シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

渋谷教育学園渋谷中学校

2025年01月掲載

渋谷教育学園渋谷中学校【算数】

2024年 渋谷教育学園渋谷中学校入試問題より

点Pは、図1の円周上を点Aから反時計まわりに一定の速さで動き続けます。点Oは円の中心で、OAとOPで作られる角のうち180度以下の角を(あ)とします。また、OAとOPと円によって囲まれた図形のうち、(あ)の角を含む方をおうぎ形OAPとします。図2のグラフは、(あ)の角の大きさと時間の関係を、Pが出発してから5分間だけ表したものです。次の問いに答えなさい。

問題図1・2

(問)おうぎ形OAPの面積と時間の関係を表したグラフと、三角形OAPの面積と時間の関係を表したグラフの形に最も近いものを、下の(ア)〜(カ)の中から1つずつ選び記号で答えなさい。ただし、おうぎ形や三角形を作ることができないとき、その面積は0とします。

問図(ア)~(ウ)

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中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この渋谷教育学園渋谷中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

おうぎ形OAPの面積と時間の関係を表したグラフ…(イ)

三角形OAPの面積と時間の関係を表したグラフ…(エ)

解説

問題の図2のグラフから、点Pは5分で円Oの周りを1周することがわかります。そして、半周する(PがAの真下に来る)のは、その半分の5÷2=2.5(分後)だとわかります。
2.5分後から、おうぎ形OAPの中心角がある位置は、左側から右側に変わることに気をつけて、おうぎ形OAPと、三角形OAPの面積の変化をとらえていきます。

●おうぎ形OAPの面積の変化
次の図1のように、おうぎ形OAPの面積は、Pが半周する2.5分後までは、一定の割合で増加し、2.5分後から5分後までは、一定の割合で減少していきます。

解説 図1

おうぎ形OAPの中心角である(あ)の角の大きさは、毎分180÷2.5=72(度)ずつ変化していきます。つまり、(あ)の角の大きさは、一定の割合で変化します。
おうぎ形OAPの面積=半径×半径×円周率×\(\frac{中心角}{360}\)なので、出発して0分後から(あ)の角が最大になる2.5分後までは、おうぎ形OAPの面積と中心角((あ)の角)の大きさは、一定の割合で増加(時間に比例)することがわかります。
また、2.5分後から5分後までは、その逆で、一定の割合で面積が減少していくことがわかります。

以上より、グラフは、2.5分後に最大になり、0分後から2.5分後までと、2.5分後から5分後までが、それぞれ直線になるので、(イ)とわかります。

解説図

●三角形OAPの面積の変化
次の図2のように、三角形OAPの面積は、(あ)の角が直角になる2.5÷2=1.25(分後)までは増えていき、(あ)の角が直角になってから180度になる2.5分後までは減っていきます。その後、同様の変化をすることがわかります。

解説 図2

したがって、面積は「増加 → 減少 → 増加 → 減少」の変化をするので、グラフは(エ)、(オ)、(カ)のいずれかとわかります。
次に、0分後〜1.25分後の面積の変化をくわしく探ってみましょう。
0分後から1.25分後の三角形OAPの面積は、底辺を半径OAとすると、高さは次の図3の←→のように変化していきます。この高さの変化に目を向けると、初めは勢いよく増えていきますが、だんだんとその増え方が緩やかになることが確認できます。

解説 図3

したがって、(エ)、(オ)、(カ)のグラフのうち、0分後〜1.25分後の増え方がだんだんと緩やかになっているエが正解とわかります。

解説図

(参考)このグラフの0秒後から2.5秒後までの曲線は、サインカーブと呼ばれる曲線です。くわしくは高校の数学で学びます。

日能研がこの問題を選んだ理由

中学入試の算数の問題は、小学校で学ぶ算数と、中学以降で学ぶ数学の境目に位置します。この問題は、小学校で学ぶ算数と、中学以降で学ぶ数学の橋渡しをしているといえるでしょう。

算数の世界では、いろいろなところで「1あたりの量」が登場します。速さは「単位時間あたりに進む道のり」です。ほかにも、仕事算では「1日あたりの仕事量」、つるかめ算でも「1匹あたりの足の本数の差」のように、1あたりの量をもとにして考える場面がたくさんあります。しかし、算数の世界の「1あたりの量」は、「一定の割合で増えたり減ったりする」という前提があって初めて成り立つ考え方です。

一方で、数学の世界では、「一定の割合で増えたり減ったりする」という状況ではない場面が登場します。例えば、ものが落下するときの速度は、時間が経つにつれて大きくなり、一定の割合ではありません。また、この問題では、三角形OAPの面積は、一定の割合で増減しません。初めは勢いよく増え、その増え方がだんだんと緩やかになっていく様子が確認できます。

このように、小学校の算数での「変化のしかた」は一定なのに対し、数学の世界では、「変化のしかたにも変化がある状況」を扱います。この問題では、その数学的な見方・考え方を体験できる問題といえるでしょう。「面積はどんなふうに増えていくと考えられる?ずっと一定?それとも、加速する?減速する?」という問いが、問題の「(ア)、(イ)、(ウ)」の3つ、及び「(エ)、(オ)、(カ)」の3つの選択肢が用意されている理由です。この問題は新しく広がる数学の世界に誘う問題だといえるでしょう。

このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。