シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

清泉女学院中学校

2025年05月掲載

清泉女学院中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.生徒同士や生徒ー教員間で相互にやりとりするのにICTの活用は効果的

インタビュー3/3

普段の授業についてお聞きします。先生方の思いを実現させるために行っていることなどはありますか?

橘先生 現在、私は高1の新課程にできた地理総合を担当しています。

もちろん教科書に書いてあるような基礎的な知識は理解してもらいますが、ほかにも自治体の方と連絡を取り合っていろいろな方に来ていただき、グループトークをしながら生徒に地域を面白くするアイデアを高校生なりに考えてもらったりしています。

そういった活動の結果、「地域ボランティアに参加してみたい」という生徒が育ち始めたのはすごくうれしいです。今までも生徒会の活動を通して通学路の掃除を行うといった活動はしていたものの、もっと地域の高齢者や子どもたちと積極的に関わってみたいと考える生徒は多くなりました。

そこに至る過程で、ICTの力を借りることができたことは大きかったかもしれません。本校ではChromebookが入学と同時に与えられますが、これまでプリントを配っていたものをICTを活用して配信するようにしたり、課題を埋めさせて提出してもらったものに対し、私が確認するといったやりとりを繰り返していきました。

だんだんICTに慣れていくと、グループ内で文章や資料を作ったりするのも早くできるようになります。そうすると、生徒同士で議論が始まっていくんですね。ICTを使って課題のやり取りをするようになったり、いろんな基礎知識を授業の中で確認してしっかりと身につけていったりします。そうすると時間的余裕ができて、その結果、生徒同士で話し合ったり質問し合ったり、復習し合ったりすることが増えたり、分からない箇所を教員に聞きにくる生徒が多くなったのを感じます。

清泉女学院中学校 図書館

清泉女学院中学校 図書館

社会の矛盾に正面から向き合える人間になってほしい

北宮先生 教員によっても考え方は千差万別だと思いますが、私としては「矛盾に向き合わせたい」という社会科教員としての思いがあります。

ここ最近は、文系・理系といった区別はしない傾向にあると言われているものの、当然ながら国語と社会は文系科目、理科と数学は理系科目といったくくりはあります。そんな中、個人的には理系はまず矛盾を見つける能力が必要で、たとえば数式や物理法則にしても、「そんなこと起きるはずがない」といった矛盾があれば、それを正していくのが理系である気がしています。そういう能力は人間にとって大事なもので、だからこそ多くの技術が発展することができたのだと思っています。

しかし、一方で社会に目を向けてみると、世の中は矛盾だらけであって、私たちはその矛盾をほとんど正すことはできないのが現状です。矛盾を抱えている世の中に対して声をあげることも必要かもしれませんが、それだけではなくときには受け入れることや、正面から向き合い続けることも大切であって、それこそが文系科目に求められる力なのかな、と思っています。

矛盾を解決することはできなくても、それがどう変化していくかを見続けていくこと、それが社会の構成員としての責任なのではないかと思うので、それを中1なら中1の視点で考えられるような生徒を育てていきたいです。

家庭で触れる機会の少なくなった新聞を授業の教材として取り入れる

橘先生 最近、新聞が欠かせないツールになっている感覚があります。今では社会科の先生で新聞を活用されていない人はいないくらいです。いろいろなメディアを使うようになったり、動画をたくさん見るようになってきたりしているのに、めぐりめぐって新聞を大事にするのは本当に不思議です。学校として「みんなで新聞を読もう」と言っているわけではないですが、いろいろな先生が新聞を自ら選択して教材として使っているのが自然になっています。

北宮先生 本校では日経電子版と朝日と読売が読めるのですが、生徒には必ず授業の最初に日経新聞を読ませることからスタートしています。そうすると勝手に世の中の矛盾を探してくれて「君たちはそこに怒るのか」というのがわかって非常に面白いです。

生徒の中でも新聞を取っている家庭は減っているのでしょうか?

北宮先生 毎年中1の生徒に新聞を取っているかどうか挙手させるのですが、40人弱のクラスで5人前後と非常に少ないです。そのため、学校に来て「初めて新聞を読みました」といった生徒はよくいます。

橘先生 ネットニュースはボットが作っていてもおかしくないのですが、一方で新聞記事といった人の手で作られたものに、電子か紙かに限らず学校の授業の中で触れる機会があることは非常に大切だと感じますね。

探究的な学びが進むと、さらに知識を深めるためにはまた新たな知識が必要になっていく、そんな流れを感じます。知識を得るのが目的というのではなく、探究するために必要な知識をどう持ってくるか、それが入試問題でも問われていくのかもしれませんね。

清泉女学院中学校 新聞ラック

清泉女学院中学校 新聞ラック

苦手なことを避けるのではなくチャレンジする心を持ってほしい

塾や学校で学べない今回のPOSシステムの問題のように社会生活を送る中で知りうる知識についてですが、これらの知識を子どもに身につけさせるために受験生の親御さんはどのようなことをしたらよいでしょうか?

