シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

聖光学院中学校

2024年11月掲載

聖光学院中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.算数に限らず、全教科で“学びを活かせる”入試問題作りに全力を注ぐ

インタビュー2/3

初見であろう問題ゆえの配慮をした

日能研ではこの問題を見た瞬間に、ぜひ、取材をお願いしたいと思いました。この問題を提示したとき、数学科の他の先生方の反応はいかがでしたか。

名塩先生 問題を提出した瞬間に、科の中でも「これは絶対1回目(入試)の最後に出したい」という声があがりました。難易度は多分1つ前の問題(大問4)の方が高かったと思うのですが、受験生が見たことのない問題ということで、3問目ぐらいに出すと動揺するだろうな、ということで、最後に出題することにしました。

聖光学院中の勉強をしてきた受験生にとっては、それまでの難しい問題のほうがまだ取り組みやすいかもしれませんね。

名塩先生 そうですね。今までの傾向から、平面が出るだろう、立体が出るだろう、という心積もりはあったと思います。そこで「統計」ってなった瞬間にフリーズしますよね。解答用紙が最初に配られ、それを見たときにわかりますよね。なんだこの選択肢は!って。マークシートみたいな感じで(1)から(5)、あるいは(6)まで等間隔で数字が並んでいるので、その時点でちょっといつもと違うぞってのは覚悟できたと思います。問題に取り掛かる前に、いつもと違うということがわかるというのも狙いですね。

聖光学院中学校 図書室

聖光学院中学校 図書室

学びを生ませる教育的な出題が全校的方針

ここまでお話を伺ってきて、初めて見るような問題に取り組むことも大事だと思いました。

名塩先生 そうですね。受験生が初めて見るような問題を出す一方で、入試問題を過去問として解いて終わりではなく、そこからの学びを生ませる教育的な問題を作る、ということを、全体的な出題方針としています。

算数は難しいので、どうしても過去問に取り組む時期は入試直前になってしまうと思うのですが、それでも学びがまだあります。ただ解いて終わりではなく、こういうものの見方ができるんだと思えて、かつ他の場面にも転用できる、汎用性の高い問題作成を目指すということですね。

理科や社会科の問題文は長文ですが、実はそこにヒントがあったり、学びがあったりするじゃないですか。解くだけなら読まなくてもいいところに味わい深いものがあって、実はそれがヒントになっていることもあります。問題を解く上では必要なさそうに見えるところも、ちゃんと学んでほしいというのが、算数だけでなく全教科を通じてのメッセージです。

聖光学院中学校 図書室

聖光学院中学校 図書室

他教科の先生と情報共有しやすい環境

他教科の先生方で教科方針や入試問題について話し合う場があるのですか。

名塩先生 職員室が広くて、座席の配置は学年ごとになっています。毎年のように担当する学年が変わりますし、担任を固める、副担任を固めるという形なので、座席が毎年のように変わります。だから他教科の話をよく聞くんですね。それが本校のいいところだと思います。理科の先生に「微分方程式が必要になったんだけど、数学ではどこまでやってる?」と聞かれたら、「まだやってないけど、数学で先取りしますよ」と返したり。古典の先生が「今、漢文でこういうことをやっている」と世界史の先生に話したら、「だったら中国史でこれが使えるね」と気づいたり。教員が日常的に教科を横断して授業を組み立てているのです。

入試問題の中でも、理科の先生から算数の要素を入れたいという相談を受けます。例えば「光の問題でこれを出していいか」「それはやめてください」とか。円周角の定理については、「ちょっとしたヒントがないとダメですよ」とか。そういうやりとりがむしろ自然なんです。

高大のギャップを埋めるための授業も実施

名塩先生 今、「探究」という授業が必修になっていますが、本校ではすでに教員が教科横断の視点を持っているので、通常の授業内で自然に行われてるんですね。その流れで、入試問題の中でも必然的に教科の領域を超えた出題となっています。気をつけなければいけないのは、理科や社会の入試と内容が被らないようにすること。その確認は必ずするようにしています。

授業における先生方の裁量が大きいのですね。

名塩先生 そうですね。教養リテラシーとしての数学教育、ということに終始しています。例えば、私は受験期に偏微分など大学1年の数学を教えています、特に東大は1年目から難しいので、「ついてこれなくてもいいから、こういうものをやるから馴染んでおいて」と言って、週1回だけ大学1年生の予習となる授業をしています。数学は高校と大学では内容のギャップが大きくあるからです。

