シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

東京都市大学付属中学校

2024年12月掲載

東京都市大学付属中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.大学共通テストでも小説の読解が難化傾向。語彙力を伸ばそう

インタビュー2/3

韻文の読解の出題が特徴

国語の入試問題を通して受験生のどのような力を見たいとお考えでしょうか。

田中先生 強いてまとめるなら、本文を別の言葉に言い換えて他人と共有することができる力だと思います。なお、論理力を試すという点は、2017年度入試で本文に使わせてもらった橋本陽介さんが著書「使える『国語』の考え方」(ちくま新書・2019年)で、本校の入試問題に言及されています。

国語の入試問題の構成を教えてください。

田中先生 長文2問に、韻文と、4問目に今回のような知識問題を出題しています。

漢字が独立したのは2023年からですか。

田中先生 そうですね。それまでは本文中から出題していましたが、本文中に読み書きを問うべきものがあればいいのですが、必ず5問作ろうと思うと、適切なものがない場合もあるので、独立させることにしました。

今年度出題した素材文の選定について、意図されていたことなどがあれば教えてください。

田中先生 評論に関しては「いま」を論理的に論じているものが中心です。また、入試国語一般に言えることですが、ある程度、受験生が苦労しないと読めないと思われる文章を選びます。小説は人情の機微を描いていますが、言葉ではっきり説明されていません。それをあえて言語化したらどうなるか、というところが問題になります。なお、小説は古いものから最近のものまで満遍なく出しています。

東京都市大学付属中学校 図書室

東京都市大学付属中学校 図書室

心情を考えて言語化する経験を

男の子は物語に苦手意識をもつ子が多いですよね。

田中先生 生徒から、「模試や大学入学共通テストは小説が難しい」という話をよく聞きます。ただ形式に慣れていないだけだと思うんですけどね。例えば、小説では心情を問われることが多いので、言葉で説明する経験が大事です。登場人物の心情を考えるにしても、別に決まったものがあるわけではありません。「この時の気持ちって、言葉にしたらこうだよね」「そうそう」というように、ある言葉に置き換えて中身を共有しているだけなのです。おそらく評論も同じで、それはコミュニケーションになると思うんですよね。

大学入試も含めて、一語で心情を表す言葉は問題になりやすいので、それがわかるかどうかは語彙力の問題になると思います。他に問題になりやすいのは泣き方です。例えば「忍び泣き」が出てきた時に、声をおしとどめて泣くと言えば、だいたいどういう状況かがわかります。よく世間で間違えられているのは「号泣」です。声を相当上げて泣いていないと号泣にはならないのですが、テレビでいうところの「号泣記者会見」は、号泣ではないことのほうが多いです。興味を引くために間違った使い方をしているのです。正しく覚えるためにも、辞書を引いてほしいですね。

東京都市大学付属中学校 校内

東京都市大学付属中学校 校内

国語以外で学んだ知識も活用して読む

素材文を探すのは大変ですか。

田中先生 1年中探しています。良い物語かどうかよりも、問題にできるかどうかで判断しなければいけません。また、文章を切り取らなければいけないので、難しいです。

2024年入試の1回目は「バッテリー」でした。現代の話ですが、2回目は戦争の時代でした。

田中先生 毎回、時代も違うんですよ。2回目の素材文は私が出しました。戦時中の話なので、文字上の文章が読めるだけでなく、ある程度、当時の人々の暮らしを知らなければいけません。歴史を習ったり、平和教育を受けたりしているわけですから、そういうところで身につけた情報も活用して読んでほしいという狙いがありました。

広島を思わせる土地が舞台なので、この後、原爆が投下され終戦を迎えることは子どもたちも知っています。そういうことも含めて、登場人物はどういう気持ちで生活していたのだろうか、と推し量りながら解答を導き出してほしいと思いました。

「この後に訪れる歴史上の出来事を想像しつつ……」という出題には、そういう意図があったのですね。

田中先生 何年に戦争が始まって何年に終わった、という知識に加え、その中でも人間が生活していたということは、小説を通してのほうが学びやすいところだと思います。

問題もバラエティに富んでいますよね。

田中先生 結果としてそうなっている部分はあるのですが……。だから、素材文として選べるものが少ないのです。例えば3000字、4000字あっても、トピックや展開が少ないものは問題になりにくいんですね。どこに線を引いても結局、同じ答えになってしまうからです。

東京都市大学付属中学校 ホール

東京都市大学付属中学校 ホール

グラフの読み取り問題を出題

2023年第2回入試大問1の問7で、文章内容に対応しているグラフを選ぶ問題が出題されています。国語の問題として、グラフの読み取りを出題する意図をお聞かせください。

