シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

自修館中等教育学校

2024年05月掲載

自修館中等教育学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.入試は最初の授業。入学後にどういう授業に取り組むのかを知ってほしい

インタビュー1/3

授業で行われていることを題材に作問

この問題の作問意図からお話いただけますか。

道村先生 学校としては、多様な価値観を持つ存在を認めて、他者の意見を傾聴する力を身につけてほしいという思いがあります。社会と向き合う姿勢を大切にしている社会科としては、自分ごとにする力を身につけてほしいですね。また、正しいものは1つだけとはかぎりません。世の中には多様な考えがあって、「どれも正しい」というものもあるかもしれないので、そういう観点で問題を作りたい、という考えを常に持っています。そうしたなかで出てきたのが今回の問題です。会話文の内容は、SS(道徳)の授業で実際に行われていることです。「ナッジ理論」(そっと後押しする理論)も実際に授業で扱っています。それらを問題に落とし込んでいくとどうなるのだろう、と、考えながら作っていきました。

社会科/道村 唯輔先生

社会科/道村 唯輔先生

「キャップ投票」も、生徒会が実施するリサイクル

実生活の一部を切り取って、できた問題なのですね。

道村先生 実は「キャップ投票」も、生徒会が実施していることです。会話文を考えている時は、こんな話をしているかもしれないな、と、思いながら作っていました。

大藤先生 学校でペットボトルのキャップを集めています。生徒会は「ボトル」「ラベル」「キャップ」の分別に苦労していて、良い方法はないか、と考えて始めたのが、「キャップ投票」です。1年生に対してペットボトルを使って貯金箱を作る、というワークショップを行うなど、よく考えて活動しています。

道村先生 道徳で学んだことが、実際の活動につながりました。投票結果は、昼休みの会食中に放送で流しています。

大藤先生 キャップを集めて送ると、何かのワクチンが買える、というところから始めましたが、今はそういうことよりも、分別をしっかりしましょう、というところに重きを置いています。キャップを取り、ラベルを剥がして、ボトルを洗うという、それぞれの素材に分けることを意識しています。
ボトルを洗うところまでやると、その先の手間が省けて、よりペットボトルの再利用がしやすくなるので、それが広まるといいと思います。

自修館中等教育学校 キャップ投票

自修館中等教育学校 キャップ投票

時事的な要素は小さなニュースから選んだ

道村先生 会話文に出てくる高速道路のパーキングエリアの話も、ある新聞に掲載されていたものです。自修館の社会の問題は、時事的な要素を扱うことが結構あります。大きなニュースももちろん大事なのですが、小さなニュースも大事にしています。例えば、自転車のヘルメット着用が努力義務になったとか、最近エスカレーターの片側を開けることが問題になっているとか。むしろそういう話題のほうが、子どもたちの目が向きやすいだろうと思うので、「日常生活を考えてみよう」というメッセージのつもりで、小さなニュースの話題を取り入れています。

また、今回の問題は環境問題の要素も含んでいます。例えば「地球温暖化はよくないよね」ということはわかっていても、実際にどうすればいいか、を考えたり、それを実行したりすることは、簡単ではありません。ナッジ理論は、それを実現可能な方法で考える「考え方」なので、それをぜひ体験してほしいと思いました。要は、SDGsを知識として知っていること以上に、実際に自分たちができることを考えることが大事だよ、という思いで、このような問題を作りました。

自修館中等教育学校 校舎

自修館中等教育学校 校舎

模範解答よりも良い解答があった

我々としては、受験生がどんなことを答えたのか、がすごく気になるのですが……。

道村先生 自分が考えた模範解答よりもいいなと思ったのは、「タイムマシンがあったら、未来と過去、どっちに行く?」という解答です。

その解答はおもしろいですね。

道村先生 問題文に書いてある、いろいろな人が来ることを想定して考えた解答ですよね。「どっちだろう」と、ワクワクしながら考えられます。話題として広がりもあり、環境保全におもしろく努められると思いました。
「朝はパン派?コメ派?」「算数と国語、どっちが好き?」「海と山、どっち派?」など、王道の解答のほか、「きのこの山とたけのこの里、どっちが好き?」などの解答もありました。
もちろん、宗教的なバックボーンがあってできないとか、「猫派、犬派」と言われても、私は猫アレルギーだから犬しか選べない」という人もいると思います。そういうことも踏まえた上で、一番条件に合致したのが、その「タイムマシン」ではないかと思いました。

