シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

渋谷教育学園渋谷中学校

2025年01月掲載

渋谷教育学園渋谷中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.生徒の気づきを引き出し大切に伸ばしていく環境が整っている

インタビュー2/3

記述問題では自分の考えを書いてほしい

記述問題は結構書けていますか。

野村先生 おかげさまでと言いますか、すごく書いてくれるようになってきた気がします。私が本校に赴任したとき、6年生の男の子の親御さんが相談に来たことが何回もありました。字が汚いので「これで伝わりますか」と聞くのです。文章で説明することに若干の性差はあるのかもしれません。本当は伝わるように書くべきですが、(受験生が)頑張って書いてくれた解答は、多少わかりにくくても「これなんだろうね」と採点に関わる教員と話しながら、できるかぎり読み取ろうという姿勢で採点しています。

答えのみでも正解になりますか。

野村先生 説明会でも申し上げていますが、記述問題の場合「途中式を書いてください」という指示なので、答えだけの場合、満点はあげないようにしています。

本校の記述問題も、読み取れないからとか、ここの部分が全然足りていないからとか、基本的にそういう粗探しをすることが目的ではないんですよね。途中で間違えているときに、計算式だけだと救えないですよね。説明する力があれば、計算が最後までたどり着けなかったり、ちょっとした勘違いがあったりしても、わかっているところまでは拾ってあげられるので、そういう目的で出題しています。

渋谷教育学園渋谷中学校 図書室

渋谷教育学園渋谷中学校 図書室

考えたことをありのままシンプルに書こう

一生懸命書くこと、伝えることが大切ということですね。

野村先生 そうですね。これも説明会で申し上げていることですが、きちんとした文章で説明を書いてほしいということではありません。たまに、いろいろな出版社さんの模範解答のようなものを書いてくる受験生がいます。「よって、何々です」というような文章にする必要はありません。例えば、今回のように点が動いていたら、どの時か、ということがある程度わかるように書いてくれればいいのです。図を書いて「この二等辺三角形の時」と書くだけでも、この子はそう考えているんだな、ということがわかります。この日は、二等辺三角形で速度の比がわかってるので、「2:2:1の関係です」ということを書いている子が多かったような気がします。

それもねらい通りでしたか。

野村先生 そうですね。時間をかけずに要点だけを抑えて記述している受験生と、緻密にやろうと、点の動きを追ってしまう受験生がいました。数学では「この状態です」と答えると、「これ以外に(別解は)ないの?」と言われると思うのですが、算数の場合は「今回(2)で聞かれている状態ですよ」というように、完成形を見ずに、答えを「こうこうこうです」と書けるので、そこまでは求めていません。きちんと様子がわかっているな、とわかるように書いてくれればよしとしています。グラフの変化的なものもありつつ、図形的な直感というか。おうぎ形があればもちろんそれは嬉しい、という感じです。

まず、問題を解くことの楽しさを伝える

数学の授業の特徴や教科の考え方などをお伺いできますか。

野村先生 算数と数学の接続部分で意識しているのは、算数ではずっとテストに向けた勉強をしてきていると思うので、その感覚を引きはがすということです。「純粋に勉強を楽しみましょう」「自分の力で勉強習慣を作っていきましょう」ということを、全教科的に伝えています。

それを話していく途中で、問題を解くことの楽しさを伝えています。答えが出るだけ、あるいは算数的な◯がもらえるかどうかではなく……。そこにどうやってたどり着いたのか。どうやって他の選択肢を消したのか、というところが、中学校、高校の6年間でずっと試されていきます。

授業の工夫としては「どうしてそれ以外の答えがないのか」と聞くことを、意図的に取り入れています。それを最初は拒絶する生徒もいます。「これが出ればいいじゃん」とか。「これ以外ないじゃん」とか言ってくるのですが、「なんで?」「なんで?」と聞いていくと、例えば、すでに方程式を習っている子は「答えが1個しかない」ということに気がつきます。「算数よりも数学のほうがしっくりくる」という子もいます。「そこがずっとモヤモヤしてたけれど、確かに1個しかない。説明できるようになった」という発見があるので、特に中学1年生、2年生の間は意識的に取り入れています。

渋谷教育学園渋谷中学校 生徒作品

渋谷教育学園渋谷中学校 生徒作品

高1までに高校数学を終えるカリキュラム

算数から数学にスムーズに移行できない理由を、どのようにお考えですか。

野村先生 算数と数学の性質そのものの違いだと思います。生徒たちは算数で成功しているので、算数の力で解くほうが速いのです。ですから、脱皮というか、算数を1回捨ててほしいと思っています。わざわざ面倒くさい方法でやることに抵抗感があるかもしれませんが、「これまでにできたことを、新しい方法でやってみましょう」ということも、今、担当している中2にもよく言っています。

授業の進度は早いですか。

野村先生 高校入試がないことの恩恵だと思いますが、学習指導要領のスピードに比べると早いと思います。高1までに基本的に数IA、数IIB、さらに数学Cのベクトル界隈まで終わらせます。そのスピードでも生徒はついてきます。毎回、授業をしながら、こんなこと、わかるのかな、と思って教えていますが、わかってしまう、みたいな(笑)。もちろん全員ではありませんが。

