シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

青山学院横浜英和中学校

2024年11月掲載

青山学院横浜英和中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.現代社会の裏側に潜んだ影の部分に切り込んだ問題

インタビュー1/3

まずはこの設問の出題意図について教えて下さい。

市川先生 本校の社会科は地理、歴史、総合という大問3つの構成となっていますが、総合問題は歴史と地理、公民分野から総合的に出題するといったもので、主に現代社会に関するテーマを持ってきて作問しています。この問題は2023年に行われたFIFA女子ワールドカップをテーマとして取り上げることで、女性の問題やスポーツに関する問題など、そういう観点で話題を広げられるのでは?と思ってリード文を設定しました。

リード文を作る初期段階から、最後はサッカーボールのフェアトレードに関する問題で締めようと考えていました。サッカーという競技には、するだけでなく見る・支えるというところでたくさんの人々が関わっているものの、我々は普段スポーツを見る視点を中心として考えがちで、サッカーも勝った負けたで熱中していると思います。しかし、そうした裏側に多くの支えている人たちがいるということを伝えたいというのがあって、さらに支えている側の社会的な課題としての影があることを考えられる人になってほしい、といった想いから出題した問題です。

フェアトレードという言葉は、おそらく塾や学校で学んだことのある小学生は多いと思います。ただ、一般的にはチョコレートやコーヒーといった食品の話が出てくることが多いことから、あえてスポーツにおけるフェアトレードを出題することにしました。

我々が普段「見る」という対象にしか考えてなかったスポーツが人々に支えられてできていること、そして支えている人たちの中には社会的な課題があるというギャップ、娯楽として存在するスポーツの裏側で不当な扱いを受けている人たちがいるという事実に気づいてほしい問題として、今まで習ったことや学んだことと実際の社会的な課題とを組み合わせて考えられた解答を受験生には期待しました。

作問の段階では、「単なるフェアトレードの言葉を問うだけではつまらない。フェアトレードの持つ意義について聞いてみよう」というのは他の教員とも話し合いました。フェアトレードの意味を知っているという前提で、この問題に当てはめた時にどのように考えることができるかを問う問題となっています。

フェアトレードがテーマとなる題材では、チョコレートやコーヒーは確かによく出てくると思っていましたが、ここであえてサッカーボールで出題しようといった考えは以前からあったのですか?

市川先生 そうですね。教科書などを読めば食品の例が出てきますので、フェアトレードの仕組みをきちんと考えたうえで答えに辿り着いている子であれば、別の題材でフェアトレードが出題されたとしても、同じような答えに辿り着くだろうと思って作りました。

フェアトレードの問題は、実際の社会的な課題としても大事なことと感じます。ただし作問の際には、身近な題材とできるだけつなげたいと考えているので、実際に身近な生活にも関わっているのを知るよい機会になったのではないでしょうか。

社会科/市川 公平先生

社会科/市川 公平先生

しっかりと作りこまれたメッセージ性の高いリード文

リード文をじっくり読んでいると考えたくなることがたくさん散りばめられていて、非常に丁寧に作られていているように感じます。

市川先生 リード文はいつも作り終わってから毎年振り返りで賛否両論ある部分です。本校の社会科の試験時間は30分ですが、それに対してのリード文のボリュームが大きすぎるため、リード文をじっくり読まなくても解ける問題も多いと指摘されることがあります。しかし、我々としては逆にしっかりと受験生に読んでもらえるようなリード文にしたいと思いながら作問を行っています。

問題はどのように作成していくのですか?

市川先生 リード文の量に関しては、以前だと1ページに収まりませんでしたが、現在は1ページに収まるように意識しながら作成しています。とはいえ説問が偏ってしまわないように幅広くしようとするとどうしても文章が長くなってしまいますので、そうならないようにみんなで相談しながら文章をまとめています。

青山学院横浜英和中学校 スチューデントセンター・オリーブ

青山学院横浜英和中学校 スチューデントセンター・オリーブ

出題された入試問題から一つでも知識を持って帰ってほしいという想い

この問題における正答率はどれくらいでしたか?

市川先生 正答率は合格者で26%と想定より低かったです。「発展途上国」という言葉を用いて説明しなさいという設問でしたが、「発展途上国で作られている」といった内容で終わっているものが多かったです。フェアトレードの意義を小学生に理解させようというのはかなり難しい話ですが、「寄付」とか「募金」といった言葉が書かれているものもありました。なぜなら、寄付や募金も大切な社会貢献ではあるものの、より良いものより安く求めるという動きの中、最終的に世界のどこかでは不当な労働や子供の勉強機会の喪失が行われているということに気づいてほしいのに、寄付や募金でその問題を解消するというのは少し趣旨が違うと思います。

良かった解答としては、「フェアトレードマークは児童労働や不当な労働で作ったものではない商品に付けられている」とか、「フェアトレードの商品を買うことで子供に教育の機会を与えるきっかけになる」といったものでした。しっかりと作問の意図を正しく理解し、フェアトレードそのものの意味をよく分かっており、それを今回のケースに当てはめて答えられたものでしたが、そのような完璧な解答は全体で4~5人ぐらいでした。

