シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

城西川越中学校

2024年07月掲載

城西川越中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.日常で入ってくる情報をしっかり自分のものにしていける力があるかを問う問題

インタビュー1/3

この問題の出題意図について教えてください。

梅川先生 毎年時事に関する問題は出題していますが、昨今中学生や高校生を相手に授業する中で、今の生徒は我々の頃と違ってYouTubeやネットから情報を知ることが増えてきたんだな、と思うことが多々あります。

ただネット上の情報に対し、出典もよくわからない状態のものを生徒が鵜呑みしてしまっている様子を見かけることがあって、入ってくる情報をある意味で批判的に見る力を今の子ども達に身に付けてほしいという気持ちは常日頃から思っていました。

そこから少子化問題を考えてほしいという考えもさることながら、育児休暇の取得率を上げていけば出生率が上がるのかという問題について「ふーん、そうなんだ」で終わるのではなく、「なんでそうなるんだろう?」とか「本当にそうなのか?」と疑問を持って考えてほしいなと思った次第です。

「支持する」「支持しない」どちらを選んでも構わないのですが、「支持する」を選んだ場合には「なんでこういう政策が有効なんだろう?」と考える必要が出てくると思いますし、一方で「支持しない」を選んだ場合には、政策を批判的に見る目が求められると思います。いずれにせよ、入ってくる情報をしっかりと考えて自分のものにしていく力を問いたい、そういう力を身に付けていけるような教育をしていきたい、といった想いから、このような記述問題を出題しました。

社会科/梅川 祥之先生

社会科/梅川 祥之先生

社会問題としての意見を述べられるかどうかが正解・不正解を分けるポイント

この問題は、かなり正面から問いかけてくる印象で、かなり大人でも考えさせられる問題に感じます。

梅川先生 受験生もかなり迷いながら書いたのではないか思います。出題の意図をつかむのが難しいことはあらかじめ想定していました。とはいえ、一生懸命チャレンジして書いてくる子はかなり多かったですし、自分なりの意見を持とうといった姿勢を見ることはできました。

そんな中、比較的多かった誤答としては、この設問とは関係なく自分の言いたいことを書いているようなものです。「自分は将来育児休暇を取りたいから支持します」といった解答はその一例ですが、これだと正解とはなりません。自分がどうしたいかという目線だけではなく、社会全体を考えた上でどういう道が正解なのかを考えるところが、日ごろそういった視点を持つことが少ない小学6年生からすると難しかったのではないか?と感じました。

他にも誤答例として「支持しない」を選択した解答の中には「働き手が減るから支持しない」といったように論点がずれた解答もありました。

城西川越中学校 校舎

城西川越中学校 校舎

普段から情報アンテナを張り巡らせていれば小学校6年でも解ける問題

育児休暇うんぬんよりも「他の施策を実現させないと出生率は上がらないよ」といった具合に、求めている本質を突いた解答を書いている生徒もいたのでしょうか?

梅川先生 たとえば「支持しない」という子の中には「それよりも所得を増やす政策のほうが先だ」といった具合に本質をつかんだ完璧な解答を書いている子もいましたし、「養育費」といった言葉を出してくる子もいましたので、そのような解答をする子は普段から情報のアンテナを張っているんだなと非常に感心しました。

須田先生 働き方改革が言われている時代の中、男性が、今後どういった働き方を求めていくのかが課題になっていくと思いますし、男子校でこの問題を出題するのは、メッセージ性があるとまではいかないですが意義としてはあるのかなと思いました。

このようなテーマについては日頃授業する際も、生徒は全て男子なので意識して話している部分もあります。たとえばDVといったテーマだと、どうしても男性が加害者であるイメージは強いと思います。しかし実際は相談ケースの約4分の1は男性が被害にあったというデータもあるようですし、セクハラなども男性が被害者となるケースもあることは授業でも触れるようにしています。

「支持する」「支持しない」どちらか選べというのも、別の視点から見るとどうなのか?を考えさせる意図もすごく感じられました。ちなみに正解となるポイントとしては、「このキーワードが入っていればOK」といったことなのですか?

