シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

聖光学院中学校

2024年11月掲載

聖光学院中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.「粘り強さ」「丁寧さ」「計算を面倒がらない」これらを感覚として身につけることが大切

インタビュー3/3

「情報」でAIの仕組みを教える講座を実施

名塩先生 ただ、これからの時代は、大学1、2年の数学を学ばせるために高校数学はきちんと教えよう。そうするとAIの理解につながっていくと考えて、私が関わる聖光塾の情報講座でAIの仕組みを教え始めています。0から9の数字の認識をどうやって行うのか、という授業で、希望者対象に開講しています。もちろん機械学習に位置付けられる技を使うわけですが、使っているのは算数なんです。ただの画像データをまずコンピュータに読み込むときに、RGB(Red,Green,Blue)の各色を0から255までの数(8ビット)で表現するということをやるんですね。

その後、例えば、画像をぼかしたりするときに何をやるかというと、隣近所の9マスや4マスの平均値を取ります。それは0から255で書かれた数値の平均値なんです。画像を明るくしたければ、その数値に100足せばいいだろうとか、暗くするには100減らせばいいだろうとか。…をはっきりさせるには、その数値を平均値の128基準に、2倍にすればいいとか。そんな形で、実は「算数しか使ってないんだよ」という授業をしています。

通常はPhotoshop(フォトショップ)とか、そういう画像処理のソフトでやりますけど、使っているのはただの足し算、引き算、かけ算だけなんです。それで表現できるのです。

この後、車の自動運転の仕組みなどを教える講座を考えています。ブラックボックス、見えなくしているのですが、算数や中学数学で全部説明できるんだったら、授業でやらない手はないだろうっていうことで、一応本校ではそういうものきちんと教えることを目指しています。

聖光学院中学校 授業風景

聖光学院中学校 授業風景

中1から高2が刺激し合うプログラミングの授業

名塩先生 実際には中3から始めます。関心が高いので、中1から希望者を対象に講座を開くと、学年の6割ぐらいが受講してくれています。1回では理解できないので、2回、3回受けてくれる、いわゆるリピーターがそのうちの8割ぐらい。学年100人ぐらいは中3までの間にパイソン(Python)の入門講座を2回くらい受講してくれていて、ある程度身についています。

やっぱり悔しいんでしょうね。プログラミングの重要性を彼らは認識しているので、1回でわからないなら、もう1回受講しよう。あるいはその次の段階として「中級講座」を用意しています。そこでAIの仕組みや数字の認識なども教えているのですが、開講すると大体30人ぐらい、学年に関係なく中1から高2が混ざって受けるという謎の授業で、おもしろいです。

中3あたりになると、中1がわかるのになぜ中3がわかんないんだ、と屈辱感を味わう生徒がいたり。逆に、私が打っているプログラムのミスをその場で指摘するような、すごいできる生徒もいて、私も油断できません(笑)。高2になるとだいぶ余裕があります。学年に関係なく刺激を受け合う授業というのは、なかなかないですよね。

図は丁寧に書くことを心がけて

入試のとき、定規やコンパスの持ち込みを禁止していますが、問題の中に作図などもありますが、どのぐらい細かく見ていますか。

名塩先生 非公表なので詳しいことは話せませんが、その出題の意図するところに部分点を与えているというぐらいが、一応の答えですね。作図で終わらせる問題は基本ないと思います。図が書けないと始まらないというか。うまく書けなくても、丁寧に書いてほしいです。今の子はまず線をまっすぐ引けないですよね。だから、あまりにいい加減なものはばっさり切っています。図を書けない子は図形問題が苦手になるので、丁寧に書くことを心がけてほしいです。

丁寧さを要求するのは、あくまで自分が正答率を高めるためなんですね。

名塩先生 そうですね、やっぱり雑な子はダメなんですよ。だから本校の問題には場合の数や数列の数える問題が異様に多いのです。その背景には「雑な子は伸びない」「伸びる子は丁寧な子」という実感があります。

今年、東大合格者が100人を超えましたが、理由は簡単で、計算力は半端なかったんです。100発100中ぐらい。ただ、解き方は必ずしも巧妙というわけではありません。絶対に模範解答に載らない解き方で解くのですが、答えは合っているのです。だから崩れませんでした。

思考力に頼ってしまうと、計算が雑になってしまうということがあるのですが、 その学年は思考力が幸い良くも悪くも特別優れていたというわけではなかったので、「計算力を抜群にしろ」「計算ミスした段階で0点にする」と言ってバチバチやったら、計算力が過去一番と言えるくらいめちゃくちゃ強くなりました。

聖光学院中学校 掲示物

聖光学院中学校 掲示物

手を動かさないと感覚が身につかない

名塩先生 私も数学科出身です。「数学科は計算ができない」とよく言われるのですが実は大うそで、計算をめちゃくちゃするのです。計算過程が非常に多くて電話帳くらいの厚さになったという逸話があるくらい、数学者ほど泥臭いことをやっているのです。

