シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

獨協埼玉中学校

2024年09月掲載

獨協埼玉中学校【社会】

2024年 獨協埼玉中学校入試問題より

(問)下のグラフは、仕事をしていて収入のある高齢者を対象とした国のアンケート結果をまとめたものである。このグラフについての説明として正しいものを、次の(ア)〜(エ)のうちから1つ選び、記号で答えなさい。

高齢者が仕事をしている理由(性・年齢別)

「令和2年版高齢者白書」(内閣府)(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/html/zenbun/s1_3_1_2.html)を加工して作成

  • (ア)男性は年齢が上がるに従したがい収入目的の割合が減っていくが、女性は必ずしも減らない。
  • (イ)どの年代も女性より男性の方が、健康や老化予防を目的にしている。
  • (ウ)健康目的で働く男女が、年々増加している。
  • (エ)仕事の面白さや知識・能力を生かすより、友人や仲間づくりが求められている。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この獨協埼玉中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

(ア)

解説

正解である(ア)については、「収入がほしいから」という項目では、男性の割合を見ると、60~64歳では65.1%でしたが、年齢が上がるごとに徐々に割合が低下し、75歳以上では29.9%となっています。一方、女性を見ると、60~64歳では47.6%でしたが、65~69歳では48.1%と増えているので、必ずしも減っていないことがわかります。

なお、(イ)については、「働くのは体によいから、老化を防ぐから」という項目では、どの年代も男性よりも女性の方が割合が大きいので誤りです。(ウ)については、グラフは単年で推移が読み取れず、「健康目的で働く男女が、年々増加している」かどうかはわからないので誤りです。(エ)については、男女ともにどの年代も、「仕事を通じて友人や仲間を得ることができるから」という項目よりも、「仕事そのものが面白いから、自分の知識・能力を生かせるから」という項目の方が割合が大きいので誤りです。

日能研がこの問題を選んだ理由

日本の総人口は1億2435万人で、そのうち65歳以上の人口は3623万人であり、総人口にしめる65歳以上の人口の割合は29.1%となっています(2023年10月1日現在)。また、15歳以上の労働力人口にしめる65歳以上の就業者割合(2023年)は13.4%で、年々上昇傾向となっています。今後も、総人口の減少に加え、少子高齢化がさらに進行することが予想され、これにより日本の産業や経済の発展が縮小したり、社会保障制度の維持が難しくなったりするなどの問題が起こることが考えられます。政府は、高齢者の雇用の促進を進めるために、法律の整備を進めたり、政策を打ち出したりしていますが、これらは高齢者が働き続けている理由と合致しているのでしょうか。

獨協埼玉中学校で出題されたこの問題では、60歳以上の仕事をしていて収入のある高齢者を対象とした国のアンケート結果を題材にして、どのような理由で仕事をしているのかに目を向けています。(ア)~(エ)の4つの選択肢から正解を判断していく過程では、資料を客観的に読み取りながら、60歳以上で仕事をしている人の性別や年齢による理由の違い、年齢が上がることによっての理由の変化などに気づきます。たとえば、「収入がほしいから」という理由については、男性の60~64歳では65%以上ですが、同じ年齢の女性では50%以下となっています。さらに、男性の75歳以上になると30%以下となり、かわって「仕事そのものが面白いから、自分の知識・能力を生かせるから」の割合が大きくなっています。このように60歳以上で仕事をしている人の理由は、必ずしも収入を得るためだけではなく、自分の経験を生かすことや、健康の維持、社会との関わりを継続することなど、さまざまであることがわかります。そして、高齢者の雇用を促進するために、働く環境をどのように整えることが望ましいのかを考える視点の1つにもつながります。

この問題では、高齢者の労働について、アンケート結果という資料を客観的に分析して多角的に現状や課題をとらえることや、12歳の今から、将来に向けて、日本が抱える課題に向き合い、解決していくための視点をもってほしいという出題校からのメッセージを感じることができました。

このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。