シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

普連土学園中学校

2024年06月掲載

普連土学園中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.自分と違う存在を受け入れられるようになる、それが本校のアドミッションポリシー

インタビュー3/3

高2の「研究論文」を全教員で伴走する

冨澤先生 国語科だけの取り組みではありませんが、高2が今、「研究論文」に取り組んでいます。全ての生徒が高2で自分の好きなことをテーマに論文を書こうということで、専任の教員が3、4人の生徒を担当し、やり取りをしながら論文の作成を進めています。それが教科を超えた形での支援になっています。

大井先生 校長も含めて、専任の教員全員が3、4名の生徒を受け持つと1学年の面倒をみることができるのです。

冨澤先生 割り振るのは進路部です。教員のほうから対応可能な分野を先に登録しておき、生徒が取り組むテーマが決まると、教員が割り当てられるという仕組みです。

池田先生 もちろん(自分の得意な分野と)バチッと一致することもあるのですが、多くは近いところで受け持つという感じです。私は歴史など人文系を選ぶのですが、以前「ミイラの作り方」を研究テーマに選んだ生徒を任されて、多少困惑しながらも一緒に勉強しました(笑)。

大井先生 なかなか的確なアドバイスをすることは難しいですが、伴走する感じです。

冨澤先生 最後は「頑張れ」と励ますだけです(笑)。

広報部長/池田 雄史先生

広報部長/池田 雄史先生

真っすぐに、自分の興味を追究していく生徒も

研究テーマに近い進路を選ぶ傾向は見られますか。

池田先生 全く関係ない進路を選ぶ生徒ももちろんいますが、その研究テーマから人生が拓ける生徒もいます。例えば、本校の「普連土」という漢字は、あの津田梅子の父親である津田仙が音と意味を当てて考えました。それを知っていて入学したわけではないようですが、津田仙と出身地が同じ生徒がいました。その地域の小中学校では、西洋野菜の国内普及の第一人者であった津田仙の功績をたたえるため、毎年給食で「津田仙メニュー」が出されていたそうです。普連土に入ってから、「普連土」は津田仙が考案した漢字であることを知って興味をもちました。中3の社会科の論文でも津田仙について書き、高校生の時にはテーマをさらに深めて研究論文にまとめました。その論文は『歴史研究』という専門誌にも掲載されたほどの完成度で、最終的に彼女はお茶の水女子大学の歴史学科に進学しています。現在大学2年生ですが、最近も津田梅子の新5千円札の発行を記念して開かれたシンポジウムで、締めのスピーチを担当しました。

他者の意見を尊重することは校風として根付いている

冨澤先生 国語科が大切にしているのは、他者の意見を尊重する、ということです。他者の意見を知るためにはコミュニケーションを取らなければいけません。そこは国語科の教員が共通認識としてもっているところだと思います。

池田先生 これは国語科というより学校全体になりますが、本校の礼拝のスタイルとして特徴的なことの一つに、人前で話をする、ということがあります。それが教員であれ、生徒であれ、ほぼ毎朝人が出てきて話をするので、ざっくりとした計算ですがそれを聞く機会が6年間で1000回前後あります。その積み重ねの影響がすごく大きいと思っています。もちろん自分も話さなければいけません。在校中にクラスで話す機会は少なくとも7~8回はあります。生徒によっては全校生徒の前で話す子もいます。そういう経験も土台の一つになっていると思います。

冨澤先生 そうですね。我々があえて「他者の意見を尊重しましょう」と言っているわけではありません。校風というか、全体の雰囲気としてそういうものがあります。上級生が下級生を「◯◯さん」と敬称を付けて呼ぶのもその一つです。一人の人間として尊重する、というところから始まっています。個人と個人の関係を構築する、ということは、国語に限ったことではなく、教員全員が心に留めているところです。

大井先生 例えば小説を読むことによって自分が経験していないこと、つまり他の世界を知ることができます。評論を読むことによって筆者の考えを知る、つまり他者を知ることにつながります。簡単に言えば、文章を読むということは、こんな考え方があるんだ、こういう見方もあるんだ、ということを知ることになるのです。小説にしても評論にしてもたくさん読むことは、多くの視点や考え方に触れるということですから、きっと自分というものが広がっていくと思います。そう感じているので、入試問題で筆者の主張を問うのは、あるいは小説で心情が変化していく過程を問うのは、そこでそういう体験をしてほしいからです。もちろん自分の考えを主張することも大切ですが、前提として、人の話を聞いて、考え方に触れた上で主張することが大切です。自分と異なる存在を受け入れられるようになること。対話をすることで自分が変わっていくこと。これらは本校が大事にしていることだと感じています。

