シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

開智中学校

2025年03月掲載

開智中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.「解いて楽しいと思ってもらえる」「リアリティを感じられる」問題に

インタビュー2/3

入試問題全体の構成に関してはどのようにお考えですか?

向井先生 一般的に、表現力や判断力を中高の学習の中で探究的に学んでいくスタンスの学校ですので、勉強して積み重ねていった知識についての評価も当然しますが、初めて見た問題でも、面白がって考えて答えを引っ張ってこれる力を、特に特待入試では意識して問題を作成しています。

第1回、第2回といった数字のつく試験は、基本的な力をきちんとつけたうえで試験に臨んでもらいたいですし、創発クラス入試(特待A入試)や特待B入試では、初見の問題でも諦めずに考える力を評価してあげたいと思って問題を作成しています。

写真やイラストが多いと感じるのですが、何か意識して入れているのでしょうか?

梅原先生 解いていて楽しんでもらえるように、またリアリティを感じてもらえるように意識して入れています。今回の問題で使用されている十島村の写真も以前私が撮った写真を使用しています。知識は現実なんだ、ということを伝えていく中で、受験生にはリアリティを持って欲しいと思っています。

入試責任者/向井 哲和先生

入試責任者/向井 哲和先生

日常の疑問やふとしたことをテーマに探究活動に取り組む

探究活動については、いかがですか?

向井先生 探究の授業では、たとえば「30年後の人口はどうなっていくか」といったテーマで話したことがありました。具体的にはシャッター商店街の写真を見せたり、大型商業施設に取り込まれていく悲しい世界の話をしたり、その大型商業施設が撤退をしてしまい買い物できる店舗がなくなっていく地方の現実を語ったりしました。また、小学校の人数が100人だったのが半分の50人になり、6学年を維持するのが大変だといった話、外国人労働者入れないと仕事が回らないといった話などもテーマとして取り上げたりもしました。

それ以外だと、男女の大学進学率の差について話したこともあります。東京の場合、男女とも大学進学率が高いわけですが、埼玉や山梨は男女差があります。このような差が生まれる見解として、「埼玉や山梨は、頑張れば都心に行ける男性はいる。でも女性の場合、東京の大学に行かなくてもいいんじゃないか、という考えが、まだ大人の中にあるのではないかという結論に至りました。実際に山梨出身の人に聞いてみたところ、「そういうところはあるかもしれない」と言っていましたね。

なお、この話は地方自治の地方創生の話や労働人口について、また社会保障をどうするかについてなどいろいろな単元に繋がっていくもので、グラフを見せたりしながら掘り下げて話したこともあります。教員側も答えが分からないので、「どうしてなんだろうね?」と生徒に聞きながらやって楽しかった記憶があります。生徒と疑問点を一緒に調べたりしながら、共に学ぶことは大事だなと、改めて痛感させられました。

開智中学校 グラウンド

開智中学校 グラウンド

対話を通じて思考を深める「哲学対話」

テーマを深く考えていく過程は、先生と生徒で、それとも先生は入らずグループで分かれて行っているのですか?

向井先生 中学生の場合、グループを作って考えて発表する、といった授業ができるのですが、高校生は割と早く授業を進ませないといけないため、グループディスカッションの形態にはしていないです。

なお、本校では「哲学対話」を行っており、本来はボールを使うところを、代わりにぬいぐるみを投げています。ぬいぐるみを持っている生徒だけが発言できるというルールで、ぬいぐるみを投げた相手に「あなたはどう思う?」と問いかけ、意見を引き出すようにしています。

問いかけると、生徒はどんな反応を示すのですか?

向井先生 たとえば地方創生の問題の場合、埼玉や東京に住んでいると「何が困るのだろう?」とあまりピンとこない生徒も多く、どうやってリアリティを持たせていくかが課題となっています。そのため、シャッター商店街の話をするだけでなく、写真を見せたりしながらイメージを持ってもらうように取り組んでいます。

また大学進学率の話でも、本校にいると自然と大学受験をする流れとなっているものの、必ずしも社会的には当たり前ではないということに気づいてくれるとよいのかなと思います。社会課題は普段の生活の中では見えないところにもありますので、そういったところに気づいてほしいですね。

1~4年の生徒全員が探究成果を発表する「探究発表会」

入学してきた生徒たちの中には、探究の視点が持てる生徒もいれば、世の中への疑問を持たない生徒もいるのではないかと思います。そういう生徒たちへのアプローチとしてはどんな活動をされていますか?