橘先生 私はこの問題を作る前に、POSシステムの話を自分の子どもにはしていまして、スーパーに行ってセルフレジを前にして「こうやってバーコードをピッとやると値段が一瞬で出るよ、すごくない?」と実践しながら会話したことを鮮明に覚えています。普段から子どもたちが「何を見ているのか?」大人が感じ取って、一言声をかけてあげると子どもたちはすごく面白そうに話をしてきますので、そういった話題作りは意識してみるとよいかもしれませんね。

最後に、清泉女学院に入学したいと考えている受験生の子たちへメッセージをお願い致します。

北宮先生 子どもにとって興味があるものでないと、自分の得意なものにはならないと感じています。女の子の場合、何かにとんがっている子は男の子ほど多くはありません。たとえば、「すごく算数はできるけど他は全くダメ」というのは男の子に多い傾向ですが、女の子は全教科まんべんなく仕上げてくる子が多いです。でも、算数がダメだったらダメでよく、その代わり国語でも社会でも何でもよいから、自分の中で得意な科目を思いっきり好きな状態で入ってきてほしいと思っています。

しかし一方では、入学後に苦手な科目をほったらかしにしておくわけにもいきません。そこでぜひ持っていてほしいのが「チャレンジする気持ち」です。最初から「私はどうせ算数がダメだから諦める」といった考えではなく、新しく中学生活が始まる先に新しい自分になろうという気持ちを持って挑戦することを忘れないでほしいと思います。

清泉女学院中学校 図書委員会の新入生入学企画

清泉女学院中学校 図書委員会の新入生入学企画

インタビュー3/3

清泉女学院中学校
清泉女学院中学校1877(明治10)年に創立の聖心侍女修道会(本部はローマ、世界20か国に約50の姉妹校)により、1938年、前身の清泉寮学院創立。47年に横須賀に中学、翌年高校を設立。63年に現在地に移転し、2023(令和5)年に創立75周年を迎える。進学率のよさから「鎌倉一の女学校」の座を堅持している。
大船駅西側の丘陵地帯、栄光学園と谷ひとつ隔てた玉縄城跡に位置する。緑の芝生が美しい7万m2もある敷地には、観覧席がある体育館、2面の広いグラウンド、コンピュータ室、憩いのスペースのカフェテリアなどがあり、充実した施設・設備を完備。02年には修道院を改修した新校舎ラファエラ館が完成、美術室や音楽室、少人数授業対応の教室など設備が一新された。
「神の み前に 清く 正しく 愛深く」をモットーに、より良い社会をつくるために積極的に貢献する人の育成を目指している。ほかのカトリック校に比べると、「校則」や校内の雰囲気は驚くほど自由で、利益や結果よりも目に見えない精神的価値を大切に考える。
完全中高一貫を生かした独自のカリキュラム。大学受験を強く意識し、英語と数学は中1から習熟度別授業を実施。理科は実験・観察が重視され、社会では新聞・ニュース番組・映画など現実感のある教材を活用している。高2から文系・理系の2コース選択制になる。理系に数学演習などを設置したり、文系国公立大学受験者向けの授業(選択)を追加したりと、大学受験対策がより充実しさらなる飛躍を目指している。医療系にも強い。
入学後、5月に富士山麓で1泊2日のライフオリエンテーションキャンプが行われ、建学の精神と友人への親しみを養う。中2の夏休みのライフオリエンテーション、理科野外学習、清泉祭(文化祭)、体育祭、合唱祭、クリスマスミサなどの行事がある。ボランティア活動も盛んで、さまざまな福祉活動に参加。23あるクラブは参加率90%以上。なかでも、音楽部は全国大会で高く評価されており、2025年にはBudapest International Choral Festivals(ブダペスト国際合唱コンクール)にて、出場3部門すべてで金賞を受賞。
生徒が主体となって活動する有志団体も多く、「清泉ピースプロジェクト」「AI(人工知能)倫理会議」など他校を招待して特色ある取り組みを行う。模擬国連大会に参加する生徒も多数おり、校内や他校での大会だけでなく、国際大会にも出場。