シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

渋谷教育学園渋谷中学校

2025年01月掲載

渋谷教育学園渋谷中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.基礎と応用の両輪を上手に走らせよう!

インタビュー3/3

小テストで成功体験を重ねて苦手意識を払拭

数学に苦手意識をもっている生徒さんには、どのようなアプローチをしていますか。

野村先生 これもきちんとデータを取っているわけではありませんが、高校数学は難しいので、高校に上がる頃に苦手意識をもつ生徒が増えます。そういう子たちに対しては、小さな成功体験を積ませたいので、私は授業中に必ず小テストを行います。前回までの内容や、その日の授業につながるような内容を入れたり、一年前に習った内容を少し入れたりしたテストを、何回か繰り返し行うと、そのテストでいい点を取ろうと頑張るようになります。そこで、復習ができるようになると、「数学がだいぶマシになりました」などという声をあげる生徒がちらほらと出てきます。

まずは小さい成功体験を積ませつつ、授業では「教科書に書いてあることよりも、なぜそういうことをやろうと思ったのかとか。こういうことを考えられるようになると、こんな便利なことが起こるんだよ」とか。教科書に書いていないことをなるべく補足して、確かに勉強する価値はあるな、やってみてもいいかな、みたいな気持ちにさせることを、少なくとも私は意識はしています。

中には、数学の美しさに対して「おお!」となる子もいれば、この学びがどういうところに使われているかという実用性に、すごく反応する子もいるので、どちらも100パーセントずつが理想ですが、そこのバランスを取りながら、どちらかが0にならないように意識しています。

渋谷教育学園渋谷中学校 図書室

渋谷教育学園渋谷中学校 図書室

「対数」は感覚と結びつけると面白くなる

実用数学の事例を1つ、お話いただけますか。

野村先生 私が渋渋で最初に実用数学の話をしたのは「対数」でした。中学生で「指数」を少し習うのですが、それと反対のものとして「対数」を挙げ、対数が何に使われているかという話の中で、定番の「マグニチュード」の話をしました。

「マグニチュード3とマグニチュード6とでは、どのくらい地震のエネルギーが違うと思う?2倍じゃないよ。マグニチュードが1違うと、地震のエネルギーは32倍も違うんだ。3と6とでは32倍の3乗、想像もつかないほど違いがあるんだよ」という話から、「対数」はものすごく大きすぎる数を人間の感覚にあえて近づけて、わかりやすくするためにある、ということを伝えて、人間の感覚のために対数がある、というところまで話を広げました。

逆に、人の嬉しさなどの感覚も「対数」なのです。生徒に「好きな果物を1個教えて」と聞き、「りんご」と言う生徒がいたので、「いいですね。では、今からりんご関数というグラフを一緒にかきましょう」と言いました。「さて、皆さんがおなかがぺこぺこの状態で、しかも家にりんごが0個のときを考えます。嬉しさは0ですね。そこにお母さんが帰ってきて、りんごを1個買ってきてくれたら、皆さんはどれくらいテンションが上がりますか?横軸をりんごの個数、縦軸を嬉しさの大きさにして、グラフに表してみて。」と言うと、生徒たちはかなり高い位置に点をかきます。「まだ食べちゃだめだよ。その直後、お父さんが帰ってきて、またりんごを1個買ってきてくれたらどう?そのときの嬉しさはどれくらい?」と聞くと、1個目のお母さんのりんごで記したところよりも、もちろん増えるのですが、感覚として2倍にはならないですよね。その後、次々とお姉ちゃんも弟も1個ずつ買ってきたら、嬉しさは上がりますが、お母さんのときの増え方ほどではありません。だんだん、ゆるやかになると思います。「このりんご関数が対数のグラフだよ」「経済学で学ぶ、限界効用逓減(ていげん)の法則だよ」という話をしました。

なるほど。わかりやすいですね。

野村先生 お金をもらったときもそうですよね。100万円持っているときの1万円と、何も持っていないときの1万円とでは、きっと嬉しさが違うと思います。経済学でも「対数」が使われている、ということがわかると、意識が変わります。教科書を読むだけでは無機質な「対数」も、感覚と結びつけると面白くなるので、そういう授業ができるように心がけています。

