シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

神奈川学園中学校

2024年07月掲載

神奈川学園中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.最近の中学生にも身近な電子マネーに関する問題

インタビュー1/3

まずはこの問題を作成された意図や想いについて教えてください。

須山先生 この設問は算数の会話文として成立する内容としていますが、割合が結構苦手な子がいる中、「社会の中でどのように算数は使われているのか?」、また「割合はどんな場面で使われるのか?」を肌で感じてもらいたいといった想いが込められています。普段あまり触れてこない割合の考え方のひとつを文章の中で紹介できないかと思って作成した問題です。

最近は、電子マネーを使っている生徒も結構います。本校でも電子マネーに対応した自動販売機があります。電子マネーを使うことで「お店は得しているんだろうか?」それとも「損をしているんだろうか?」、また「大変になることってあるのかな?」など、日常生活においてあまり気にしない販売する側の気持ちや状態、立場などを少し感じられたら面白いのではないかと思いました。

中身としては、割合に関する基本的な考え方で解ける問題にしたいと考えたので、この問題が含まれている大問3では、(1)(2)番はやさしめで手を動かせばできるように、(3)番については少し力試し的な問題にしています。解き方が分かってしまえば簡単ですが、その発想が生まれるかどうかが正答できるかのポイントとなっています。

設問の一行目に「私は将来、自分が作ったもので人を笑顔にしたいと思っていて、お店を開きたいんだ」というセリフがあります。問題を解く上では必要のない部分かもしれませんが、あえてこのセリフを入れられた意図などはあったのでしょうか?

須山先生 文章を読むことはただでさえ大変だと思います。ですから、読んでいて明るく思えるものにしたいと考えました。

算数の一行題レベルであれば、原価や原価の内訳までは考えるものはほとんどありませんので、「お店が利益を得るために、かなり大変な思いをしているんだな」といった強いメッセージ性がある問題だと感じます。

須山先生 自分自身が中学受験の際に「原価って何だろう?」と思ったことがあります。実家が文房具屋だったこともあり、その頃の原価に関するイメージは問屋さんに払うお金といったものでした。ですから中学入試を通して原価という言葉が出てきた際には、子ども心に問屋さんに商品をお店で売らせてもらうために払うお金としか認識していませんでした。大人になり商品の原価以外にも人件費や光熱費といった費用も全部店舗運営には必要であることがわかってきて、子どもの頃からものの原価についても興味を持ってくれたらいいなとは思う部分はあります。
誤答は結構偏っていました。そういった意味では、受験生の思考を振り分けるような問題だったかもしれません。最初の問題は9%、2番目の問題は1%の正答率でした。

出題される際にはどのくらいの正答率になると予想されていましたか?

須山先生 1問目はもう少し高い正答率を予想していました。半分できたらいいかなと思っていたのですが想定より低かったです。空欄でバツにした記憶はあまりなく、書かれた解答が間違っていたものが多かった印象です。

最初の問題ができれば次の問題もできる気はしましたが意外とそうではなかったのでしょうか?

須山先生 特に2番目は受験生にとってもかなり混乱しやすい問題だったのかもしれません。設問に記載されている「販売額」という言葉が受験生を惑わせてしまったと思います。1問目を間違えると2問目も間違えてしまいます。

教務主任・数学科/須山 友紀先生

教務主任・数学科/須山 友紀先生

普段の生活の中で数学を意識させる題材をつかった問題を出題

作問自体は何人かで集まって作り上げていくのでしょうか?

須山先生 最初の段階では教員1人1人が作っていきます。「どんな題材にしようか?」と考える時には、社会の中で起きている問題や弊害が何か算数の問題と結びつかないかと日々アンテナを張り巡らせてネタ集めをしています。

藤澤先生 教員同士で「これ問題になりそうだよね」といった話は頻繁にしていますし、教科の会議も隔週で行っています。毎年夏ぐらいから入試問題の作成に入るのですが、そうなると毎週のように会議することもあります。

最終的に作問はチームで行っていきますが、教科全員で解いていきながらブラッシュアップさせていきます。

この問題に関し、受験生に該当する年代の子どもが電子マネーを使っている、または知っているというデータかなにかを参考に出題されたものなのでしょうか?

