シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

市川中学校

2025年03月掲載

市川中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.数学を通して学んでほしい4つの力「比べる力」「見なす力」「次元の感覚」「規則性」

インタビュー2/3

作問秘話「ダメ出しに納得し、作り直した」

入試問題は、先生方がそれぞれ持ち寄って、セレクトするのですか。

秋葉先生 全員で作るわけではありません。毎年、数学科の教員の中から作問者を選んで、例えば、「中学入試の問題を作ってください」「高校入試の問題を作ってください」というように、グループを作るんです。そして、グループ全員で1年かけて1問ずつ作っていきます。

どんな問題を作るか、というところから話し合うのですか?

秋葉先生 そうです。「何をネタにしたいですか」と聞いて、後日、それぞれのアイデアの中から、「それだとこんなことができそうだね」という話をしながら進めて、大問を1個ずつ完成させていきます。つまり、同じことを4回やる、という感じです。

岩﨑先生 今回の時間割の問題もそうでした。「時間割で『場合の数』や『組合せ』が聞けるんじゃないか」というところからスタートして、「小学生の時間割だったら、算数、国語、理科、社会を入れたい」「じゃあ、時間割を作らせると面白いんじゃないか」と話を膨らませて、こういうルールをいくつか設ければ、「場合の数」がうまく聞けるんじゃないか、みたいな感じで進めていきました。ルールの設定はものすごく苦労しました。あまりにもルールが緩いと「場合の数」が増えてしまうので、ルールは絶妙に制限しつつ、適量になるように工夫しました。

最初に思い浮かんだのは、定期試験の監督中だったんです。教室の時間割を眺めていて、時間割で作りたいな、と思い、数学、国語、英語でちょっと作り始めちゃったんですよね。それを主任に見せて、意見を求めたところ、「小学生なんだから算国理社に決まってるだろう」と言われて、愕然としたんです。数国英で全部ルールを作っていたんで……。3科目から4科目に変えるのって、結構大変じゃないですか。大幅な改定が入って、チーム全体で泣く泣く「困ったな」って(笑)。「全部やり直しか」って言いながらやりました。
そういう状態で作ったので、結構これは難産な感じで生まれた問題なんです。ですから、今回、ポスターで紹介されると知った時は、すごく嬉しかったです。チーム一同、「頑張ってよかったね」と喜びを分かち合いました。

数学科・広報部/岩﨑 翔太朗先生

数学科・広報部/岩﨑 翔太朗先生

作問者が面白いと思える問題を出したい

岩﨑先生 チームで動いて、1つのネタからどういう問題ができるだろうかと考えることは、勉強になりますよね。また、設問の幅が広がりますよね。自分1人で作ると、自分の中の枠を超えることはないと思うのですが、メンバーの意見を聞いたり、主任の意見を聞いたりすることで、そういう問題の深め方、問い方があるのか、と気づいたり、この問題の可能性が広がっていく感じがしたりして、それはすごく楽しいんですよね。それがまず1つの狙いですよね。

秋葉先生 昔は各自で作ってドラフトをして、難易度を考えながら、(選ばれた問題の)マイナーチェンジをしていたのですが、そうすると本当に型が決まってしまい、面白い問題が少なくなります。教員の勉強も兼ねて、ここ最近はずっとそういう形で、ネタから作っていくという形でやっていますね。
小問が3問あるとしたら、(3)が先に浮かんでしまうので、そこに至る道筋で(1)(2)を考えていき、調整していくという感じです。

(1)から作っているわけではないんですね。

岩﨑先生 この問題は特にそうですよね。時間割を何通り作ることができるか、という問題で、そこに対する中間地点じゃないですけど、問題が読み取れてるかどうかとか。そもそもこの問題解くためにはここが必要だよね、というラインで、いくつかの小さいゴールを作っているイメージですよね。

秋葉先生 もちろん、入ってくる小学生の皆さんを選抜するテストではあるのですが。そもそも問題を作っている我々が面白くないと意味がないと思うんで。そこはすごい大事にしていると思います。

そうした工夫によって、入学した生徒さんに数学における何らかの変化は見られますか。

秋葉先生 算数が難しい学校と思われているんじゃないかなと思います。もちろん、中にはただ算数がすごい得意で入ってくる子もいますが、他教科がすごい得意で入ってくる子もいますので、我々が中学生を見ている中で、劇的に何かが変わっているかというと、そこまでは感じないですね。

岩﨑先生 そうですね。ただ、算数とか数学に対する興味関心が高い子は、少し増えてるような気はしますよね。数学オリンピックへの参加も、中1を中心に増えているので、数学が好きな生徒は以前と比べて少し多いような気がします。

市川中学校 数学博物館

市川中学校 数学博物館

数学を通して生徒の将来に役立つ授業を目指す

学校説明会ではどのような話をされていますか。

秋葉先生 学校説明会で、入試に関して僕が話しているのは、「全部の問題を見て、解ける問題から解いてくださいね」「大問1から解かなくていいんですよ」ということだけです。それ以外は数学の授業の説明です。そういう意味では、数学だけ異質かもしれません。

岩﨑先生 本当に主任が話すことは「時間の中で、効率よく解いてくださいね」ということだけで、後は数学科の考え方や、入学後の取り組みなどについて話しています。

数学科の考え方というと?