例えば中1、中2のうちに中学校の内容を終わらせて、中3、高1の間で高校数学(数IA・数IIB)を終わらせて、高2から文系、理系に分かれるので、理系の生徒は残っている数IIIを頑張り、文系の生徒は演習や復習をします。

生徒の授業への参加度は高い

生徒の授業への取り組みはいかがでしょう。

野村先生 本校の生徒は、授業への参加度は高いですし、課外活動にも積極的です。いつもの問題で設定を変えてみる、ということをしたときの反応も本当にいいので、段々自分たちでそれを見つけられるようになります。例えば、立方体の断面の確認を目的に、透明な立方体の容器に空の状態から色水を入れていき、半分くらい入れたところで傾けて、「この3点を通るように切ったらこういう断面図ができるね」ということを実際にやらせてみました。正六角形になる瞬間、正三角形になる瞬間、を確認していくうちに、「器を傾けたまま水を入れていくと、高さの増え方もまた違うな」などと言ったりする生徒もいるんですね。やっていることはみんなと一緒なのですが、とても良い発見だけど今はそこじゃないよ、と言いたくなるようなところに気づくのです。

体験的な学びやグループ学習が豊富

体験的な学習も結構取り入れているのでしょうか。

野村先生 そうですね。コロナを機にデジタルで見せることが増えています。切断面など、生徒に見せたほうがいいものは生徒たちの前でパソコンで見せたり、何人かのグループでタブレットを使って生徒が手を動かしたり……。いつでもというわけではありませんが、わいわいやっています。

多面体を真上から見てみようなどというのも、「ノーヒントで」「頭の中だけで」あるいは「書いていいよ」などの声かけによって行います。「書いていい」と言われても、正12面体は書けません。「わーっ」となっているときに、「ちょっと角度を変えて見てみよう」などと言うと、生徒は「こんな形になってる」とか、「なぜここが正三角形になるのかな」「正六角形になるのかな」などと言いながら、手も動かしながら考えていきます。「これ、東大入試で出たよ」などと言うと反応がいいです。

内容によって実物とデジタルを使い分けていますか。

野村先生 使い分けています。先ほどのその立体の断面図の確認も、デジタルになり水を使わなくなったので見やすくなりました。変化も早いし、こぼさないので、こちらとしては助かるのですが、体積の変化や断面図の変化などはデジタルでは気づけないんですよね。目的を達成するためにはデジタルが相当優れてるというか、一点突破な気はしますが、余白の部分はアナログ的なもののほうが生まれやすいのではないかと感じています。

デジタルのほうが手軽ですからね。

野村先生 そうなんですよ。色水を使わなくて済みますから、後片付けの手間がかかりません。ただ、デジタルは個人作業になりがちなので、そうならないように工夫しています。

貴校は数学に限らず、グループワークが多い学校だと思います。

野村先生 たしかに私も中1、中2の授業では、プリントをやるにしても「机合わせて」と言うことが多いかもしれません。そうすると生徒たちは教え合うんですね。そこはすごいと思います。教え合いは絶対に伸びる要素なので、自然とグループワークが多くなるのだと思います。もちろん脱線も少しはしますが、基本的に与えられたものに取り組みつつ、自分たちで考えて学んでいます。

渋谷教育学園渋谷中学校 トロフィー

渋谷教育学園渋谷中学校 トロフィー

インタビュー2/3

渋谷教育学園渋谷中学校
渋谷教育学園渋谷中学校地上9階・地下1階の校舎は、地域との調和と快適な環境をコンセプトとして設計されており、都市工学の先端技術が駆使されています。これからの新世代にふさわしい、充実した学校生活を提供されています。教育目標は、21世紀の国際社会で活躍できる人間を育成するため「自調自考」の力を伸ばすことを根幹に、国際人としての資質を養う、高い倫理感を育てる、という3つです。
学習面における「自調自考」を達成するために、シラバス(学習設計図)が活用されています。シラバスは、教科ごとに1年間で学習する内容と計画が細かく書かれたもので、家づくりにたとえるならば設計図にあたるものです。シラバスをもとに、生徒自身が「いま何を学んでいるのか」「いま学んでいることは何につながるのか」ということを常に確認し、自ら目標を設定することで学習効果が上がるように指導されます。「何を学び、学んでいることは何につながるのか、全体のどのあたりを勉強しているのか」を確認しながら、授業に目標を持ち積極的に参加して、毎日の学習に取り組むことができます。外国人教師による少人数英語教育が実践され、さらに、中学3年生から、希望者は英語以外にもうひとつの言語を学ぶチャンスがあります。ネイティブの教師と一緒に自分の世界を広げてみましょう。開講講座は、中国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語です。海外研修は希望者を対象に、中学のオーストラリア研修、高校のアメリカ・イギリス・シンガポール・ベトナム研修があります。研修の目的は若者交流です。異文化理解や語学研修など、さまざまな経験を通して交流の輪が広がります。海外からの帰国生も多数在籍しており、留学生も受け入れています。
自分を律する心を養い、一人ひとりの人生をより豊かにし、人のために役に立ちたいと思う人間を育むため、生徒の発達段階に合わせたテーマで、6年間で30回にわたる「学園長講話」が行われています。