出題校にインタビュー!
日本大学藤沢中学校
2024年08月掲載
日本大学藤沢中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.中高時代に、社会に出てから必要とされる力をしっかり身につけてほしい
インタビュー1/3
生きる力につながる問題を作りたい
沼尻先生 社会人になった卒業生が遊びに来たときに、「就職試験でこういうことを問われた」という報告を、かなり聞きます。考える力やコミュニケーション能力が当然求められる世の中になっているということ、人前での発表があること、年齢、国、性別、立場、職業などを超えて、様々な人とコミュニケーションを取る可能性があること、などを感じます。そういう力を、中高の学びの中でどうすれば育てることができるのか、ということを、私なりにずっと考えていました。
また、大学入試が大きく変わりつつある中で、総合型選抜など、推薦入試の枠が非常に増えており、その入試が多様化をたどっています。そこでも自分の考えをまとめたり、社会をどうとらえているかをまとめて話さなければいけなかったりします。「先を考える力」や「伝える力」、それから文章と図・グラフなどを複合的にとらえて「問題点や解決策を論じる力」が、大学入試で求められているということを、非常に強く感じています。
そこで本校では、このような時代の入試に合わせて、中学の授業では「道徳」や「特別活動」、「総合的な学習の時間」などを活用して、生きる力につながる取り組みをしている最中です。また、高校では「総合的な探究の時間」が始まる1年前から、前倒しでこの新しい取り組みを始めようということで、生徒たちがグループ学習を通じてプレゼンする場を設けました。すると昨年度、探究活動のプレゼンを行う全国大会で、あるグループが優勝しました。それはこうした学習の定着が図れている表れではないかと考えているところです。これがそもそも日本大学の理念である「自主創造」の活動につながっているのではないかと考えています。
中学教頭/沼尻 和明先生
家族の体験をそのまま活かした
沼尻先生 中学入試を作るにあたっては、過去に広報部主任をしていたときに、塾の先生方から伺った「入試問題は学校側から受験生へのメッセージである」という言葉が非常に心に残っています。
学校が求める人材や、学校が目指す教育の一端が問題に表れると、それを受け取った受験生や保護者、塾の関係者の方々は、その問題に合わせた準備をし、能力を伸ばすことに努めてくれる、ということがありますので、本校に入りたいという熱意を持った受験生に見合った力を問える入試を作りたいと考えていました。
中学入試の国語では、生きる力につながる問題を出したいと考えました。それがこの問題の出題の意図になります。
実は、この問題のエピソードは私の実体験です。私の妻と私の母が東京駅で待ち合わせをして、その際にこのような状態になって「非常に困った」と。「事前にこうすべきだった」と話していたことを思い出し、学生に置き換えてもいいのでは?と思いました。
だからかなり具体的なんですね。
沼尻先生 その場面をそのまま活かしました。鉄道好きというわけではありません。入試問題の作成を担っている間は、どんなことも問題に関わるのではないかという意識を持っていた中で、ちょうど起きた出来事でした。
実際に子どもたちの会話の中でも、SNSですれ違いのやり取りがかなり起きている、という話をよく耳にします。そういうつもりで言ったわけではないのに、トラブルが起こったりすることに、胸を痛めていました。
日本大学藤沢中学校 大教室
完全な無解答や白紙はほとんどなかった
受験生の出来はいかがでしたか。
沼尻先生 問いが2つありますが、正答率で言うと、(問1)が65.4%。(問2)は55.5%でした。半分ぐらいの受験生ができていました。5・6割ぐらいの間を想定していましたから、ほぼ想定内です。
(問1)の「なぜ祖母はY駅に11時に来たのでしょうか」という問いの誤答としては、SNSのやり取りを踏まえていない解答が数多く見られました。例えば「10時に発車する電車に乗ったから」という解答は、状況としては正しいのですが、SNSを踏まえた解答か、というとそうではないので不正解になります。
同じような誤答としては「11時に着く電車に乗ったから」が、やはり数多く見られました。毛色が違うところでは、「祖母が時間を勘違いしたから」という答えもありました。また、「携帯電話を探していたから」など、遅れた理由を答えているものや、「携帯電話を忘れて連絡手段がなかったから」という答えもありました。今の子どもたちにとっては、携帯電話がない生活は想像できないのでしょうね。だから、今申し上げたような「携帯電話を忘れたことによる理由」につながったのだと思います。
白紙はありましたか。
沼尻先生 完全な無解答や白紙はほとんどありませんでした。それは、全く考えられない問題ではなかった、考える時間をきちんと取れていた、という意味だと思います。こちらとしてはきちんと最後まで解いてもらい、実力を図りたいという意図があったので、その通りになって良かったなと思いました。
複数の条件から、正しい解答を導き出す「思考力型問題」
沼尻先生 この問題は漢字などの基礎的な問題、小説、論説文に加えて、本校が意図的に作っている「思考力型問題」になります。複数の条件から、正しい解答を自ら考え出すということを目的として、こうした思考力型問題を作っています。その複数条件について、今回は文字だけでなく、地図や、時にはグラフもあるのですが、それらによって現在の社会で求められている複数の種類の情報を整理する力を図りたいと考えています。
実は私、昨年度まで放送部の顧問をしていたのですが、人前でしゃべるときにマイクを使って、例えば「右に寄ってください」と言うと、思うように移動してくれません。目標物がないからです。「そこに線路があります。「線路側に行ってください」と言えば、目標は固定されます。この言葉選びはすごく大事であるということを、常々話をしているので、国語の問題を通して考えてほしいと思いました。
この入試問題を通じて、考えてから行動するということを実践してほしいのと、日常の様々な状況でリスクを回避するために、適切な思考ができるようになってほしい。そういう思いを込めて、作問しました。
日本大学藤沢中学校 校舎
解答は自信をもって書いてほしい
思考型問題には、毎回、複数の条件が入っているのですか。
沼尻先生 入れないときもあるのですが、基本的に複数の条件は毎回入れるようにしています。最初に大学入試の変化がありました。過去を遡ると、近年になってこういう問題が若干増えてきて、おそらく今後はよりそういう傾向が強くなると思われます。
小学生がやる気が起きそうな問題というか、自分でもわかりそう、という感じで入っていくのだけれど、意外なところに隠れてる情報の整理の難しさみたいなところが、すごく絶妙な問題ですよね。
沼尻先生 本当にいろいろな場面を想定して、考えて書くという練習をしておけば、子どもたちなりの解答をするわけですよね。採点者側も落としたいわけではなくて、子どもたちの力を図りたいだけですので、一生懸命考えて答えてくれた内容を、前向きに読み取って、採点基準を満たしているかの判断をします。この言葉でなければ絶対にダメというわけでは全くありませんから、解答は自信をもって書いてもらっていいと思います。
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