シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

光塩女子学院中等科

2024年10月掲載

光塩女子学院中等科【国語】

2024年 光塩女子学院中等科入試問題より

次の文章は、筆者がアフリカを旅した経験をもとにして書いたものです。これを読んで、後の問いに答えなさい。

私はかつて旅に出る前、世界地図を床(ゆか)に広げて、世界に思いを巡(めぐ)らせていた。国ごとに色が分かれた地図へ、印をつけ、ピンを打ち、国境線をマーキングした。けれどどれだけ覗(のぞ)き込(こ)んでも、地図の中に広がる世界は区分けされた国土ばかりで、その中にある詳細(しょうさい)は一つも見えてはこなかった。そして、私は旅に出た。
トーゴやベナンや周辺国には、いろんな部族や民族がいて、土地に合った暮らしをしていた。トーゴとベナンの間には、特に『線』など見当たらず、入国審査(しんさ)も適当だった。地図の上に引かれた線は、地元の人が引いたのではなく、植民地支配を競(きそ)った国が、勝手に書いたものだった。そして私が刺(さ)したピンの、針の尖端(せんたん)が破った範囲(はんい)は、実質的には広大で、そこへは異なる民族や、さまざまな人や価値観や、文化や暮らしや宗教が数限りなく含(ふく)まれていた。私は地図の奥(おく)に広がる、ピン穴の向こうの多様性を、想像できていなかったのだ。
私は桶(おけ)を頭にのせた女性の笑顔(えがお)を思い出した。彼女(かのじょ)はトーゴの辺りにいたが、ベナンの人かもしれなかった。そして結局は、どちらであっても彼女には関係なさそうだった。

(中村安希(なかむらあき)『インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日』による)

(問)筆者は、旅の前には「想像できていなかった」多様性を、旅を通して知っていく経験をしています。筆者のように、今まで想像できていなかった多様性に出会った、あなた自身の経験を百字以内で具体的に書きなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この光塩女子学院中等科の国語の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

小学校に入ったばかりの時は、みんな自分と同じような性格で同じような考え方をすると思っていたが、小学校生活を送るうちに、積極的な人ややさしい人、深い考えを持つ人など、それぞれに個性があることがわかった。

解説

設問文には、「筆者は、旅の前には『想像できていなかった』多様性を、旅を通して知っていく経験をしています」と書かれています。文章に書かれた筆者の経験も参考にしながら、「あなた自身」の経験を具体的に書いていきましょう。

日能研がこの問題を選んだ理由

文章に書かれた筆者の経験にちなんだ「あなた自身」の経験を百字以内で具体的に書く問題です。

文章は、アフリカを旅する筆者(女性)が、国と国との国境を越えるにあたり、多くの車が妥当な相場をはるかに超える値段を請求するため、戦争のような値段交渉を続けているという場面から始まります。しかし、筆者はとうとう徒歩で国境を越えることに決め、心の穏やかさを取り戻したことで、現地の人たちとの心の調和を体験します。

筆者がこの旅行によって到達した地点は、国ごとに色分けされた地図に描かれた国境線は、植民地支配を競った国々によって勝手に引かれたものにすぎず、実際にそこに住む人々は、さまざまな価値観や、文化や暮らしや宗教を持つ多様性の世界であったということでした。

今回、光塩女子学院中等科で問われたことは、筆者のように、今まで想像できていなかった多様性に出会った、あなた自身の経験を書くというものでした。そこには、「ありのままのあなたがすばらしい」というカトリックの価値観を柱とした光塩女子学院中等科の教育理念が表れています。文章の筆者は、怒りを乗り越えて穏やかな心となり、ありのままの自分になったことを通じて、「多様性」という新たな気づきを得ているからです。

近年、日常のさまざまな場面で、多様性の尊重がうたわれています。しかし、その一方で、多様性という言葉がさまざまに解釈され、社会的問題を引き起こしているのも事実です。光塩女子学院中等科の今回の問いは、近年、私たちが直面している多様性の問題をあらためて考え直すにあたり、非常に示唆に富んでいるといえます。

このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。