シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

光塩女子学院中等科

2024年10月掲載

光塩女子学院中等科の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.多様性に触れた経験について聞きたかった問題

インタビュー1/3

まずはこの設問の出題意図について教えて下さい。

髙橋先生 一言で言うと筆者の追体験をしてもらいたいという問題です。筆者がこの文章の中で辿っている道筋を簡単に整理すると、まず外から第三者として眺めている段階があって、その後実際に現地に入ってからトラブルもあるものの、それを経て穏やかな心で現地の人たちと個別に接触をしていき平和的な関係を紡いでいきます。そういう経験を通じ、外から見ていただけではわからなかった人々の多様なあり方、多様性に触れていく経験をしていくわけです。そういうことを、この文章を通して自分自身の生活と重ね合わせてみてもらいたいという意図がありました。

他者を認めるということの第一歩としては、相手をひとくくりにすることなく「それぞれ個別の存在なんだ」「違う存在なんだ」と気付くことが大事です。人間は国籍や性別などいろいろな属性で括られているわけですが、そういった属性では括りきれないその人の存在自体が持つ価値があるように思います。実際に一人ひとりと接することを通して、その人の存在が持つ価値というものに触れ、「相手が他と交換不可能な存在なんだ」「存在そのものがかけがえのないものなんだ」と気付いてほしいと思って出題しました。

この文章よりも前の部分では、「言語は通じなくてもお互いに笑顔で良いコミュニケーションが取れた」といったことが書かれているのですが、「属性で括らない、1人の交換不可能なかけがえのない存在であることへの理解からコミュニケーションは生まれるのでは?」と思いまして、外から見ていてはわからない多様性について出題した次第です。

入試問題の文章の発掘にあたっては、入試問題のための文章を探すという感じなのでしょうか?それとも普段の授業で扱うような教材の中から偶然見つけるような感じなのでしょうか?

大津先生 それに関してはケースバイケースです。国語科の教員全員が入試問題になりそうなものを持ってくる宿題がありますので、文章への意識は普段から持ち得ていると思うのですが、普段の読書の中から「これはいいんじゃないか」という文章が出てくる場合も当然あります。

もちろんあまり難しすぎるものは入試に出しませんが、少し難しいくらいのものであれば出すことはあります。たとえば、中2・中3くらいで読むレベルの文章を出題することもありますが、普段から受験生が読んで心に響くような文章をできれば選びたいと思っていて、今回の文章はそれに該当するという理由で選定されました。

髙橋先生 入試問題に使う文章は、受験生に読んでほしいと思うものを選んでいますので、普段から教員が問題意識として持っているものが自然と出てくることもあると思います。

国語科/髙橋 恵麗奈先生

国語科/髙橋 恵麗奈先生

海外での経験や学校生活においての多様性についての解答が多数を占める

実際にはどんな解答が心に残りましたか?

大津先生 異国体験を書いてきた子もいましたが、身近な生活の中での多様性について書いてきた子も多かったです。具体的にはベトナムに行った時のことを書いた子がいましたし、外国人の転校生が来た時にその人の文化を大切にしていないといけないといったことを書いた子もいます。あと、桜の花が入学式の頃に咲くものだと思っていたのに、他の人にとっては卒業式に咲くものだという観念を持っていてその価値観の違いに気付かされた、といったものもありました。

髙橋先生 「多様性」という言葉に引きずられてしまい、そこから連想される一般論を書いてきた子もいました。しかし、この問いで訊きたかったのはそういう一般論ではなく、筆者が出会った多様性という前提をふまえた内容なので、自分が実際に出会った多様性について書いてほしかったですね。

多様性という言葉の説明を書いてきた子がいたということでしょうか?

大津先生 実体験に即していないものですね。こちらが求めていたのは、実際に接してみて初めて気付いた多様性について具体的に書いてほしかったということです。たとえば「性別の多様性があることに気付いた」といった一般論的な内容で終わってしまっている答案もありました。
白紙もありましたが、部分点もあります。時間はタイトですが、何とかたどりついて取り組んで欲しいですね。

光塩女子学院中等科 校舎

光塩女子学院中等科 校舎

小学生には少しハードルが高めの問題

正答率はどれくらいでしたか?