本校でも計算はかなり厳しく指導しています。AIが進むと「コンピューターに任せればいいだろう」という意見も多いのですが、私は真っ向から否定しています。手を動かさないと感覚が身につかないからです。

計算をある程度やっていると、出した答えがあっていそうか、間違っていそうかが大体感覚でわかるんですよね。面積もこんなに大きくならないだろうとか。桁数を見た瞬間に計算をミスしてるなとか。ルート出るはずないよねとか。そういうのが感覚でわかるようになるんですね。そういう感覚を身につけさせるために、図を書く練習や計算トレーニングは1番大事だろうと思っています。「粘り強さ」「丁寧さ」「計算を面倒がらない」ということが大切なんです。本校の入試では、平均点が高いので計算ミスをすると致命的なんですよね。見直しをする謙虚さというのも、もっていてほしいです。

中1でできないと高3で気づいても修正不可能だからです。そういう意味で中学入試の段階で求めることと言えば、比の概念理解も大事ではあるのですが、計算を丁寧にやる、きちんとと数える、きちんと図を書く、これに尽きると思います。

本校の教育で1番重要なのは、これらの当たり前のことをできるかどうかだと思います。教科書も書いている数学者(東大教授)も「読解力と計算力がないと研究できない」「定義を覚えたり、概念理解したり、真似したりしないと思考力も創造性もない」と言っていますので、間違いないのです。
覚えるべきことは覚えないと考えることはできないのです。本校では、クロムブックは持ってはいますが、デジタル教科書も使いません。紙の文化なんです。ノート提出が基本で、ドキュメントで提出することはあまりないです。

教養が詰まった授業が一番の強み

一番の強みを教えてください。

名塩先生 授業だと思います。教員がオリジナル教材をとにかく作ります。それが1番の売りだと思っています。おもしろい話題や雑談もたくさん入れていますが、何よりも教養をたくさん入れていること。それだけなんですけどね。おもしろさよりも、むしろ基礎リテラシーに自信があります。

プリントも使いますか。

名塩先生 多いですね。教科書も意外と使用率が高いです。使わなくても教員は教科書を見ていますね。教科書に載っていることから外れていないかということを常に確認しています。

私は教科書はよくできていると思っています。行間をうまい具合に抜いてるんですね。そこで行間を読むと、メッセージがちゃんと書いてあるのです。ここはこういうことの暗示だ、というように。そこを埋めるのが我々の仕事で、本校はそこをきちんととやっていると思います。

聖光学院中学校 教室

聖光学院中学校 教室

インタビュー3/3

聖光学院中学校
聖光学院中学校聖光学院の設立母体であるキリスト教教育修士会(カトリックの男子修道会)は、1819年、ジャン・マリー・ローベル・ド・ラ・ムネ神父により、フランスに創設される。
日本においてはまず1854年、東京に「国際聖マリア学園」を、次いで1956年、横浜に「さゆり幼稚園」を設立した。「聖光学院中学校」が創立されたのは1958年4月、「聖光学院高等学校」の創立は1961年4月のことであり、カトリック的世界観から、「人格の尊厳と愛」の理念を掲げて今日の教育に至っている。
「カトリックの精神を基盤にして、キリストの教えである愛と奉仕の精神を尊重し、中高一貫教育のもとに将来社会に貢献できる健全で有為な人材の育成を目指す。「紳士たれ」をモットーに、学力面ばかりでなく、礼儀を重んじ、強い意志と弱者をいたわる優しい心を持たせる教育を目指している。
山手地区に連なる丘陵の一画、文教風致地区にあり、背後が根岸森林公園という抜群の環境。聖堂、ラ・ムネ・ホール(講堂)、ポアトラホール(多目的ホール)、食堂、グラウンド、体育館など施設は充実。21時まで使用できる高3用の自習室もある。プールは屋外。長野県班尾高原にキャンプ場もある。
面倒見の良さは折り紙つき。英語は首都圏屈指のレベルで、中1から週7時間。中2・中3・高1の英会話の授業を1クラス2分割で実施。帰国生対象の特別授業もあり、希望すれば一般生も受講できる。高2から文系・理系に分かれ、高3は演習中心。平常時(中1~中3まで指名制)、夏期(中1~高1は英・数・国中心で成績不振者の指名制、中2~高3は希望者対象で各教科)、冬期(高3の共通テスト対策)など、親身の補習で「予備校いらず」といわれる。東大・早慶上智大への現役合格率は首都圏トップクラス。
クラブ活動だけでなく、生徒が自主的に立ち上げる同好会活動も盛ん。カトリックの宗教行事もあり、入学・卒業の祝福ミサ、クリスマスなどがある。ほかの行事ではスキー教室、芸術鑑賞会、文化祭、カナダ、ニュージーランド、イギリス、アメリカ、オーストラリアなどの海外研修も実施。また、豊かな感性を育むため、毎週土曜日には中2の選択芸術講座が開かれる。夏休みの数日を使って、体験学習重視の「聖光塾」(中1~高3、自由参加)も開講。ボランティア活動は日常的に行われている。