梅川先生 特別キーワードの有無で判断することはしていません。どちらかというとこちらの設問意図をきちんと汲んで解答ができているかが大きいです。採点についてですが、本校は規模的にもたくさんの生徒が受験するというわけではないため、すべての答案を一つずつしっかり見て採点をしています。機械的に採点するのではなく、一つずつしっかり見ていますね。

本名先生 採点方法としては、文章の整合性が取れているかどうかといった基本的な部分はもちろんのこと、「支持する」「支持しない」に関しては、適切な理由付けができているかはしっかり見ました。また判断に悩む解答については、教員みんなで議論しながら採点を行っています。

「支持する」「支持しない」の具体的な模範解答例があれば教えてください。

梅川先生 「支持する」側の解答例としては、「男性が育児により参加するようになれば、出産・育児に対して前向きになる夫婦が増えると思うから」といった趣旨のものが多かったです。

一方で「支持しない」側の解答例としては、収入や教育、養育費など費用面の政策が先だ、というものが多かったですね。「所得」や「養育費」などの言葉は、小学6年生ではなかなか出てこないと思うので、非常に印象に残っています。

本名先生 私が印象に残ったものとしては、女性の気持ちをしっかりと考えた解答ですね。たとえば、「男性が育児休業取得をすると、女性の出産に対するマイナスなイメージを払拭できる」といったものです。「支持する」側の解答は気持ちの部分に関する解答が多かったかもしれません。一方で「支持しない」側の解答は政策的な部分が多い印象です。

城西川越中学校 図書館

城西川越中学校 図書館

採点基準には表現力も加味されている

部分点はあったのですか?

梅川先生 部分点は設けていました。たとえば「言いたいことは分かるけれど言葉が足りない」「気持ちは分かるけどもう一声」といった解答には部分点を上げています。しかし「自分が休みたいから支持する」といった解答は残念ながら点にはなりません。

こちらとしてはとりあえず書いてくれたものに対して評価したい気持ちもあるのですが、今は気軽に情報の発信者になれる時代であり、SNSも若い世代では日常的なツールとなっています。そんな時代だからこそ、知識がない状態で正しい情報かも分からずに発信するのは怖い部分もありますので、きちんと表現できているかどうかも採点基準として入れています。

全体としての正答率を教えていただけますか?

梅川先生 完全な正解は2~3割ぐらいです。部分点がついた解答はこの問題の場合比較的少な目でした。書いているけどバツとなった解答は結構多めで、全体の半分程度ありました。
この問いは最後の問題でもあって、基礎学力的なものをはかるタイプの問題ではないので、難易度としては簡単ではないとは思っていました。そういった意味では想定範囲の問題といえるかと思います。

城西川越中学校 グラウンド

城西川越中学校 グラウンド

インタビュー1/3

城西川越中学校
城西川越中学校高校が1972(昭和47)年に城西大学付属川越高等学校として開校。1992(平成4)年に中学が城西川越中学校として開校したが、校名からもわかるように城西大学付属となっていない。これは中高一貫の進学校として邁進していくという学校側の決意の表れである。
創立以来、画一的な教育を避け、個人の特徴を見つけ、精神的に豊かな人間の育成を目指している。その理念をくむ現在の教育方針は、「心豊かな人間の育成」と「個性・学力の伸長」となっている。生活指導は「力まかせ」ではなく「心で接する」ため、先生と生徒の信頼関係は厚い。まじめで誇張のない学校の姿勢、勉学と運動のための緑多い広い空間、掃除が行き届いた清潔な校舎など、学校の方針は着実に生徒に浸透していることがうかがえる。
校地は入間川に接し、河川敷にサッカー場、野球場、陸上競技場の他に、テニスコート6面など施設・設備が整っている。また、隣接する「けやきくん農場」では、ジャガイモ、大根の栽培や、田植えを体験することができる。食堂は2023年6月にリニューアルし、生徒が家庭科の授業でアイデアを出した、新メニュー城西丼が人気とか。
難関大学に現役合格できる「ゆるぎない学力」を養成する。毎週の小テスト、昼休みや放課後の個別指導など、丁寧な指導が学校の自慢。個人の学力に応じ、オリジナル副教材やプリントも多用。基本となる英・数・国の時間数を多くとり、英会話は中1から1クラスを3つに分け、それぞれにネイティブの先生が指導する少人数制。夏・冬休みには、講習会も開かれる。高校2年から文系・理系コースに分かれ、外進生とは高校3年の選択授業で混合。卒業生の多くは難関・上位大学へと進学し、活躍が目覚しい。
クラブ活動の参加は任意だが、加入率は毎年100%となっている。中学校の運動部は8、文化部は9のクラブがあり、特にサッカー、ラグビー、テニス、バスケットボール、野球などが盛んで、ユニークなロボット部もある。また、地域貢献にも力を入れ、学校行事だけでなくボランティア活動などを通して、人間性を育む。全国大会優勝実績もある和太鼓部もボランティア活動の一環としてスタートしたもの。
スピーチコンテストや、毎月最低1冊の本を読んで感想文を書く「今月の1冊」など、教科とも関連した取り組みも行われている。林間学校、アメリカンサマーキャンプ、体育祭、京都・奈良方面の研修旅行などのほか、中学3年ではオーストラリアのアデレードへの海外研修も実施している。高等学校では中長期留学制度もあり、グローバル教育も充実している。制服はビンテージネイビーのボタン詰襟タイプ。