大津先生 正確な正答率は出していないのですが、すごくできているというわけではないものの、きちんと差がつくような形だったと思います。部分点があるので0点という子はそんなにおらず、得点率が半分あれば書けた方だといった印象です。

記述の採点は大変そうな気がしますが、実際はどうでしたか?

髙橋先生 項目を立てて採点しているのですが、この筆者の言っていることを踏まえ、自身の経験を思い出してつなげる部分は難しかったのかなと感じました。多様性というキーワードだけならいろいろ書けたと思うのですが、筆者の言っていることを踏まえて、という部分があることで点数が大きく開いたかなと思います。

この問題で満点を取るためには何が必要でしたか?

髙橋先生 筆者が言っている「遠くから見ていてはわからないけれど、近くに行ったらわかった」という題材に即した内容になっているかどうかということ、またこの機会に出会う前にどういう想いを抱いていたか、そしてどういう出会いがあったか、出会った後にどういう考えになったのか、この経緯がきちんと書けている必要があります。

トピックも、人の営みに関することを書いてほしかったので、生物種の多様性といったものだとこちらが意図するものとかけ離れてしまっているため正解にはなりません。これらのポイントをすべて満たそうとすると小学生にはかなりハードルが高かったかもしれませんね。

大津先生 この問題で満点近い高得点を取れた受験生で入学してきた生徒は、夏に書いてもらった読書感想文や作文で読み応えのある文章が書けています。必ずしも国語の成績と相関があるというわけではないのですが、この問題ができた受験生が本校に入学し、読書感想文や作文でいい文章が書けているのを見ると、連動しているんだなと改めて感じました。

光塩女子学院中等科 聖堂

光塩女子学院中等科 聖堂

インタビュー1/3

光塩女子学院中等科
光塩女子学院中等科1931(昭和6)年、スペインを発祥とするカトリック・メルセス宣教修道女会によって、かけがえのない自分に目覚めた女性を育てることを目的として、光塩高等女学校が設立される。47年に現在の校名に改称、高等科・中等科・初等科を設置。55年、幼稚園を設立した。2001年(平成13)に高校募集停止。
人間はすべて「世の光、地の塩」であるという真理が校名に刻まれているように、かけがえのない「自分」の存在に目覚め、惜しみなく己を他人のために開くことのできる人間に成長することを願う。年に数回個人面談があり、フランクに日頃思っていることを話し合う機会を設けており、教師と生徒、生徒同士、教職員同士の相互の「信頼感」に支えられた温かく密なコミュニケーションの雰囲気がある。生徒の真に主体的で、調和のとれた人格の発達を目指している。
白とレンガ模様を基調とした校舎は、施設拡充を積極的にはかったもの。地下には聖堂、体育館がある。校内は清楚で落ち着いた雰囲気。
1学年5~6名の教師が担当する共同担任制を採用している。一人ひとりの学力を伸ばすことを大切に考え、中学の英・数や、高校の英・数・理などでは習熟度別授業を実施。高2からは授業の5割を選択科目とし、生徒がそれぞれ自分の進路にあわせた時間割を組めるようにしている。小テストがこまめに行われ、漢字とスペリングは月2回、中1・中2の計算小テストは月2~3回ある。英語の教科書は『NEW TREASURE』を使用。4技能(読む・聞く・書く・話す)をバランスよく学び、国際的にも十分通用する英語力の習得を目指す。自分で考え、分析する力の養成も重視し、国語や社会では「書く」機会を多く作り、中等科の国語、高2の教養演習ではクリティカル・シンキングも取り入れている。難関大学への実績も好調で、理数系進学者は4割。
高3まで、週1時間、倫理の時間を設けている。クリスマスやミサなど、宗教的な行事のほかに文化祭、林間学校、中・高が合同で行う体育祭、弁論大会などの学校行事があり、すべて学年単位で取り組み、学年ごとの結束が強い。創立当初から奉仕の精神を大切にし、ボランティア活動も盛んで、11月の親睦会はバザーとしての意味あいも強い。クラブ活動は体育系7、文化系11あり、中高合同で活動し、学業と両立できるように、通常の1週間の活動日は2日以内だが、約9割の生徒が参加している。