出題校にインタビュー!
東京都市大学付属中学校
2024年12月掲載
東京都市大学付属中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
3.国語が好きな皆さんにもぜひ入学してほしい。
インタビュー3/3
現代思想を知らないと解けない
大学入試の国語の本文が難しいのはなぜですか。
田中先生 私自身も、本校に赴任した頃、大学入試の現代文が自分の受験の頃とあまりにも違うことに驚きました。全然読めないですし、解けなかったんですよね。日本語で書かれているのに、なぜわからないのだろうと思ったら、我々の時代は一般的に文章を読めれば解ける問題だったのです。ところが今は、ほとんどの文章が哲学、現代思想、社会学などの分野に関わるものがテーマになっているからです。それらを読み解くことができなければ問題を解けないことに気づきました。それが2000年頃です。だから入試演習などの授業でも、本文の中身を考える授業を優先しています。
現代文は、昔と変わったのですか。
田中先生 変わりましたね。今はマルクス主義も相対化されており、哲学史の中でも非常に重要な考え方として、大学入試にも出てくるので、理論として教えています。ところが少し難しいので生徒は興味を持ってくれません。そこが悩ましいところです。
小説も出ますよね。
田中先生 大学共通テストでは1問だけ出ます。論理重視になり、小説や韻文は論理ではない、とみなされることもあって、直近の学習指導要領の改定から古典といっしょに文学としてジャンル分けされています。私は、小説にしても韻文にしても、最後は言語化して共有するので、基本的に論理だと思うんですよね。ですから、「中身をきちんと考えて読む」ということを、私の授業では大切にしています。

東京都市大学付属中学校 図書室
夏目漱石「こころ」の舞台を歩く「文学散歩」
特色ある授業というところで、ホームページで「文学散歩」を目にしたのですが、詳しく教えていただけますか。
田中先生 「文学散歩」は、文学の勉強の中では大学でもやる一つのジャンルです。2023年に初めて実施しました。きっかけは、夏目漱石の「こころ」です。「こころ」は文系・理系に関係なく、高2で学習するので、良い学習機会になると思いました。
小説はフィクションなので、舞台は架空の場所でもいいのですが、「こころ」は漱石が実際に暮らしていた場所が舞台になっています。モデルになった土地が実在する場合、そこに行ってみると、意外とその距離感や現場の雰囲気などを感じ取れるので、有効な勉強になると言われています。授業は「近代とは何か」という話を中心にやるのですが、それを取り入れたら、文学に興味を持ってもらえるのかなと思い、実施しました。
今風に言うと、アニメなどの聖地巡礼みたいなものです。「モデルになった場所に行ってみる?」と言ったら、結構、生徒が手を挙げてくれたので企画しました。実際には日程が合わない生徒もいて10名ほどの参加となりましたが、舞台となっている雑司ヶ谷を歩いてみると、このくらいの距離があるのかとか。ここは主人公と誰々が会ったところだとか。実際に行ってみると親しみが湧きますし、明治の時代とは様変わりしていますが、想像できますよね。主人公は帝大生なので、東大のキャンパスも歩きました。参加者の中には東大志望の生徒もいて、思うところがあったのではないでしょうか。
大きな自信になる「弁論大会」と「研究論文」
弁論大会はどのような行事ですか。
田中先生 自分で主張を考え、論理を組み立てて発表するので、鍛えられます。
国語の授業でアドバイスをするのですか。
田中先生 弁論大会はホームルームの指導になるので、そのために国語科が何かをすることはありませんが、論理の展開は授業の中で折に触れてやっています。蓄えた力を使って自分の主張してみよう、という趣旨のイベントになります。
研究論文にはどのようなテーマがありますか。
田中先生 人によって違います。高1が中期修了論文(自由なテーマで自分の考えを主張する/4000字/1年間)に取り組みます。それは担任と進路指導部が担当しています。私も論文の係で、「論文はテーマが全てだよ」「大きな問題の一部分だけを論じればいいんだよ」と言いますが、テーマはどうしても絞りきれず、広がってしまいます。
テーマ決めは難しいですよね。
田中先生 論文は、まだ出ていない答えを探して書くものです。普通は大学に行ってから直面する問題ですが、1段階前の高校で体験してもらうというのが「研究論文」の趣旨です。
本来なら、学部の3、4年で苦しむものを、今のうちに苦しんでおくということですね。ですから、発表した時に「残念ながら、これもう答え出てるよね」とか。「大きい答えを探しすぎて、夏休みで終わらなかったね」とか。そういう失敗をしても別にいいのかなと思っています。