田中先生 2025年度から大学入学共通テストの国語の問題に「実用文」というカテゴリーが追加されます。これは、評論や小説ではなく、社会生活一般で使うような文章(例えば契約書)、言葉以外の情報(グラフなど)も含めた文章の理解を試す問題です。このように多様なジャンルの文章や情報のリテラシーが求められる時代に合わせていこうと考えました。

韻文の読解の出題が、貴校の国語入試の大きな特徴となっています。その意図を教えてください。

田中先生 文学史的に見ると古今東西、人の心情や内面は散文ではなく、詩や歌で表現されることのほうが主流でした。日本でも万葉集や古今和歌集のほうが先で、散文は源氏物語の時代からです。しかし、今でも詩や俳句は作られ続けていますし、音楽の歌詞にも心を動かされます。ですから韻文の表現に触れることも大事だと思うのです。もちろん説明を尽くした表現ではないので、いろいろ補わないと理解できないこともありますが、それをわかるようにするのが勉強です。本校の入試問題では問いの選択肢を絞らせることによって、読み方を誘導することが結構あります。問題は読み方のヒントだと思ってください。

韻文を勉強するときには、手がかりになりそうなものはないかと考えながら読んでもらえればいいということですよね。

田中先生 そうですね、機械的に解くところと、内容や表現方法を聞くところがあり、後者のほうが多いのですが、逆に解釈しにくいところは問題のほうで誘導するようにしています。例えば4択にしたら、どう考えてもこの3つは違うよね、というものを折り混ぜています。ですから、過去問を解くときには、答えのほうから解き方を探してもらう方向で勉強してもらえればいいのかなと思います。

東京都市大学付属中学校 家庭科室

東京都市大学付属中学校 家庭科室

授業で大切にしているのは地道な理解

ホームページの教育内容にあります「トシコーが大切にする学び」の中で、「学ぶ喜びが未来を切り開くための原動力になると私たちは考えています。」と示されています。国語の学びにおいて、具体的にどのようなことが学ぶ喜びとしてあるのか、お聞かせください。また、国語の学びにおいて、生徒さんが学ぶ喜びを味わえるようにする工夫として、どのようなことをされていますか。

田中先生 私たちの多くは、日本語を母語としています。母語は当たり前にわかるから母語なのですが、これが国語を学ぶ際に問題となります。つまり、国語は勉強しなくてもわかるだろうと思いがちだということです。わかりきったことを教わっても、学ぶ喜びはないでしょう。ですから、できるだけわからない教材を使うということが大事なのではないかと個人的には思っています。

ただし、どんなに頑張ってもわからなければ喜びはありませんので、少し努力すればわかるという背伸びできる教材、授業を心がけています。

インタビュー2/3

東京都市大学付属中学校
東京都市大学付属中学校平成19年に新校舎が完成し、平成21年に武蔵工業大学付属中学校・高等学校から東京都市大学付属中学校・高等学校へ改称された。本校で掲げる「誠実・遵法・自主・協調」という4つの校訓には、豊かな知性を身につけるとともに人格を磨き、高い次元で社会に貢献できる人間に育ってほしいとの願いが込められている。東京都市大学への進学を希望する場合は、「付属進学制度」により進学ができるが、進学の資格を有したまま国公立大(前期)等を受験することも可能である。さらに、早稲田大、上智大、東京理科大、明治大、青山学院大、中央大、学習院大、東京薬科大、昭和薬科大、等の他大学推薦入学もある。
大学進学を通過点と位置付け、将来を見据えた進路指導が行われている。中2の9月にキャリア教育の一環として行われる東北地方での農業体験。稲や野菜の収穫から牛の世話まで、農家の人々と触れ合うことにより、職業観と食に対する理解を深める。中3の8月に行われる企業研修では企業別の事前学習を経て、生徒自らアポイントを取り生徒だけで企業を訪問する。
カリキュラムの特徴としては、前期、中期の高校1年生までは主要3科目を中心にバランスが考えられており、理科の実験では、中学1~3年生の科学実験の授業で、各学年で年間20項目近くの実験を行っている。また、1クラスを2分割し、20人前後の少人数で実験を行うので、よりきめ細かく具体的に指導がされる。高校2年生で行う実験は、大学入試に出題される頻度の高い項目も含めて行っている。多くの実験授業を通して、理科への興味と理解が深まっていく。
クラブ活動も盛んで、中学での硬式野球部やゴルフ部・アイスホッケー部・アメリカンフットボール部・自動車部などなど、特徴的な部活動もあり、自主性や協調性を養っている。