正答率は約80%。楽しく考えてくれた痕跡も

白紙はありましたか。

道村先生 白紙はほぼなかったです。正答率も結構高くて、約80%でした。

どんな解答が×になりましたか。

道村先生 例えば、アニメ関係の解答を書くなど、条件に合っていない解答ですね。それは問題文を読んでいないということになりますから。「私は犬派」という解答もありました。
なかには、解答用紙の端っこや裏、問題冊子などに条件をまとめるなど、楽しく考えている様子が垣間見られるものもあり、嬉しかったです。一般入試では面接がないので、私の中では入試問題が受験生との対話というか、最初の授業だと思っています。もちろん入試なので、◯×や正解・不正解はありますが、自修館に入ったらこういう授業が行われるよ、こんなことを考えるよ、ということを知ってほしいという思いがあって、こういう問題をよく出しています。

また、妥当性も大事にしていることの1つです。特に、記述させる問題では、自由に書かせすぎると受験生が何を書けばいいのだろう、と困ってしまうと思うので、ある程度、こういうことを書くんだよ、ということを提示したほうがいい、という考えもありつつ、一方で、思考の可能性を狭めてほしくないので、その条件をいくつかピックアップしながら作っています。

たしかに、きちんと問題を読まなければ解けない問題ですよね。

道村先生 自分の考えを自由に発想する、ということももちろん大事ですが、社会科では資料もたくさん出します。その意図は、探究で資料や根拠に基づいて考える、ということが必要になるからです。社会の授業でも、そこは同じです。書かれていることをしっかり読んで、求められているものは何かを考えて書く、ということを意識させています。

自修館中等教育学校 教室

自修館中等教育学校 教室

インタビュー1/3

自修館中等教育学校
自修館中等教育学校スクールバスにて小田急線愛甲石田駅より約5分、JR東海道線平塚駅より約25分。目の前には緑多い大山と丹沢の山々があり、恵まれた自然環境。校舎は、5階建ての普通教室棟と特別教室棟からなり、図書館、PC教室、自習室などを備え、高度情報化社会に対応したつくり。体育館や屋上にプールを備えたアリーナ棟もある。学校食堂の枠を超えたレストラン、カフェテリアも好評。
建学の精神「明知・徳義・壮健」の資質を磨き、実行力のある優れた人材を輩出し人間教育の発揚を目指す。そのため、学力とともに、「生きる力」を育成するテーマ学習や心の知性を高めるEQ教育などユニークな取り組みを実践。教育を“こころの学校作り”ととらえ、学校を想い出に感じ、帰れる場所に、と家庭とも連携を保ちながら、きめ細かい指導にあたっている。
中1~中3を「前期課程」、高1~高3を「後期課程」とした、高校募集のない完全中高一貫の体制。3カ月を一区切りとする4学期制で、メリハリをつけて効果的に学習を進めている。英・数は高2から習熟度別授業を実施。英語の副教材には、『ニュートレジャー』を使用。興味のあるテーマを選んで継続して調査・研究を行う「探究」の授業もある。指名制の補習と希望制の講座がさかんに行われている。また個別指導が多いのも特徴。
週6日制だが、土曜日の午後は自由参加の土曜セミナーを開講。「遺伝子組み換え」「古文書解読」「伊勢原探訪」など生徒対象のものだけでなく、保護者対象の講座も多数用意している。「探究」以外でも心の知性を高める「EQ」理論に基づいた心のトレーニング「セルフサイエンス」や、国際理解教育など、特色ある教育を展開。中1のオリエンテーション、山歩きに挑戦する丹沢クライム、芸術鑑賞会などの行事がある。文化部9、運動部10のクラブ活動も活発。「探究」の一環として、高2でオーストラリアでの海外フィールドワークが行われる。