秋葉先生 結局、数学や算数を通して、何を身に付けて社会に出てほしいか、というと、これは数学科というより、自分の考えなんですが、「比べる力」「見なす力」「次元の感覚」「規則性」、今はこの4つの力が必要なんじゃないかと思っているのです。中学生だけでなく、高校生も、その4つを基本的に自分の授業の柱に据えて、これができればいいでしょうという形で進めています。
本当は入試でもそれを聞きたいのです。規則性の問題はどの学校さんも持っていてほしい力でしょうから、出すと思いますが、立体の問題では次元の感覚を問いたいわけです。

岩﨑先生は4つの力をどのように受け止めていますか。

岩﨑先生 算数は、おそらく複数のものを比べるところからスタートしていると思います。小学校1年生のテキストやドリルを見ても、数字の大きさを聞いたりしていますよね。それが算数、ひいては数学のスタート地点で、中学、高校あたりでは新しい数を定義して、こういうものをこういう風に見なすんだよ、というところから始まり、2つのものの大きさを比べるわけです。
その「比べること」というのは不等式にもつながります。そう考えると、主任が言っていることは、教科書には書いてないけれども、(教科書を作成している人たちが)押さえてほしいと思っているメッセージなのかなと、僕はとらえています。
中学校1年生から授業をしていくと、体系立てて分かってくるというか。教材に対する視点が身につくと、自分なりの解釈を授業に反映できるようになったので、そういう意味ではすごくいい勉強をさせていただいてるなと思っています。

秋葉先生 数式はいくら覚えても忘れるんですよ。我々もそうだし、塾の先生方もそうだと思います。だから、受験のためだけに勉強することに何の価値があるのか、と思ってしまうんですよね。理系に進む人は中高6年間、そうじゃない人も5年間、数学の授業があるので、我々教員は将来、学んだことが何かしら残ってほしいと思って授業を行うべきでしょう。だったら、公式よりも、そういう4つの力を身につけることが大事なんだよ、ということを分かってもらいたい。なぜなら、その4つの力は日常生活でもよく使う力だからです。物事をとらえたり考えたりする上での軸になると思うので、そこに気づいてほしいという思いで授業づくりに取り組んでいます。

市川中学校 掲示物

市川中学校 掲示物

インタビュー2/3

市川中学校
市川中学校1937(昭和12)年、市川中学校として開校。47年、学制改革により新制市川中学校となる。翌年には市川高等学校を設置。2003(平成15)年には中学で女子の募集を開始し、共学校として新たにスタート。同時に新校舎も完成させた。女子の1期生が高校へ進学する06年には高校でも女子の募集を開始。昨年4月には校舎の隣に新グラウンドが完成。2017年には創立80周年を迎えます。
創立以来、本来、人間とはかけがえのないものだという価値観「独自無双の人間観」、一人ひとりの個性を発掘し、それを存分に伸ばす「よく見れば精神」、親・学校以外に自分自身による教育を重視する「第三教育」を3本柱とする教育方針のもとで、真の学力・教養力・人間力・サイエンス力・グローバル力の向上に努めている。
効率よく、密度の濃い独自のカリキュラムで、先取り学習を行っていく。朝の10分間読書や朝7時から開館し、12万蔵書がある第三教育センター(図書館)の利用などの取り組みが連携し、総合して高い学力が身につくよう指導している。中学の総合学習はネイティブ教師の英会話授業。2009年度より、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校となる。授業は6日制で、中1、中2の英語7時間、中3数学7時間など主要科目の時間数を増やす。ほかに夏期講習もあり、中1・中2は英・数・国総合型講習を実施。高校では、高2で理文分けし、高3ではさらに細かく選択科目等でコースに分かれて学ぶ。授業の特徴としては、インプット型の学習で基礎力を育成するともに、SSHの取り組みとして、研究発表、英語プレゼンなどを行う「市川サイエンス」、対話型のセミナーである「市川アカデメイア」、文系選択ゼミの「リベラルアーツゼミ」といった発表重視のアウトプット型の授業展開を実施している。自らの考えを相手に伝える表現力を、論理的に考え、それを伝わりやすい文章で表現するスキルとしてアカデミック・ライティングといい、「読めて、書ける」を目指し「課題を設定する力」、「情報を正確に受け取る力」、「それを解釈・分析する力」、「自分の考えをまとめ・伝える力」を育てる。
高1の各クラスごとに3泊するクラス入寮は創立当時から続く伝統行事。クラブは中高合同で活動する。行事は体育祭、文化祭のほか、自然観察会、合唱祭、ボキャブラリーコンテストなどもある。夏休みには中1、中2で夏期学校も実施。中3でシンガポールへの修学旅行を実施。また、希望者を対象にカナダ海外研修(中3)、イギリス海外研修(ケンブリッジ大学、オックスフォード大学中3・高1)、ニュージーランド海外研修(中3・高1)、アメリカ海外研修(ボストン・ダートマス高1・高2)が実施されている。生徒のふれあいを大切にしているが、カウンセラー制度も設けて生徒を支えている。