出題校にインタビュー!
清泉女学院中学校
2025年05月掲載
清泉女学院中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.普段コンビニやスーパーで触れる機会の多いPOSシステムにフォーカスした問題
インタビュー1/3
まずはこの設問の出題意図や想いについてお聞かせください。
橘先生 答えが決まりにくい問題ですから、作成時には周りから「採点はどうするのか?」「入試問題としてどうなんだろう?」といったことを言われていました。とはいえ、小学校3年から6年生にかけて4年間学ぶ社会科の、地理分野という枠組みで、人の行動がテクノロジーによってどう変容するのか?また技術の発展や工業製品といったものが私たちにどんな恩恵を与えてくれるのか?を問うことができるのではないかと考え抜いた問題です。
私自身スーパーなどに行って、日々POSシステムの使われる環境の中で買い物をしている身として「POSを題材にして何か問題にできるのでは?」と考えていたこともあり、中学受験の問題としてぜひ出題してみたいと思っていました。
今回出題したのはお店という非常に身近で小さな空間を題材にした問題ですが、その中には実は社会のさまざまな仕組みが詰まっています。たとえば、POSシステムは通信技術によって遠くの場所とつながっていて、データセンターには大量の情報が集められて活用されていたりします。さらには、メディアで取り上げられたり教材として扱われたりすることもあるなど、現代社会との関わりも深いため、社会に対して興味や関心を持っている受験生であれば、与えられた資料をもとに考えて答えを導き出してくれる受験生がいるのではないか?と思ったのが作問の経緯となります。
POSシステムを知らないと受験生の中には、設問を読んでもピンとこない子もいたのではないかと思います。実際の受験生の解答にはどのようなものがあったのでしょうか?
橘先生 (1)の設問に関しては、導入前の問題点を聞いているので「POS導入前は売れ残る数(割合)が多くて、捨てて無駄になるものがある」といった解答であれば点数をあげています。配点は3段階ほどの区分があって、求めている要件がすべて網羅されていれば最高点をあげました。
(2)については導入後の話ですので、「新たな製品開発に時間をかけられる」といった内容の解答が書かれていれば満点をあげました。そんな中、感動した解答のひとつに「無駄を省いてフードロスを減らせる工夫を考えられる」といったものがありました。一方で高い得点をあげられなかった解答としては、単に「SDGs」と書いてきたものです。もう一歩踏み込んだワードを使ってくれたらよかったと採点時には感じました。
本校はキリスト教の学校ですので、社会的に立場を弱くしている人に目線を合わせて考えることを大事にしています。そういった社会における活躍を期待する学校だと思っているので、こちら側の期待した解答の中には、たとえば「車椅子の方を助けてあげる時間ができるのではないか」とか「地域の高齢者に商品を届ける時間ができるのではないか」といったものがありましたし、実際にそういう解答をしてきた子も何人かはいて、点を与えました。
社会科/橘 英彰先生
表の存在意義を理解したうえで記述できたかどうかがポイント
ちなみに、不正解になってしまった解答にはどういったものがあったのでしょうか?
橘先生 問題文に書かれている文章をそのまま抜き出して書いてしまったようなものです。たとえば、国語の抜き出し問題のように答えと思われる部分を丸々書き写しただけの解答はバツにしています。
北宮先生 あとは、完全に文章の意のままに書いてしまっていて、表のデータを全く参考にしていないものも不正解にしています。表を参考にしつつ書き抜きした記述であれば、多少は点数をあげましたが、この表の存在意義が全く感じられず、ただ文章を引っ張ってきただけの解答は点数をあげていません。
橘先生 たとえば、「お客さんの好きな商品を調べることができる」といった解答では、表を見なくても記述できてしまいます。表を読んだうえで入荷数を調整したその後のことを考えて答えてくれたらよかったのに、といった類の解答はいくつかありました。
出来としてはどのくらいでしたか?
北宮先生 正直あまり点差が付かなかった問題で、だいたい半分ぐらいの出来でした。満点は数人程度と非常に少なかったですが、部分点を付けた解答はかなり多かった印象ですね。
清泉女学院中学校 校舎
世の中のつながりを感じ、つながりから学んでいってもらいたい
導入前に抱えていた問題が導入後によくなった、といった導入後の改善点を書いた受験生もいたのでは?と思ったのですが。
北宮先生 (2)の設問「どのような仕事に時間をかけられるか」の部分は、大人であればこのスーパーの中での仕事だと捉える人が大半だと思いますし、作問している時もそう思っていました。しかし実際の受験生の解答では、スーパーで働かなくてよくなった時間を使い、「家事する時間を増やせる」「家族との時間が持てる」「介護の時間が作れる」といったものがあり、スーパー以外の仕事と捉えた子もいました。そのような解答には点数をあげています。
橘先生 お店という閉じた空間から飛び出した解答を書いてきた子もいて、そういう子に高い評価をあげられた問題と言えるかもしれません。小学生には世界の課題に飛び出していける力があると思っているので、この問題がそのきっかけとなれば、作った本人としてはすごく嬉しいですね。
中等教育の中で、「なぜ勉強するんだろう?」ということは常に問われますし、自分も日ごろから考えています。その際、生徒が「これは何かにつながっている」と思いながら勉強するか、ただテストのために勉強してテストが終わったらそれで終わり、というのでは全然学びが違っていきます。
社会科に限らず本校のすべての教科でも同じだと思うのですが、あらゆるものにつながりがあって、そのつながりの中で学んでいくことに清泉女学院の教育があると思っています。そうやって勉強していった結果、誰もが一度は覚えたことを忘れてしまうでしょう。しかし、大人になって旅に出かけた時に、「あの時、中1の授業で先生が言っていたことがこれだった」とか、「高1の時に地理の授業の中で見た写真の実物を見ることができてよかった」といった経験を生徒にはしてもらいたいと願っています。
清泉女学院では入試問題のいろいろな部分で、経験をとても大切にしているんだと感じます。子ども目線で引っかかるようなことが問題の中にも表れているのですね。
清泉女学院中学校 学校創立者聖ラファエラ・マリア像
インタビュー1/3
1877(明治10)年に創立の聖心侍女修道会(本部はローマ、世界20か国に約50の姉妹校)により、1938年、前身の清泉寮学院創立。47年に横須賀に中学、翌年高校を設立。63年に現在地に移転し、2023(令和5)年に創立75周年を迎える。進学率のよさから「鎌倉一の女学校」の座を堅持している。