青山学院横浜英和中学校 掲示物

青山学院横浜英和中学校 掲示物

社会問題・時事問題を取り入れた問題構成

社会科の問題構成や御校における社会科の考えについて教えてください。

市川先生 2024年の入試問題では、日本食、江戸時代のエコ、そして今回取り上げてもらった女子サッカーがテーマとなりますが、1つ目の日本食についてですと、インバウンドで外国の人が日本に来る機会が増え、その中で日本食が食べられたりあるいは嫌われたりといったことがテレビでも取り上げられています。そういった食事からグローバルな知識が広がっていけばいいなと思って作問に盛り込みました。2つ目のエコの場合、SDGsがここ最近世の中のテーマとして知られるようになりましたが、江戸時代をSDGsの観点で見てみようと考えて作問しました。それと、フェアトレードに関する問題といった具合に、社会問題や時事問題を交えた問題構成を心掛けています。

フェアトレードの背景や意味にきちんと目を向けさせ、さらに視野を広げさせる形で出題しているのは、あまり見られないことです。

市川先生 実は、塾の授業でも使ってもらえるような問題にしたいと考えています。たとえば、「これは知識問題なので知っているか知らないかだから」「これはできなくても他の問題で点数を取ればいいから」といったように流されてしまう問題にはできるだけならないように配慮しているつもりです。行きたい学校があって勉強して知識を一生懸命詰め込んだとしても、その子たちには「あなたのその知識を活かしてこんなことを考えてごらん」ということを提示できる存在でありたいとは思っています。

青山学院横浜英和中学校 校舎

青山学院横浜英和中学校 校舎

社会が好きな子・できる子に入学してほしいという想い

世界と身近な日常をつなげる問題を作るといったコンセプトは以前からずっとお持ちなのですか?

市川先生 ここ数年ですね。A日程で社会・理科、B日程以降は国語・算数と2科目受験になっていった頃から特に意識するようになりました。A、B、C日程すべてで社会があった頃は全部で大問9題分ありましたので、いろいろなテーマを使わないと作問自体が難しい部分がありました。しかし、今はA日程のみ社会に集中するようになり、B、C日程で国語・算数の学力がある子が入ってくるものの、A日程でないと本校を第一志望とする子や、第一志望だから社会や理科を頑張ってA日程で入学したいといった子たちに、手を差し伸べてあげられないといったところがあり、A日程の中で本校を第一志望とする受験生に本校の方針や良いところできるだけ伝えられるような問題にしたいという想いがあります。

社会科としても、社会が好きな子やできる子にできるだけ入ってきてほしいと考えています。ですから、A日程で入ってくれないと社会はできるけれど国語・算数ができない子たちがB・C日程で弾かれてしまう可能性もあるので、できるだけ社会ができる子たちにA日程で入ってほしいという気持ちで作問を行っています。

インタビュー1/3

青山学院横浜英和中学校
青山学院横浜英和中学校横浜英和学院は、1880年(明治13年)、アメリカ人宣教師H・Gブリテンによって、横浜山手居留地に創立された。1916年に現在の蒔田の丘へ移転し、100年後の2016年4月より青山学院大学系属校となり、2018年度からは共学校となった。
「キリスト教に基づく人格教育を行う」という建学のもと、今後の社会を、希望と喜びをもって他者と社会に貢献していく人格の育成を、教育方針としている。「神を畏れる」「自立する」「隣人と共に生きる」の3つの教育目標は、キリスト教教育、キャリア教育、グローバル教育として、6年間の教育プログラムの中で具体的に実践されている。
神の前に自立した自己として立つこと。お互いを大切にし、認め合いながら相互理解を深めること。この2つのことを、今後彼らが活躍する社会やコミュニティーで生きていくための準備教育として大切にしており、「自分らしさ」、「私らしさ」を探求し、神から与えられている賜物を用いて、謙虚に自分の使命に生きる人生を志向していく人を育てることを目指す。
青山学院大学との系属校化により、大学出張講義や学問入門講座への出席、渋谷キャンパス、相模原キャンパス訪問、キャリアガイダンスの実施や青山学院大学への系属校推薦など、高大連携事業も年々より確かなものとなっている。
毎日の授業は、プロジェクターとスクリーンで展開。生徒は1人1台chromebookをもち、学びに活かす。講義形式の授業だけではなく、生徒自らが考えてつくる授業を展開しており、総合学習や海外研修報告、英語のレシテーションや各教科の研究発表などchromebookを用いて発表する機会が多くある。
給食があることも大きな特徴。栄養のバランスを考えた温かな食事を、クラスでみんなと一緒にとる。生徒も教職員も同じメニューで、クリスマスのケーキなどの特別メニューが出ることもある。幼稚園、小学校、中学校、高校、職員、1700食以上を管理栄養士と調理員計16名で作っている。