シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

浅野中学校

2025年01月掲載

浅野中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.社会での学びは世の中をよりよく見えるようにするための貴重な時間

インタビュー3/3

社会の授業の特色を、ぜひ教えてください。

佐藤先生 社会科は地理・日本史・世界史・公民といったスタッフがいるのですが、「現在の世の中が、よりよく見えるようになってほしい」という想いを共通認識として持ちながら授業を行っています。たとえば、公民の授業は現在の政治や経済そのものですし、歴史は過去を見ることで今をよりよく知ることができます。また、地理もいろいろな地域を見ることで現在の世の中がわかる、といった具合に、多角的な視点で今目の前で起きていることが見えるようになってほしいなと思っています。

また、受験対策として社会科を勉強することは、受験のみのためであるとは思いません。短期的には大学に合格するために勉強をしていくのですが、大学入学後も社会科で学んだ知識は絶対に活きてきます。大学に入学した後も活躍し続けるために、中高の6年間で一生懸命勉強して、世の中が見えるようになってほしいと思います。

徳山先生 他教科の立場から社会科の先生方の生徒たちへの働きかけを見ていると、「世の中の一員であることを強く自覚して世の中に興味を持とうという流れの中で授業を展開し、そしてまた揺さぶってくれているな」というのを強く感じますので、生徒たちにもその想いがしっかりと伝わっている実感はあります。

佐藤先生 社会の得意な子の中には、授業中に参考書を積み上げて話を聞いている生徒もいます。自分で参考書をめくって内容を確認しながら授業に参加している子がいることには、とても感心しています。

たとえば、「今年はこのあたりを攻めてみよう」「地理・歴史のつながりをもう少し強めに出してみよう」といった話を先生方でされることはありますか?

佐藤先生 ある程度は担当教員の裁量で任されていますので、「この部分をテーマにしてみよう」というのは教員によりますね。

徳山先生 生徒を得意分野に引き込みつつ、少し教科書の内容を出すぐらいだと面白い授業になっていくのかなという気がします。同じ社会科の中でも違う先生が同じ内容の授業をすると、年によって教科書からはみ出している部分や場所が違うこともあるようです。

浅野中学校 生徒作品(高校生)

浅野中学校 生徒作品(高校生)

江戸時代の古地図から今の場所を探索する校外研修

何か特別な授業をしている、または外部のプログラムを使っているといったことはありますか?

佐藤先生 学校行事として、歴史系のものだと、たとえば東京などを班別で回り、江戸時代後期の古地図を使って、「この場所はどこか?」を探してみるといった校外研修を行ったりしています。正直なところ、ネットで判別することもできるのですが、それを実地で探すことに面白みがあります。まずは簡単なヒントを出して、生徒に調べてきてもらい、レポートを書かせる形をとっています。生徒はChromebookを持たせているので、班別のレポートはGoogleドキュメントの共同編集にて4人で1枚のレポートを編集しながら作成させるなど、グループワークもさせたいという試みを行っています。

他には公民系だと外部のプログラムを導入しています。企業から出た「こういう商品をプレゼンテーションしてほしい」といった課題を調べたり考えたりして、その企業の方の前で発表するといったことを高1で行っています。

校外研修で古地図を使って場所を探索するとのことですが、実際に体験した生徒はどういった様子でしたか?

佐藤先生 生徒に「その場所には〇〇があった」と報告されるものは意外と外れていて、全然違うものを言ってくるケースは多いですね。たとえば、「江戸時代の古地図上の上野の寛永寺に行ってきなさい。そこに何があるか見てきなさい」と調査させた時には、多くの生徒が「寛永寺があった」と書いてきましたが、今の寛永寺は江戸時代にあった場所から移転していて…、といったケースもありました。

実際行ってみるのはとてもよいと思っていて、その場から感じられることは多々あります。たとえば、教科書にはない新しい発見や、雰囲気、匂いなども感じられると思います。そういった体験を大切にしてほしいですね。

浅野中学校 グラウンド

浅野中学校 グラウンド

授業を通じて情報を取捨選択できる能力を身に付けさせたい

これから社会に出るにあたり、御校の生徒がどんな力をつけて、どんな人に育ってほしいか、社会科の先生としてどういうお考えをお持ちなのか教えてください。

佐藤先生 社会科の勉強を通じて、情報処理能力を身につけてほしいと思っています。世の中には情報は無数にあります。当然ながらそれを全部は処理しきれません。ですから、何かしらの情報を取捨選択し、整理整頓して持論や姿勢を示すことが重要です。

そういう意味で社会科は、世の中に飛び交っている情報をうまくキャッチできるアンテナや棚を作り上げる教科であると思っています。知識は覚えては忘れるものですが、棚に入れることで残っていくものです。ざっくりした棚でも持っていれば、これからも生まれてくる無数の情報を、適切に処理できるようになると思います。

根拠のある回答を

最後に受験生に対してのメッセージをお願いいたします。

佐藤先生 社会科で学ぶことは、必ずいま世の中で起こっていることとつながっています。ですから、そういった意識で社会科を学んでほしいですし、説明できるようになってほしいとも思います。その結果、世の中がよく見えるようになると、よく知ることもできるようになり、学ぶことが楽しくなります。世の中は、本当に面白いですよ。