向井先生 本校では1~4年の生徒全員で探究発表会を行っているのですが、中1の生徒の発表時にはまず「褒める」ことをしていました。たとえば、「発表がうまい」「人前に立って話してすごい」「模造紙作ってすごい」「面白い」などと声がけをして、生徒みんなが肯定感を得られるようにすることを心がけていましたね。

本校の探究授業は生徒同士の学び合いで基本的に進んでいくので、教員の指導は入っておらず生徒と一緒に質問するぐらいです。ちなみに発表がうまい生徒の場合、同じようにうまい生徒が誰かわかるもので、「この子すごいな、真似してみよう」「負けないぞ」といった気持ちが芽生えてくるようで、発表のレベルが上がっているな、と感じることもあります。

開智中学校 「探究発表会」発表一覧

開智中学校 「探究発表会」発表一覧

長年続けている「今日の疑問」

梅原先生 10年ぐらい前から本校では学級日誌に「今日の疑問」という欄を作り、日直の生徒が何か疑問に思うことを書く習慣があります。たとえば「中華料理を作る時に、なんであんなに鍋を振るのか?」といったものが書かれることがあります。疑問の出し方は学力に比例する部分があって、上級クラスになるとこちらが「うーん」と唸るような疑問を出してくる子もいます。

インタビュー2/3

開智中学校
開智中学校1997年に岩槻に開校して以来、「平和で豊かな社会を作ることに貢献できる、創造型・発信型の国際的リーダーの育成」を教育理念とし、探究型の学びを中心とした新しい学習のあり方を模索し推進している。
岩槻キャンパスの自然豊かな敷地にある一貫部棟校舎は中央に5階までの吹き抜けがあり、開放的な空間となっている。その一階部分にはテーブルが複数置かれ、生徒たちが自習やミーティングなどで使用している。蔵書3万冊を超える図書室、広大なグラウンド、バスケコート二面がとれる体育館のほか、ステージ発表や講演などが行われるホールが複数あり、自習室にはブース式の学習スペースが140席程度用意されている。昼食は中2まで弁当持参だが、希望者には給食弁当もある。中3からは食堂などが利用できる。
入学時に入学者自身が自らの志望に応じてIT(目標の大学が決まっている人のコース),MD(医療従事者を目指す人のコース),GB(グローバルな仕事を志望する人のコース),FD(志望をこれから考えたい人のコース)の4つのコースのいずれかを選択する。加えて、全員がS特待生で構成される「創発クラス」を2024年度入学から設置。創発クラスでは数学の特別授業「ガウス数学チーム」など各教科でより発展的な授業を展開する。この4コース制と創発クラスは高1までで、高2からは志望大学別のクラス編成となり、医学部を目指す医系クラスも設置される。高2からは放課後の特別講座が開始され、生徒の多くが塾や予備校に頼ることなく難関大学への進学を目指す。さらに国際バカロレアのディプロマ・プログラムの候補校ともなっており、2025年4月以降はこの資格を利用しての海外有名大学への進学も視野に入る。
開智の教育の核となる探究活動は、中1から生徒全員が個人のテーマを決め、疑問・仮説・検証・結論のサイクルを何度も繰り返し、考察を深めていく。毎年行われる探究発表会ではポスター発表、スライド発表など様々な方法で生徒全員が発表を行う。フィールドワークは、中1は磯、中2は森で「はかる」「くらべる」をテーマにグループワークを行う。中3は関西をフィールドとして地域調査を行う。高1では首都圏で個人の探究テーマに関わる調査を実施し、高2ではイギリスの大学で現地の大学生を相手に探究の成果を発表する。中2~高1の希望者対象にオーストラリア・アメリカ・シンガポールなどへの語学研修もある。
生徒の自主性を重んじる校風で、生徒主体で作られた委員会や部活動もある。それ以外でも生徒の自主的な活動が活発で、SDGsなどの活動も盛ん。部活動は運動部18、文化部12、同好会1。ディベート部や文芸部かるた部門などは全国レベルでの活躍もある。