シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

浅野中学校

2025年01月掲載

浅野中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.計算やグラフを交えた算数的な要素を含んだ入試問題

インタビュー1/3

この設問の出題意図について教えてください。

佐藤先生 地理分野にて農作物の最適な生産地域を考える問題となります。通常、このような地域的な違いについて考えるケースでは自然条件をテーマに持ってくることが多いのですが、この問題は市場との距離や販売価格といった社会的条件について聞いてみた点について工夫を施した問題となっています。

これは、ドイツの地理学者チューネンが1826年に発表した『孤立国』という書物において「農業立地論」を唱えており、それを受験生でも理解できるような形に単純化した問題です。生徒たちの多くは社会科というと、「用語を答える」「説明する」といったイメージが強いと思います。ですが、ここではあえて計算式やグラフを出してみることで頭を使わせたり、考えさせたりするスタイルの出題形式を入れてみました。

四則演算レベルではあるものの、実際の経済学では数学も使いますし、歴史的な理解が必要になってくることもあります。それぞれの教科で分けた考えではなく、教科横断的に繋がっていることがわかるような形式の問題としました。

たとえば、社会科は得意だけど算数は苦手、あるいは算数が得意だけど社会科は嫌いなど、いろいろケースはあると思いますが、そういった受験生に「社会科でも算数の知識が活きるんだ」といった部分が伝わってくれれば嬉しいですし、異なる分野の知識を統合する問題もできるようになってほしい、という学校からのメッセージを入れ込んだ問題となっています。

お話のように、自然条件の雨温図や気温などを見ながら出荷時期やどこの産地かを聞くといった問題はよく出題されていますが、社会的条件のインフラにまで目を向けた問題はあまり見たことがありません。
ちなみにこの問題はどのくらいの正答率でしたか?

佐藤先生 具体的な正答率は出せませんが、かなり出来ていました。時間もタイトだったとは思うのですが、その中ではしっかりと解けていたと思います。

徳山先生 この問題は、知識問題ではなくしっかり手を動かさないと答えが出ない問題のため、少し時間がかかるだろうなと思っていました。正答率が高かったということは、問題の意味を理解して解いてくれて、それでしっかり正解にたどり着いていた生徒が多かったということになります。本校の社会科と理科は試験時間が40分と短いので、この手の問題にどれだけエネルギーを割けるかが、受験生にとって勝負になるのではないか?という気がしています。

社会科/佐藤 亮先生

社会科/佐藤 亮先生

社会とのつながりを意識した問題

作問時に特に意識したことはありますか?

佐藤先生 問題の作成においては、現実社会とのつながりは意識しています。私自身、学校で学ぶことと実際の世の中で起きていることはつながっている、ということは授業でも意識させたいと考えていますし、他の社会科の教員も常に問題や関心を持って教えていますので、その意識が入試問題にも反映されていると思います。40分という短い時間で問題を解くにあたり、あまり複雑になっても周りの問題とのバランスを崩してしまう可能性もありますので、ある程度解きやすく、こちらが想定している時間の中で解いてもらえるように配慮しています。

浅野中学校 校舎

浅野中学校 校舎

問題を通じて現実の社会が見えてくる

実際、いちごはあまり日持ちがしないといった鮮度の問題がある一方で、米はかなり地方の山奥でも作っているように思います。

徳山先生 スーパーに並んでいる農作物の産地を見ると、米は東日本から北日本にかけて全県生産地が並んでいますが、いちごはそんなに遠くではないように感じます。ブランドいちごだと西日本産のものもありますが、関東近辺だとほとんどは栃木県や静岡県から来ているのではないでしょうか。

この問題は、大問が2つあるうちの最初の真ん中あたりの問題でした。そうすると、ここで時間をかけてしまっていると受験生も焦ってしまったかもしれません。何分ぐらいで解いてもらいたかった問題ですか?

