出題校にインタビュー!
聖光学院中学校
2024年11月掲載
聖光学院中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.プログラミングに興味のある生徒が中1から学び始めている
インタビュー1/3
予想通り(1)(2)という解答が多かった
名塩先生 この問題は大問5問のうち最後の問題として出題したものです。小中高で統計および情報の内容が本格的に導入されたことを受けて出題しました。小問は5問あります。今回ご紹介いただいたのはその1問目です。出来具合は全問正解の人が約1割。全問不正解の人も約1割。ほとんどの受験生は5問中2問、あるいは3問程度の正答数でした。
小問5問のうち、1番良くできていたのは、1番最後の計算問題です。(1)から(5)の平均は、30点満点だとしたら約15点。ちょうど5割ぐらいの出来でした。平均値を出すなどの単純な問題です。それ以外は全部グラフからの読み取りや選択肢の問題でした。
数学科・教務副部長/名塩 隆史先生
今後は「情報」に近い単元からの出題も
名塩先生 出題意図については、いくつか観点がありました。まず大前提として、私が情報の授業を担当していて、すべての教材および定期試験問題を作成してきました。手がけてから3年くらいになり、こうした出題の仕方にもだいぶ慣れてきたので、今回の出題に至りました。
情報の授業でもデータサイエンスをかなり重要視しています。ただ、難しいです。表計算の関数の使い方などを身につけるだけでも、かなり時間がかかります。統計授業では、実際にデータを渡して、仮説を立てさせ、分析させるところまでやっていますが、グラフの読み取り、操作方法のマスターの仕方、いずれもとにかく難しく時間がかかります。
小学校にもプログラミングが導入され、特にスクラッチが使われています。統計だけでなく、プログラミング的思考と言われている「アルゴリズム」をその場で理解させ、それに従って何かを考えていくという出題も過去にいくつか出してはいるのですが、より出しやすい状況にあります。統計だけでなく、そうした「情報」に近い単元からの出題も、今後ありうるということを最初にお伝えしておきます。
聖光学院中学校 校舎
グラフが読めない。単位に無頓着
名塩先生 この問題を出題したきっかけは、理科の先生との話がベースにありました。グラフからの読み取りや選択させる形式の問題は、数学よりも理科のほうが数多くあります。例えば、化学反応が起きたときに時間の経過と共に物質が減っていく、そういう出題の中で、縦軸や横軸の単位をXからX分の1に変えると、当然形状が変わりますが、変えたのはその軸を逆数にしたことだけ。それ以外のことは授業でやっているのに正答率が極端に下がってしまった、ということがあったそうです。「生徒たちはグラフが読めない」「単位に無頓着だ」「キロにした瞬間にわからなくなる」という話でした。ほかにもキロの逆数はミリですが、ミリを付け忘れるのです。
私も「情報」で、ビット計算などを出題します。と言っても、「1秒あたり1キロ回データを測定すると、1回あたりの観測時間は何秒かかりますか」という問いで、「ミリ」と答えるだけなのですが、それができません。「情報」でいえば、キロ、メガ、ギガは日常的に出てくる単位ですが、生徒は回線の速さなどをやたらと気にするわりにキロ、メガ、ギガを実態量として理解していないのです。ギガはメガの例えば1000倍、あるいは1024倍なのですが、そういう感覚がないのです。単位に無頓着です。それからグラフの形状ですね。例えば棒グラフ、折れ線グラフの使い分けもままならない状況です。
観察力や立体感覚の低下が著しい
名塩先生 読解力も大事は大事なのですが、観察力が最近著しく低下していると感じています。細かい違いなどを見抜くことができないのです。立体図形の把握あたりは以前から差がつくため、入試問題でも必ず出題していますが、今回のような統計のグラフでは微妙な違いが読めないんだな、と感じました。
読解力以前に、よくものを見ていないということですね。
名塩先生 立体感覚は年々下がっています。私はレゴブロックを使った授業をしています。メディアでも取り上げていただいているのですが、(最近の子どもたちは)レゴブロックを触っていないんじゃないかな、と思います。マインクラフトばかりできているので、画面の中で考えるということはできるのです。ところが物に触れていないので、中には高3になっても四面体が描けない、理解できない生徒がいます。高3生に言うことではありませんが、「工作用紙で四面体を書いてこい」「作ってこい」と言わなければいけないくらい、立体感覚がない生徒もいます。小学生のうちから立体感覚を身に着けておいてほしいという思いで毎年出題しています。
聖光学院中学校 校舎内
比と加速度の理解が物理に通ずる第一関門
名塩先生 出題意図にはグラフの読み取りの他に、もう1つあります。それは「比」です。そもそも増加率や減少率、あるいは比をどう使うのか。そういうことがわかっていないのではないかと思います。問題を解くための比の概念は理解しても運用ができない、ということですね。
具体的な場面は2つあります。1つは統計分析です。人口と面積のデータを渡すと、人口を絶対量でしか使いません。人口密度にしてくれないのです。例えば、中区や西区の商業店舗数の違いを比較検討するときに、絶対数だけで見てしまい、面積で割り算したり、人口で割り算したり、ということをしないことが非常に多いと感じています。問題を解く場面以外で比を運用するという経験をほとんどしていないのです。
それから、物理が得意になるか、苦手になるか。その第一関門はどこにあるのかというと、加速度なんですね。これは物理の先生も納得されていましたが、力学の前段として速度の概念を教えたときに、加速度がわからない生徒はその後物理が分からなくなります。加速度の何がわからないかというと比がわからないんですね。2回微分という操作はわかるのですが、そちらに気を取られてしまい、速度が1秒あたりにどれだけ増えていくのか(単位時間あたりの変化する割合)が全然頭に入らないのです。
結局、何がわかっていなかったのかというと、比がわかっていなかった、というオチなのですが……。「比をどうやって教えたらいいか」と物理の先生に聞かれたので、「単位時間あたりの増え方という目線がないんですよ」と説明しました。そうすると一気に運動方程式までスムーズに行けた、ということがありました。
聖光学院中学校 屋外体育施設
「概念として理解してほしい」というメッセージ
名塩先生 微分で教えるとやはり機械的な操作になってしまい、根本的な加速度の概念の意味がわからない、ということがあります。物理でも化学でも、サイエンスは比を使うことによって支えられているので、どうしても微分という機械的な操作の理解に終わってしまい、単位時間あたりの変化量という見方ができていない生徒が、本校の生徒でも2割はいます。
経済学なども同様だと思うので、小学校段階での課題というより、社会人になってからも一生つきまとうものなのではないかと強く感じています。
本統計問題は入試問題としては弁別性はありませんでした。とはいえ、合格者平均点は7割を上回り、例年通りレベルの高い戦いになっています。
インタビュー1/3