渋谷教育学園渋谷中学校 図書室

渋谷教育学園渋谷中学校 図書室

深く考えることができる大人になってほしい

社会に出た教え子の皆さんの姿を見て、思うことはありますか。

野村先生 卒業生が本校に遊びに来たときに話していて、嬉しい気持ちになるのは、「野村先生の授業を受けたおかげで、大学で数学を履修することにしました」と言ってくれたときです。社会でどこまで使えているかわかりませんが、(数学への)抵抗感は小さくなっていると思うからです。

数学がすごくできて理系に進んだ子は、純粋数学はもちろん楽しいと思いますが、何かに応用する道具として数学を活用しています。例えば、「AIのプログラミングをやっています」とか、「宇宙工学をやってます」とか。もちろん、手計算はないと思いますが、頭の中で数学がわかっていないとパソコンに指示を出すこともできませんので、そういったところにはつながっているのかなと思います。

数学の先生という立場から、社会へ羽ばたく子どもたちや生徒さんに向けてメッセージをいただけますか。

野村先生 他教科も同様かと思いますが、算数、数学に対する興味関心は常に持っていてほしいなと思います。例えば、今回のこの問題を解いたら、時計の針の動きなどに対する意識が変わると思います。そういうきっかけがあったときに、なぜだろうと考える力を養ってほしいです。AI社会とはいえ、そこを考える力はまだまだ人間の強みだと思うからです。

また、論理立てて考える際には、やはり数学が幹になると思いますので、中学2年生の授業でも少し高校数学の論理の問題などに触れています。じっくり考える、あるいは、他に例外はないかと深く考えるなどということは、ぜひ続けてほしいと思いますし、そういうことができる大人になってほしいと思います。

最後に、貴校を目指している受験生に、身につけてほしい力を教えてください。

野村先生 常に興味関心を持ちつつ、中学入試の過去問などを見ながら、これ面白いなとか、自分で設定を変えてみるとか。そういう工夫をしてみてください。加えて、コツコツ努力することを大切にしていただきたいですね。きちんと学ばなくてはいけないこと、できるようにならなければいけないことがあります。典型的な処理も怠ることなく、上手に両輪を走らせてください、というのが私からのアドバイスになります。それは本校の目指してるところに1番近いところでもあるので、その2つの力を身につけてもらえれば、きっと入学できると思いますし、本校でさらにその力を伸ばすことができると思います。それだけの環境が整っている学校だと思います。

渋谷教育学園渋谷中学校 生徒作品

渋谷教育学園渋谷中学校 生徒作品

インタビュー3/3

渋谷教育学園渋谷中学校
渋谷教育学園渋谷中学校地上9階・地下1階の校舎は、地域との調和と快適な環境をコンセプトとして設計されており、都市工学の先端技術が駆使されています。これからの新世代にふさわしい、充実した学校生活を提供されています。教育目標は、21世紀の国際社会で活躍できる人間を育成するため「自調自考」の力を伸ばすことを根幹に、国際人としての資質を養う、高い倫理感を育てる、という3つです。
学習面における「自調自考」を達成するために、シラバス(学習設計図)が活用されています。シラバスは、教科ごとに1年間で学習する内容と計画が細かく書かれたもので、家づくりにたとえるならば設計図にあたるものです。シラバスをもとに、生徒自身が「いま何を学んでいるのか」「いま学んでいることは何につながるのか」ということを常に確認し、自ら目標を設定することで学習効果が上がるように指導されます。「何を学び、学んでいることは何につながるのか、全体のどのあたりを勉強しているのか」を確認しながら、授業に目標を持ち積極的に参加して、毎日の学習に取り組むことができます。外国人教師による少人数英語教育が実践され、さらに、中学3年生から、希望者は英語以外にもうひとつの言語を学ぶチャンスがあります。ネイティブの教師と一緒に自分の世界を広げてみましょう。開講講座は、中国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語です。海外研修は希望者を対象に、中学のオーストラリア研修、高校のアメリカ・イギリス・シンガポール・ベトナム研修があります。研修の目的は若者交流です。異文化理解や語学研修など、さまざまな経験を通して交流の輪が広がります。海外からの帰国生も多数在籍しており、留学生も受け入れています。
自分を律する心を養い、一人ひとりの人生をより豊かにし、人のために役に立ちたいと思う人間を育むため、生徒の発達段階に合わせたテーマで、6年間で30回にわたる「学園長講話」が行われています。