佐藤先生 最初は問10の(1)(2)で5分ぐらいかかるのでは?という印象でしたが、全体として時間が足りなかった受験生は少なかったので、それほどかからなかったのではないでしょうか。

浅野中学校 図書館(清話書林)

浅野中学校 図書館(清話書林)

インタビュー1/3

浅野中学校
浅野中学校1920(大正9)年、事業家・浅野總一郎によって創立。当初はアメリカのゲイリー・システムという勤労主義を導入し、学内に設けられた工場による科学技術教育と実用的な語学教育を特色とした。戦後間もなく中高一貫体制を確立し、1997(平成9)年に高校からの募集を停止。難関大学合格者が多い進学校として知られているだけでなく、「人間教育のしっかりした男子校」としても高い評価を受けている。「九転十起・愛と和」を校訓とし、自主独立の精神、義務と責任の自覚、高い品位と豊かな情操を具えた、心身ともに健康で、創造的な能力をもつ逞しい人間の育成に努めることを教育方針とする。校章は、浅野の頭文字で「一番・優秀」の象徴である「A」と「勝利の冠」である「月桂樹」から形作られており「若者の前途を祝福する」意味が込められている。
横浜港を見下ろす高台にある約6万平方メートルの広大な敷地の約半分を「銅像山」と呼ばれる自然林が占めている。Wi-Fi環境が整い、中学入学後に購入する個人端末で授業や行事、部活動を展開している。2014(平成26)年には新図書館(清話書林)、新体育館(打越アリーナ)が完成、2016(平成28)年にはグラウンドを全面人工芝とし、施設面が充実している。
中高6年間一貫カリキュラムを通して、大学受験に対応する学力を養成することが目標。授業を基本とした指導が徹底している。中学の英語では週6時間の授業に加えて、毎週ネイティブスピーカーによるオーラルコミュニケーションの授業もある。数学では独自の教材やプリントが使われていて、中身の濃い授業が展開されている。高校2年から文系・理系のクラスに、高校3年では志望校別のクラスに分けてそれぞれの目標に向けた授業を行う。進路選択は本人の希望によるが、理系を選択する生徒の方が多くなる傾向がある。全体的にハイレベルな授業が展開されているが、高度な授業展開の一方で、面倒見のよいことも大きな特徴。授業をしっかり理解させるために、宿題・小テスト・補習・追試・夏期講習などを行い、授業担当者が細かく目を配っている。一歩ずつゆっくりと、しかし、確実に成長させるオーソドックスな指導方針が浅野イズム。
「大切なものをみつけよう」ーこれは学校から受験生へのメッセージ。生徒にとって学校は、一日の内の多くの時間を過ごす場所。勉学に励むことはもちろん、部活動や学校行事にも積極的に参加して、その中で楽しいこと、嬉しいこと、悔しいことや失敗をすることも含めて多くのことを経験してもらいたいと考えている。学校でのそのような経験が、学ぶことの意味、みんなで協力することの大切さと素晴らしさ、生涯、続いていくような友人関係、そして、決して諦めない強い心を育んでいくことになる。浅野中学校、高等学校という場を思う存分活用して、人生において大切なものをたくさん見つけ、成長してほしいとの願いが込められている。
部活動と学習を両立させる伝統があり、運動部の引退は高校3年5~6月の総合体育大会、野球部は甲子園予選までやり通す。中学では98%の生徒が部活動に参加している。ボクシング、化学、生物、囲碁、将棋、ディベート、演劇が全国レベル。柔道、ハンドボールやサッカーも活躍している。また、5月の体育祭と9月の文化祭を「打越祭」として生徒実行委員が主体となって運営する。これをはじめ、学校行事も盛んで生徒一人ひとりが充実した学園生活を送っている。
「銅像山」は、傾斜がかなりきつく、クロスカントリーコースとして運動部の走り込みに使われるだけでなく、中学生たちの絶好の遊び場所となっている。また、各学年のフロアに職員室を配置してオープンにすることで、生徒と学年担当の先生が日常的に対話を行っている。こうしたメンタルケアにも力を入れている。