東京都市大学付属高等学校 優秀論文集
国語科では論理力と感性、両方を重視
文章を書く機会がすごく多いですね。
田中先生 そうですね。化学では実験をすると必ずレポートを書きます。実験は基本的に理論の確認です。レポートはもう一度自分で言語化して、理論を組み立てるという勉強になるからです。
論理力は上がっているので、小説よりも評論のほうが点数を取れるようになっています。数学と同じように、筋道立てて考えていくということは、かなり得意になってきたと思います。国語科の方針としても、論理力と感性、両方を重視するということになっていますので、登場人物の心情を汲むことも大事な勉強であると考えています。理系に進んでも人間がやることですから。人間とはなんだろうか、というところも勉強してほしいと思っています。
国語科内での情報共有や研修等はどのように行われていますか。また、他教科の先生と交流して教科横断的な学びを生徒たちに提供することはありますか。
田中先生 予備校の授業セミナーなどに参加することもあるのですが、中学入試の作問会議が意外と良い研修になっているのではないかと思っています。本校では、最終的には国語科の教諭全員で問題を検討するのですが、本文の解釈や設問の表現を巡って深い議論になります。1人では気づかなかったことも発見できますし、それぞれの先生が持っている知識・情報の交換の場にもなります。
また、私は高校の現代文が主な担当なのですが、大学入試の本文は哲学や社会学がほとんどなので、社会科の先生と話すことがよくあります。

東京都市大学付属中学校 マスコットキャラクター「としまろ。」
表現は教え込まなくてもよくできる
入学時の生徒の力をどのようにご覧になりますか。また、近年、変化があるとお考えのことがありましたら教えてください。
田中先生 近年は理解力、行動力が飛躍的に向上していると感じます。時代の特徴かもしれませんが、特に表現は教え込まなくてもよくできる傾向にあります。
初等教育時の子どもの国語教育において、どのようなことを重視してほしいとお考えですか。
田中先生 国語力の根幹である語彙力は、文章を読んだ量に比例すると思いますが、近年は書店も減り、本へのアクセスが難しくなっています。ですから、様々なジャンルの本や新聞に触れる機会をたくさん作ってあげてください。また、自ら学ぶ姿勢を作るという点で、年齢よりワンランク上の辞書、(電子辞書でも可)を使わせてほしいと思います。私は図書館の司書教諭もやっているのですが、最近は生徒が興味を引きそうなものを購入する、という方針でやっています。
言葉が世界を作っている
生徒にはどんな人に育ってほしいと思っていますか。
田中先生 せっかく哲学などを学んでいるので、この世界はどうなんだろうと、言葉で考える人になってほしいですね。現代思想の考え方だと、言葉が世界を作っているという発想になりますので、考えたことを言葉で伝えるというよりも、言葉で言える範囲がその世界ですよ、という考え方になります。
つまり、その人が使える言葉が、その人の世界になってくるので、逆に言葉を使えなければ、その人の世界は狭くなってしまうのかもしれません。そういう意味ではどんどん言葉に触れて、どんどん自分の世界を広げていってくれるといいと思います。
哲学科に進むも生徒さんもいますか。
田中先生 最近、少しはいます。2023年には国際哲学オリンピックの世界大会に出た生徒がいました。本格的な哲学の文章が教科書に載り始めてから20年、25年ぐらいなので、哲学がわかる生徒が増えてきてるのかもしれません。
「哲学は理論」と認識されるようになって、哲学科出身者も一般の会社に採用されるようです。時代が変わり、世の中を理屈で捉えられる人という見方をされるようです。授業では「哲学は説明の仕方」と伝えています。
今後貴校の受験を考える小学生や保護者へのメッセージをいただけると幸いです。
田中先生 本校は武蔵工業大学の付属校だった歴史からか、いまだに理科、数学は得意だけれど、国語は嫌い、興味がないという生徒もいるように感じます。現在の進路は文系、理系、約半々です。文系のカリキュラムも充実していますので、国語が好きな皆さんにもぜひ入学してほしいと思っています。

東京都市大学付属中学校 図書室
インタビュー3/3