徳山先生 本校では、「解答には理由や根拠をしっかり示してほしい」という思いを込めて入試問題を作成しています。
入試本番では限られた時間の中で解答する必要がありますので、過去問に何度も取り組み、しっかりと準備を整えた上で試験に臨んでいただきたいと考えています。なお、入試に向けて準備してくださった方たちを裏切らないよう、問題傾向が大きく変わることはないように配慮していますので、過去問練習を行う際にはどのぐらいの時間をかけて問題を解けばよいか体得する訓練をしておくとよいでしょう。

中学受験は、あえて受験にチャレンジしようと努力してきた子たちが集まる場です。そんな中学受験を乗り越えた子たちなら、本校に限らず行ったそれぞれの学校で同じ努力をしてきた仲間と出会い、大切な6年間をともに過ごすことで、自分の生涯の味方となり得る友人を得られるはずです。本校には、同級生だけではなく頼りになる先輩もたくさんいますので、学校生活を楽しみにぜひ入学を目指してほしいと思っています。

浅野中学校 図書館(清話書林)

浅野中学校 図書館(清話書林)

インタビュー3/3

浅野中学校
浅野中学校1920(大正9)年、事業家・浅野總一郎によって創立。当初はアメリカのゲイリー・システムという勤労主義を導入し、学内に設けられた工場による科学技術教育と実用的な語学教育を特色とした。戦後間もなく中高一貫体制を確立し、1997(平成9)年に高校からの募集を停止。難関大学合格者が多い進学校として知られているだけでなく、「人間教育のしっかりした男子校」としても高い評価を受けている。「九転十起・愛と和」を校訓とし、自主独立の精神、義務と責任の自覚、高い品位と豊かな情操を具えた、心身ともに健康で、創造的な能力をもつ逞しい人間の育成に努めることを教育方針とする。校章は、浅野の頭文字で「一番・優秀」の象徴である「A」と「勝利の冠」である「月桂樹」から形作られており「若者の前途を祝福する」意味が込められている。
横浜港を見下ろす高台にある約6万平方メートルの広大な敷地の約半分を「銅像山」と呼ばれる自然林が占めている。Wi-Fi環境が整い、中学入学後に購入する個人端末で授業や行事、部活動を展開している。2014(平成26)年には新図書館(清話書林)、新体育館(打越アリーナ)が完成、2016(平成28)年にはグラウンドを全面人工芝とし、施設面が充実している。
中高6年間一貫カリキュラムを通して、大学受験に対応する学力を養成することが目標。授業を基本とした指導が徹底している。中学の英語では週6時間の授業に加えて、毎週ネイティブスピーカーによるオーラルコミュニケーションの授業もある。数学では独自の教材やプリントが使われていて、中身の濃い授業が展開されている。高校2年から文系・理系のクラスに、高校3年では志望校別のクラスに分けてそれぞれの目標に向けた授業を行う。進路選択は本人の希望によるが、理系を選択する生徒の方が多くなる傾向がある。全体的にハイレベルな授業が展開されているが、高度な授業展開の一方で、面倒見のよいことも大きな特徴。授業をしっかり理解させるために、宿題・小テスト・補習・追試・夏期講習などを行い、授業担当者が細かく目を配っている。一歩ずつゆっくりと、しかし、確実に成長させるオーソドックスな指導方針が浅野イズム。
「大切なものをみつけよう」ーこれは学校から受験生へのメッセージ。生徒にとって学校は、一日の内の多くの時間を過ごす場所。勉学に励むことはもちろん、部活動や学校行事にも積極的に参加して、その中で楽しいこと、嬉しいこと、悔しいことや失敗をすることも含めて多くのことを経験してもらいたいと考えている。学校でのそのような経験が、学ぶことの意味、みんなで協力することの大切さと素晴らしさ、生涯、続いていくような友人関係、そして、決して諦めない強い心を育んでいくことになる。浅野中学校、高等学校という場を思う存分活用して、人生において大切なものをたくさん見つけ、成長してほしいとの願いが込められている。
部活動と学習を両立させる伝統があり、運動部の引退は高校3年5~6月の総合体育大会、野球部は甲子園予選までやり通す。中学では98%の生徒が部活動に参加している。ボクシング、化学、生物、囲碁、将棋、ディベート、演劇が全国レベル。柔道、ハンドボールやサッカーも活躍している。また、5月の体育祭と9月の文化祭を「打越祭」として生徒実行委員が主体となって運営する。これをはじめ、学校行事も盛んで生徒一人ひとりが充実した学園生活を送っている。
「銅像山」は、傾斜がかなりきつく、クロスカントリーコースとして運動部の走り込みに使われるだけでなく、中学生たちの絶好の遊び場所となっている。また、各学年のフロアに職員室を配置してオープンにすることで、生徒と学年担当の先生が日常的に対話を行っている。こうしたメンタルケアにも力を入れている。