シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

神奈川学園中学校

2024年07月掲載

神奈川学園中学校【算数】

2024年 神奈川学園中学校入試問題より

次の会話文を読んで、各問いに答えなさい。

さくら:私は将来、自分が作ったもので人を笑顔にしたいと思っていて、お店を開きたいんだ。

かなこ:そうなんだ!そういえば、お店で物を買うけれど、値段はどうやって決めているんだろう。

(中略)

さくら:私がお店を開くとしたら、電子マネー決済を使えるようにしたいの。その場合は、お店がその電子マネー決済の会社に手数料を払わないといけないみたい。例えばA社の●▲ペイを使えるようにすると、お店での電子マネー決済での販売額の4%をA社に手数料として支払う仕組みなんだって。もし、自分だけで作成と販売をして、商品1つの材料費が3200円で人件費0円、製造経費は1000円として、その商品をお客さんが電子マネー決済で買ったとしても、販売額の16%の利益を得るには販売額をいくらにすればいいかな。

かなこ:その場合、原価と電子マネー決済手数料と利益を合わせた値段が販売額になるよね。

問題図

(問1)下線部について、A社の●▲ペイを使用して支払った場合、販売額の16%の利益を得るには1つあたりの販売額をいくらにすればいいですか。

(問2)(問1)の販売額で50個の商品を販売します。すべて現金支払いで売り切った場合の利益は、すべて●▲ペイで売り切った場合の利益に比べていくら多くなりますか。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この神奈川学園中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

(問1)5250円
(問2)10500円

解説

(問1)
問題に示されているように、電子マネーを使用する場合の販売額の内訳は、「原価」「電子マネー決済手数料」「利益」の合計額になります。「原価」は、材料費3200円と製造経費1000円を合わせた3200+1000=4200(円)です。そこで、問題の条件を、次のように線分図に整理してみます。

(問1)解説図

すると、この4200円が販売額全体に対して、100-(4+16)=80(%)にあたることがわかります。
よって、販売額は4200÷0.8=5250(円)となります。

(参考)
通常、売買算では、もとにする量を原価として定価を定めていきますが、この問題では、もとにする量を原価ではなく販売額としています。したがって、原価をもとにした4200×(1+0.04+0.16)=5040(円)ではないことに気をつけましょう。

(問2)
電子マネーが使用されると、1個あたりの販売額5250円の4%にあたる、5250×0.04=210(円)が、電子マネー決済手数料になります。
しかし、商品が現金払いで支払われた場合、お店側は、電子マネー決済手数料を支払う必要がないので、この210円もお店の利益になります。
つまり、電子マネー決済で支払われた場合と比べ、現金で支払われた場合では、1個につき210円の利益が増えます。
よって、この販売額で50個販売し、すべて現金支払いで売り切った場合の利益は、210×50=10500(円)多くなります。

(参考)
この問題で話題としてあげられている「電子マネー決済手数料」について補足します。
あるお店で、お客さんが電子マネーで支払いをすると、その情報が決済代行会社に送信されます。その決済が電子マネーのサービス提供会社によって処理されると、決済代行会社を通してお店側にお金が支払われます。その際に、3%~4%の手数料(電子マネーの種類や業種、加盟店の規模等によって異なります)がかかるという仕組みです。

同じ商品でも、現金で支払われた場合は、手数料にあたる金額もそのままお店の売り上げになりますが、電子マネー決済で支払われた場合は、手数料が引かれた金額がお店の売り上げになるため、お店側からすれば、現金で支払いをしてもらった方が利益が多くなることになります。

それでも、多くのお店で電子マネー決済を導入しているのは、電子マネー決済を普段から利用している人がお客さんとして来やすくなることや、電子マネーを使うと、レジでの会計が正確にスムーズにできるなど、お店側のメリットも多いということがあげられます。

日能研がこの問題を選んだ理由

中学入試の算数では、近年、会話文形式の出題が増えてきています。会話文形式の出題とは、先生と生徒、あるいは生徒どうしなどが会話をしながら、あることがらを考えていく過程が描かれ、その中で問いが提示されるというスタイルのものです。少し前までは、これまでの入試問題を無理やり会話調に仕立て上げた、ややぎこちないものも見られましたが、近年はこの出題のように、学園生活の中で、生徒どうしが実際に会話しながら学んでいる様子がイメージできるような、実に自然な会話文の出題に変化してきたように感じます。この問題では、将来、自分のお店を開きたいという夢を語ったさくらさんの発言から始まり、そこで話されている内容が、お店を開くときに直面する、電子マネー決済導入についての話題に発展します。この会話文を読むと、算数の問題に取り組みながら、ものの値段が決まる仕組みを理解したり、昨今の物価上昇の背景に目が向いたりするなど、算数と世の中とのつながりが感じられる内容になっていることに気づかされます。また、今回紹介する問題を通して、電子マネー決済を導入することによって、店側にはどのようなメリットやデメリットがあるのか、ということを考えるきっかけにもなるでしょう。

「算数って、何の役に立つの?」という素朴な問いに、真正面から立ち向かうようなこの問題。仮に算数が苦手でも、夢の実現に役立つなら、やってみようかな…。そんな気持ちの変化も期待できるような出題であると感じます。

このような理由から、日能研ではこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。