普連土学園中学校 静黙室

普連土学園中学校 静黙室

自分の知らない世界を楽しんで覗き見してみよう

最後に、小学生の受験生に向けて、メッセージやアドバイスをお願いできますか。

冨澤先生 言語を扱う国語の勉強は、文章を読むことが中心になると思います。それは筆者・作者との対話だと思います。その対話とは、言葉だけでなく、実際にいろいろなもののキャッチボールになっていて、それは相手(他者)を知る、ということにつながっていくと思います。その「他者を知る」ということは、他者自身を知るということではなく、自分とは異なるバックグラウンド、つまり自分の知らない世界を知る、ということなので、国語という教科を通して、自分の知らない世界へ一歩踏み込んで、のぞき見を楽しんでほしいなと思います。
また、普段から保護者の方とどんなことでもいいので対話をして、言語感覚を磨いていただきたいです。これは本を読んだからといって身につくものではありません。今風の言い方をすると肌感覚だと思うので、日常生活の中で磨いていっていただきたいと思います。

普連土学園中学校 生徒ホール

普連土学園中学校 生徒ホール

インタビュー3/3

普連土学園中学校
普連土学園中学校1887(明治20)年、キリスト教フレンド派(クエーカー)に属する米国フィラデルフィアの婦人伝道会により創設。当時米国留学中の新渡戸稲造の助言によるもので、「普連土」の漢字は「普(あまね)く世界の土地に連なる」という意味を込め、津田梅子の父・津田仙によりあてられた。
生徒一人ひとりにある「内なる光」を導き出し、育てることを教育目標とする。毎朝20分の全校礼拝や週に1回の「沈黙の礼拝」は、自らの“内なる光”に気づく機会でもある。また、フレンド派の創始者ジョージ・フォックスの言葉「Let Your Lives Speak」をモットーに、創立当初から少人数制主義を守り、1学年3クラスの規模とし、生徒の特性と個性を理解した教育を実践。全員参加の自治会活動を行うなど、広い意味での奉仕の精神と国際性の涵養にも力を入れている。伝統ある「小さな名門校」でファンも多い。
学園内に木々や草花が植えられ、都心とは思えないほど静か。赤い屋根、広いベランダが人気の校舎はモダンだが、机と椅子と床は木製で、自然のぬくもりを大切にしている。視聴覚設備を完備した音楽教室、蔵書3万冊の図書館、講堂など、施設は十分。
基礎をていねいに身につける面倒見の良いカリキュラムが特徴。英語は中1から週6時間。うち2時間の英会話はクラスを3分割し、外国人教師による指導が行われる。中3~高3の英語、高1~高3の数学、高2の化学、高3の古文では習熟度別授業を実施。中3英・数・国の補習が夏休みにあるほか、高校では大学入試対策を中心とした補習が放課後や長期休暇中に行われる。中3の夏休みには興味ある職業について内容を調べ、在校生の保護者の職場を実際に取材してレポートを作成する。高2から選択授業を豊富に取り入れ、高3では演習が増え、40%近い理系進学をはじめ幅広い進路に対応。大学合格実績では堅実な成績を収めている。
生徒同士の交流は家庭的な雰囲気であり、学校生活、クラブ活動においても温かな空気が流れている。クリスマス礼拝、収穫感謝礼拝など宗教行事のほか、ネイティブスピーカーの先生や留学生と英語で対話をしながら昼食をとる週1回のイングリッシュ・ランチ、白樺湖でのイングリッシュ・キャンプなど英語を楽しく学べる行事が多い。高1・高2の希望者が参加するジョージ・フォックス・ツアーはフレンド派の原点をたどるイギリス研修旅行。学校にはフレンド派に属する世界の識者や有名人が毎年のように訪れ、生徒たちと語り合う機会も多い。生徒会はじめ14の委員会があり、生徒はいずれかに全員参加。クラブは中高合わせて文化系が12、体育系が9ある。