出題校にインタビュー!
東京女学館中学校
2024年12月掲載
東京女学館中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.多くの学校で毎年のように見かける「虹」に関する問題
インタビュー1/3
まずはこの設問の出題意図について教えて下さい。
阿部先生 虹の問題は、他校の入試でもよく見かけることもあって、受験生もしっかり勉強しているだろうと思っていました。たとえば、虹の七色の話や屈折の話、主虹と副虹の話など、持っているはずの知識をしっかり聞きたいといったことから出題した意図もあるのですが、その一方で、昔から物語の中に虹の橋を渡るとか虹のアーチをくぐるといった話があって、「本当にそんなことができるのだろうか?」「今自分が見ている虹の現象って一体どういうことなのかな?」などと疑問を持っている子もいるのではないかと推測します。そこで、ただ知識を持っているだけではなく、そういった現象について知ることが楽しいと感じるような生徒に入学してほしいといった想いから出題に至りました。
この問題は、受験生の約3割が正解しており、合格者だけに絞ると約5割が正解でした。本校は女子校ですので、女子における問題の出来具合の観点からみた場合、生物や地学は比較的に正答率がよいのですが、物理や化学、たとえば屈折の話などはどうしても好き嫌いがあるのは否めません。どこまで塾や自学で勉強してきたかが合否につながっていったのではないかと思います。
ちなみに、この問題は「できない」を選んで解答するのが基本路線ではあるのですが、「できる」と答えた場合にどのような解答があるのかというと、もともと後ろから虹を見ているという状況の中、前へ進んでいく自分の先へ虹が逃げていくので自分を後ろから撮影してもらうことで虹の中を通っている(ように見える)自分をあとで見せてもらう、といったものになります。自分は虹が逃げていくことをわかっていながら、どうしたら自分の目として虹をくぐっているように認識できるのか?と考えてくる子もいて、そういった解答が一人ではなく複数あったことに非常に感心しました。
正解となった子の中で、「できる」と答えた生徒はどのくらいいたのでしょうか?
阿部先生 「できる」を答えとして〇を与えたのは十人弱だったと思います。その子たちはどういった目線で見るとどんなことができるかを我々にきちんと伝えてきてくれました。面白い解答として、まさに今の子どもたちだなと思ったものとして、「動画撮影やスマートフォン、タブレット端末を使い、前へ進んでいく自分をこういうふうに見てもらったり写真を撮ってもらったりする」といった解答をしてきた子がいて、びっくりしました。
本校の理科は30分で問題を解いていかないといけないため、そういった解答をした子たちは短時間でいろいろなものをつなげていくことができる子だったと思います。そういう意味でとてもよく分かっているし、考えを短い文章に的確にまとめる力があったように感じます。
先生方の期待のひとつとして、「できる」を選択し、その子がどんな答えを書いてくれるかを楽しみにしていた、といったことはありましたか?
阿部先生 問題文の中に学校の考え方やどういう生徒に来てほしいというメッセージがあると塾などでは生徒に伝えられていると思いますが、我々としては、常日頃からこの問題に答えられるような思考を持っている子に考えてみてもらいたい、というメッセージを送った問題ともいえます。大きく合否を分けるような問題ではなかったかもしれませんが、少し入れてみたくて最後に置いてみた問題です。
最近はこういった問題よりももっと基礎的なところで合否の差がつくことが多く、この問題ができなくても他の基礎問題で点が取れるところをたくさん作っていましたので、しっかりと点が取れるところで取ってもらいたいとは思っていました。

理科・生徒指導部長/阿部 純一先生
作問においては「条件をどこまで出してよいのだろうか?」といった苦悩も
図がとても可愛いらしくて、見ただけでも「ちょっとやってみようかな」という気持ちになります。屈折に関してはあまり得意ではない子も多く、やってみようという気持ちを掻き立てる素敵な問題だと思いました。
阿部先生 先ほどお伝えしたように、本校の理科の試験は30分しかありません。ですから、短い時間の中で受験生がパッとイメージできる問題にすることにはかなり時間をかけています。特に普段あまり見たことがないであろうものに関しては、かなり時間をかけていると思いますよ。できるだけシンプルに、文章もできるだけ少なくしてどういう形で伝えていけるかという点は作問時に特に気をつけています。
理由を受験生に答えさせるために、どういった説明をしたうえで、どんな条件を与えればよいかという点に苦労されたのではないかと思いますが、その点はいかがでしたか?
飯田先生 条件を減らしすぎても、与えすぎても、思考力は問えないと考えました。この聞き方であれば「どちらを選んでもいいのかな?」と思ってもらえるのではと考えました。「できる」だったらどうすればできるのか考えてくれるだろうし、「できない」だったらなぜできないのかを考えてくれるだろうと。その点では、文章は特にこだわりましたね。

東京女学館中学校 校舎
「できる」を選んだ受験生はかなりの「チャレンジャー」
理科的な観点からして、ほとんどの受験生は「できない」とわかっていると思います。それでも「できる」を選んだ子は相当なチャレンジャーですね。
阿部先生 私もチャレンジャーだと思いました。このストーリーの展開からして、前へ進んでいくとまた次のしずくへと目がいくわけですから、どうすれば自分がくぐっているような状態を作り出せるかをしっかりと考えたのだと思います。
受験という限られた時間で問題を解かないといけない中、絶対に点数を落とせない状況で、きちんと書けば分かってもらえる、採点してもらえるんだといった信頼感がないと「できる」を選んで書けないと思います。今後入試説明会のような場で、「きちんと考えて答えてもらえれば、1つの答えしかないわけではない」という点は伝えていかないといけないな、と改めて思いました。
「できる」を選んだ場合、本当の意味で理屈を理解していないと〇がもらえないような気がします。その点でいうと、むしろ「できる」を選んで〇をもらえた子のほうが情景をきちんと理解できているのかなと思いました。
阿部先生 高校生でもこの問題にはきちんと答えられないかもしれませんし、理系の生徒でも間違えるかもしれない。そう考えると小学生が短時間できちんと書けることはすごいと思います。
この問題は合格者の半分が正解しているわけで、私たちが欲しいと思う力を持った子たちが合格ラインにしっかり達してくれて、一生懸命頑張ってやってきてくれたんだというのは問題を通じてよくわかりました。
ちなみに誤答にはどのようなものがありましたか?
阿部先生 間違っているというよりも、たどり着けなかったために理由が書けないといったものが多かったように感じます。最後にこの問題を持ってきているのには、他の問題を全て解き終え、「残った時間で思う存分考えてくださいね」といった意味合いもあります。問題の並び順については理科の教員の中でもかなり考えていて、基礎的な問題から始まり、慣れてきたところで最後はじっくり考える問題に取り組んでもらうようにしています。途中で時間を使いすぎてしまった結果、最後の問題までたどり着けずに白紙解答になってしまう子がいたのかなと推測します。
時間がなくて書けなかったのか、わからなかったので書けなかったのかはわかりませんが、いずれにせよ手をつけられてないなと感じる答案が多かったとは感じました。

東京女学館中学校 ロビー
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