高3の受験対策なども、扱う内容は先生によって異なるのですか。

名塩先生 リテラシーとして教えている先生が大半ですが、中には入試問題を中心としつつも数学科に進むような生徒が喜ぶ授業をしたり、数学オリンピックの問題を扱う先生がいたりします。

聖光学院中学校 校舎内

聖光学院中学校 校舎内

中学入試の算数は社会人の教養になる

名塩先生 「役に立つ数学はいつのものか」と聞かれたら、私は「大学1、2年の数学」と答えています。次に役に立つのは「中学入試の算数」とよく言います。

例えば分数の割り算で、「なぜ逆数を取ればいいのか」をまともに考えたことがある人は、ほとんどいないですよね。それこそ本当の論理的思考が試され、いつ東大の入試問題で出てもおかしくないだろうと思っています。小数の割り算で「なぜ小数点をずらすのか」とか。あれを説明できる人はあまりいないと思うんですよね。テクニックだけで教わっていて、それで終わりになっているので、その辺はちゃんと考えた方がプラスになります。何より算数の文章題って面積図、線分図などをたくさん書きます。それこそ具体的なものを抽象化していく、あるいはその逆を行うことが試されるので、「観察力」であったり、「アウトプットの可視化」の部分であったり……。そういった面で算数から学ぶ要素は非常に多いと思いますので、中学入試の算数は社会人の教養として大事だなと思います。

聖光学院中学校 ラウンジ

聖光学院中学校 ラウンジ

インタビュー2/3

聖光学院中学校
聖光学院中学校聖光学院の設立母体であるキリスト教教育修士会(カトリックの男子修道会)は、1819年、ジャン・マリー・ローベル・ド・ラ・ムネ神父により、フランスに創設される。
日本においてはまず1854年、東京に「国際聖マリア学園」を、次いで1956年、横浜に「さゆり幼稚園」を設立した。「聖光学院中学校」が創立されたのは1958年4月、「聖光学院高等学校」の創立は1961年4月のことであり、カトリック的世界観から、「人格の尊厳と愛」の理念を掲げて今日の教育に至っている。
「カトリックの精神を基盤にして、キリストの教えである愛と奉仕の精神を尊重し、中高一貫教育のもとに将来社会に貢献できる健全で有為な人材の育成を目指す。「紳士たれ」をモットーに、学力面ばかりでなく、礼儀を重んじ、強い意志と弱者をいたわる優しい心を持たせる教育を目指している。
山手地区に連なる丘陵の一画、文教風致地区にあり、背後が根岸森林公園という抜群の環境。聖堂、ラ・ムネ・ホール(講堂)、ポアトラホール(多目的ホール)、食堂、グラウンド、体育館など施設は充実。21時まで使用できる高3用の自習室もある。プールは屋外。長野県班尾高原にキャンプ場もある。
面倒見の良さは折り紙つき。英語は首都圏屈指のレベルで、中1から週7時間。中2・中3・高1の英会話の授業を1クラス2分割で実施。帰国生対象の特別授業もあり、希望すれば一般生も受講できる。高2から文系・理系に分かれ、高3は演習中心。平常時(中1~中3まで指名制)、夏期(中1~高1は英・数・国中心で成績不振者の指名制、中2~高3は希望者対象で各教科)、冬期(高3の共通テスト対策)など、親身の補習で「予備校いらず」といわれる。東大・早慶上智大への現役合格率は首都圏トップクラス。
クラブ活動だけでなく、生徒が自主的に立ち上げる同好会活動も盛ん。カトリックの宗教行事もあり、入学・卒業の祝福ミサ、クリスマスなどがある。ほかの行事ではスキー教室、芸術鑑賞会、文化祭、カナダ、ニュージーランド、イギリス、アメリカ、オーストラリアなどの海外研修も実施。また、豊かな感性を育むため、毎週土曜日には中2の選択芸術講座が開かれる。夏休みの数日を使って、体験学習重視の「聖光塾」(中1~高3、自由参加)も開講。ボランティア活動は日常的に行われている。