須山先生 「電子マネー決済」という言葉はニュースでも聞きますし、割と社会的にも使用されてきています。当然持っていない子はいると思いますが、交通系ICカードは知っている子も多いですし、鉄道周辺の環境で使える場所も多いため、おそらく大丈夫だろうとは作問段階では思っていました。実際使ったことがあるかないかまではそこまで重視していませんでした。

神奈川学園中学校 校舎

神奈川学園中学校 校舎

時間を考慮し問題構成を大きく変更

この設問は大問3と全体の真ん中に位置している問題です。長文問題を後半でなく真ん中に入れた理由などはあるのでしょうか?

須山先生 この部分については会議でもかなり議論したのですが、大問1番・2番は解きやすい問題がよいということで、元々あった大問3は今回削除しました。また途中式を書くような問題については、本校を受験する子には少し難易度が高いこともあって、途中式を書く部分を残しつつ解きやすい問題にしようと考えました。

さらには大問2のような瞬発的な判断力が必要な問題を少し増やそうということになり、大問2については昨年より問題を増やして7題としました。長文の文章問題が最後にあると、時間がかかってしまった受験生が問題にたどりつけないかもしれないと思い、前に置いたほうがいいと考えました。

後半に行けば行くほど当然ながら時間が足りなくなってくることが想定されるので、比較的大問1番・2番は小問としてつながっていくよう意識して作っています。大問4番・5番の(3)については、例年より難易度は下がっていると思える問題でしたので、気持ちとしてはもう少し取ってほしかったと思った問題でした。

記述形式の問題の場合、長く説明してくるようなタイプの子は多いですか?

須山先生 それについてはまちまちといった印象です。自分の考えを言葉で書いてくる子もいれば式を並べてくる子もいますし、こちらとしてはどちらでもいいと思っています。記述の中に間違えて考えてしまっているポイントがあったとしてもそこは見ずに、考えられた部分をできるだけ見るようにしています。

この子の解答はいいなと思う時には「この子結構書けているよ」といった情報共有を教員としながら行うこともあります。

国語や算数では最低ラインを決めていないので、それぞれ合格したいと思っている子たちの計算過程などをしっかり見たいと思って採点しています。当然ですが、公式をただ覚えていればいいとは考えていません。「なんで?」「どうして?」といった部分を大事にしてほしいと思っています。

藤澤先生 答案も書いて損する形にしてしまうと、受験生は書かなくなってしまいます。入学してきた生徒たちの中にも間違えることをすごく怖がったりする子もいるのですが、「そうじゃなくていいんだよ」ということを数学だけではなく他教科の授業でも意識しています。自信がなかったりする生徒もいるので「まちがえをこわがらなくていいよ」というメッセージも込めて作問は行っています。

入試問題の構成は他の日程の場合も同じですか?

須山先生 そうですね、構成自体は一緒ですし難易度もそろえています。説明会では「どこかでグラフの問題は出題します」とお伝えしていますので、大問4番・5番のどちらかでは関数的な問題を出題するようにしています。また、その年に話題になったテーマなどやこういうものを知ってほしいものなどといったメッセージ性のある問題を入れたりもしています。

藤澤先生 全体として終わりきらないという課題を解消する目的もあり、昨年から「問題構成や内容も変えます」とアナウンスして、サンプル問題も出したのも大きかったです。問題数を絞ったことで、今まで以上に解答が埋まるようになりました。

神奈川学園中学校 数学科通信

神奈川学園中学校 数学科通信

インタビュー1/3

神奈川学園中学校
神奈川学園中学校1914(大正3)年に、前身である横濱実科女学校が開校。建学の理念である「女子に自ら判断する力を与ふること」「女子に生活の力量を与ふること」を背景に「自立した生き方」を実現する教育をめざしています。
2000(平成12)年からスタートした「21世紀教育プラン」のもと、学力・人間力の向上を目標にさまざまな改革を実行。2008年からのセカンドステージでは、教育プランを深化するために週6日制、先取り学習を本格的に導入。改革の成果は年々表れ、早慶上智・MARCHなどへの進学実績が大躍進しています。2011年には高校募集を停止、改革はサードステージに入りました。サードステージでは学力の育成のほか、全員参加の海外研修など、行事改革も行いました。
5教科では、オリジナルテキストを使用。特進クラスを作らないことも特色。高2・高3では大幅な選択科目制となり、大学進学を強力にサポート。「理科実験100」「国内FW」「探究」など、興味深い取り組みもたくさんあります。「人と出会い、社会と出会う」という基本方針のもと、中学では2人担任制や入学直後のエンカウンター、プロジェクトアドベンチャーを実施。中3の海外研修ではホームステイや現地校の授業も受講。クラブでは、バトントワリング、そう曲が全国レベルで、コーラス部や新体操も活躍。