今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!
自修館中等教育学校
2024年05月掲載
2024年 自修館中等教育学校入試問題より
- 問題文のテキストを表示する
(問)次の会話文を読み、思わずキャップ投票をしたくなるような二択の質問を考え答えなさい。なお、会話文中の条件を踏まえること。また、「あなたは猫派?犬派?」以外の質問を考えること。
【会話文】
Aさん:今日のSS(道徳)の授業では、「ナッジ理論」について学んだね。
Bさん:強制や罰則なしに「ついやってしまう」行動を活用する考えのことだね。
Aさん:そうそう。そこで思ったんだけど、校内のペットボトル回収箱にはキャップが分別されないまま捨てられているのをよく見るから、キャップの分別を促すことにナッジ理論を使えないかと思って。
Bさん:それは面白い考えだね。そういえばこの前旅行に行ったときに寄った高速道路のパーキングエリアに、「あなたは猫派?犬派?」って書いてあるペットボトルキャップのごみ箱があったなぁ。
Aさん:思わず投票したくなるような質問を書いて、ごみ箱を投票箱にすることで分別を促す、というわけね。面白そうだから校内でもやってみない?
Bさん:いいね。でもどんな質問だとみんな投票したくなるんだろう。
Aさん:あまり選択肢が多くても迷ってしまうから二択がいいよね。あと、学校には様々な方が来校されるから多くの方が投票しやすいものがよくて、アニメや漫画みたいな知っている人しかわからないようなものはダメだよね。
Bさん:正解があるような計算問題やクイズも適切ではないよね。よし、色々考えてみよう!
中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この自修館中等教育学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)
解答と解説
日能研による解答と解説
解答例
あなたはうどん派?そば派?
解説
問いの答えとなるものは「思わずキャップ投票をしたくなるような二択の質問」ですが、問いかけには「会話文中の条件を踏まえること」というただし書きがあります。会話文中には、「多くの方が投票しやすいもの」、「知っている人しかわからないようなものはダメ」、「正解があるような計算問題やクイズも適切ではない」といったことが書かれており、二択を見ただれかが疎外感を感じたり、正解・不正解が出てしまったりすることのないような質問を考えます。
会話文には「あなたは猫派?犬派?」という質問がすでにあげられていますが、他にも「米派?パン派?」「野球派?サッカー派?」「社会が好き?理科が好き?」など、さまざまな例が考えられそうです。もしかすると、まったく隙のない完璧な質問をつくり出すことは難しいかもしれませんが、さまざまな立場の人の顔を想像しながら、二択の質問を見た人たちが、何を思うだろうかと想像してみましょう。
- 日能研がこの問題を選んだ理由
会話文の中で、AさんとBさんがしようとしていることは、端的に言えば、みんなにペットボトルのキャップを回収箱に入れてもらうことだけです。キャップを分別して回収したほうが良いということは、ほとんどの人が理解していると思いますが、現実にはそれほど実行されていない状況も想像に難くありません。2人は「ナッジ理論」を取り入れることによって、こうした状況を解決したいと考えています。
「ナッジ」とは、「そっと後押しする」という意味です。AさんとBさんは、ナッジ理論にもとづき、だれもがストレスを感じずに、自発的な行動をとれるような環境をつくることによって、分別回収を「そっと後押し」したいと考えているのです。
さらに、AさんとBさんは二択の質問を単なる興味・好奇心で決めようとしているのではありません。入試問題の文章中には、「互いの価値観を尊重」という言葉もあり、だれかが「自分は相手にされていない」「だれかの正しい答えを押しつけられている」と思わなくても良い状況も作ろうとしているのです。
こうした2人の考え方は、少数の人々を除外せず、多様な背景や価値観をもつすべての人を包みこんで共生していこうという、今、世界中で目指されている考え方ともつながっています。
問題の答えとなる二択の質問と、それによって促したい行動は、どちらもたいへんシンプルなものです。しかし、そのシンプルなことがらの背景には、より多くの人と共に生きていくために、他者の価値観を尊重しあっていこうという姿勢があります。こうしたことが、これから学校で共に学んでいく仲間であり、本格的に社会人に仲間入りしようという受験生に向けたメッセージに感じられることから、日能研はこの問題を『シカクいアタマをマルくする。』シリーズに選ぶことにしました。