が空いている席もないため、優先順位③が適用されます。つまり、(A、C、F)の場合、4人目はDかEに座り、(A、D、F) の場合、4人目はBかCに座ります。

座り方は、ここでさらに2通りずつに分かれるので、4人目までで4×2=8(通り)になります。
4人目まで座ったときの様子は、下のような樹形図に表すことができます。

解説(1)_樹形図2

最後に、5人目と6人目が座る席を考えます。

4人目が座った時点でうまっている席は、(A、B、D、F)、(A、C、D、F)、(A、C、E、F)のどれかです。どの場合も、すでに両端がうまっていて、両隣が空いている席もなく、左右どちらかが空いている席もないため、優先順位④が適用されます。つまり、5人目は空いている2つの席のどちらかに座り、6人目は最後に残った席に座ります。

解説(1)_5人目・6人目

座り方は、ここでさらに2通りずつに分かれるので、6人目までで8×2=16(通り)となります。
したがって、6人がけの席の座り方は全部で16通りとなります。

(参考)6人目まで座ったときの様子は、下のような樹形図に表すことができます。

解説(1)_樹形図3

 

(問2)
(問1)と同様に、1人目から順に座る席を考えていきます。
1人目は、優先順位①より、AかGに座ります。座り方は、この時点で2通りに分かれます。
2人目は、優先順位①より、1人目が座らなかった端の席に座ります。つまり、1人目がAに座ったならGに座り、1人目がGに座ったならAに座ります。

解説(1)_1人目・2人目

3人目は、両端がうまっているので、優先順位②より、CかDかEに座ります。
3人目が座った時点でうまっている席は、(A、C、G)、(A、D、G)、(A、E、G)のどれかです。ここで、Dはちょうど真ん中の席で、CとEは真ん中から1つずれた席なので、この後の場合分けは、(A、C、G)と(A、E、G)は同じになり、(A、D、G)は他の2つとは異なってきます。そこで、4人目以降は大きく2つの場合に分けて考えていきます。

 

<3人目がCかEに座った場合>
すでに両端がうまっていますが、両隣が空いている席が1つあるため、優先順位②が適用されます。つまり、(A、C、G)の場合の4人目はEに座り、(A、E、G)の場合の4人目はCに座ります。どちらの場合も、4人目が座った時点でうまっている席は(A、C、E、G)です。

解説(2)_3人目・4人目

この時点で、すでに両端がうまっていて、両隣が空いている席もなく、左右どちらかが空いている席もないため、5人目も6人目も7人目も優先順位④が適用されます。
5人目は空いている3つの席のどれかなので3通りの座り方があり、6人目は空いている2つの席のどちらかなので2通りの座り方があり、7人目は最後に残った1つの席なので1通りの座り方があります。つまり、5~7人目の座り方は3×2×1=6(通り)あります。

以上より、1人目と2人目の座り方はA→G、G→Aの2通りあり、3人目と4人目の座り方はC→E、E→Cの2通りあり、5~7人目の座り方は6通りあるので、3人目がCかEに座った場合の7人の座り方は2×2×6=24(通り)となります。

 

<3人目がDに座った場合>
すでに両端がうまっていて、両隣が空いている席もないため、優先順位③が適用されます。
4人目はB、C、E、Fのどれかに座ります。

解説(2)_3人目

4人目がBに座った場合、5人目は優先順位③によりEかFに座ります。

解説(2)_4人目

5人目がEとFのどちらに座っても、左右どちらかが空いている席がなくなるので、この後は優先順位④が適用されます。6人目は残った2つの席のどちらかにすわり、7人目は最後に残った席に座ります。つまり、4人目がBに座った場合の5~7人目の座り方は2×2×1=4(通り)あります。

以上より、1人目と2人目の座り方はA→G、G→Aの2通りあり、3人目と4人目の座り方はD→B、D→C、D→E、D→Fの4通りあり、5~7人目の座り方は4通りあるので、3人目がDに座った場合の7人の座り方は2×4×4=32(通り)となります。

したがって、7人がけの席の座り方は全部で24+32=56(通り)となります。

日能研がこの問題を選んだ理由

私たちは日々、様々な場面で「選ぶ」という行動をしています。例えば、電車に乗るとき。車内に並ぶ座席のどこに座るかを、無意識のうちに判断している人も多いでしょう。今回紹介する大宮開成中学校の算数の問題は、そんなごくありふれた日常の一場面を題材にしています。電車に乗るたびに人々の行動を観察していた「開成さん」という一人の生徒の視点を通して、座る席の選び方に潜む“規則”を見出し、選び方を数え上げるという問題に仕上げています。

この問題では、電車の横並びの席に人が順番に座っていく様子を考えます。実際に観察してみると、人々にはある種の「座り方の優先順位」があることがわかります。まずは端の席が人気で、次に両隣が空いている席、次に片側が空いている席、そして最後に両隣が埋まっている席という順番です。こうしたルールのもとで、限られた人数の人が順に席に座っていくとき、座り方は何通りあるか? というのがこの問題の本質です。

数字や計算だけでなく、「なるほど、確かに自分もそうやって席を選ぶかもしれない」と感じられるリアリティのある設定が、問題にぐっと引き込まれる要素になっています。また、開成さんという架空の登場人物を通じて、問題に対する親しみやすさや「自分ごと感」も自然と生まれてきます。身の回りのちょっとした「気づき」を出発点にして、そこに論理的な考察を加えていく――これはまさに、日常の一場面を問いとしてとらえる、数学的思考の入り口といえるでしょう。

この問題に取り組んだ受験生は、きっと電車に乗るたびに人の座り方を意識するようになるはずです。そして、ただの観察が「数える」という思考の糸口になることを知ることでしょう。生活と算数の接点をうまく引き出した、興味深い問題として、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。