出題校にインタビュー!
光英VERITAS中学校
2024年05月掲載
光英VERITAS中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
3.自分の理解に関心を持とうと促す
インタビュー3/3
待つことで生徒の理解度が見えるようになった
授業ではどんなことを意識されていますか。
村越先生 生徒はすぐ答えを求めたがります。「教えて!」と言われても、「そこで考えるのが数学だよ」と自分で考えるよう促して、教えすぎないように気をつけています。生徒にはグループワークで話し合ってもらい、生徒が気づくのを待つようにしています。
「待つ」ことで生徒さんにはどんな変化が見られましたか。
村越先生 生徒が「わからない」と授業中に言えるようになったことは大きな変化だと思います。教員の話を聞いている受け身の授業では質問しにくいけれど、グループワークなら友達に「わからない」と言いやすい。私もこの生徒はここでつまずいているのだとわかるので、こういうアプローチをしようかな、こんな練習問題を勧めようかなと考えることができます。生徒の理解度や到達度が見えるようになったのは大きいと感じます。

光英VERITAS中学校 図書館
苦手な生徒に「解けた」達成感を持たせる
村越先生 数学はとても好きな生徒と苦手な生徒が両極端に分かれやすい教科です。数学の楽しさは十人十色。学問として試行錯誤することに喜びを感じる生徒もいれば、正しく計算できたことに気持ちよさを感じる生徒もいるでしょう。どの楽しさも大切にしたいし、私が思う数学の楽しさを押しつけないようにもしています。教員が楽しそうにしていれば、生徒が「数学って楽しいかも」と思うかもしれないので、自分自身が数学を楽しむ姿を生徒に見せたいなと思います。
数学に興味を持ってもらうために工夫していることはありますか。
村越先生 授業を受けて、気づきや達成感など全員が何かしら得るものがあったと思えるような授業を意識しています。
数学が得意な生徒は考えるのが好きなので、こちらが話さない方針が合っています。でも、苦手な生徒にとっては苦痛な時間になります。そうした生徒にも達成感を味わってほしい。そこで授業中に各自のiPadに送信する問題のうち、必ず1題はとても平易な、どの生徒も解けるような問題を出して、「解けた」という達成感を持たせるようにしています。

光英VERITAS中学校 図書館
「ここまでわかった」理解の最前線を見つける
村越先生 生徒には「全員が理解するのは難しくても、少なくともここまではわかったという“自分の理解の最前線”を見つけよう」と言っています。何がわからないのか、どこまでわかっているのかを生徒自身に考えてもらいたい。生徒を後押しするよう、私は『数学ガール』(結城浩著)のフレーズ「自分の理解に関心を持つ」を繰り返し呼びかけています。
できない自分と向き合ってほしい気持ちもあります。数学が苦手な生徒は「数学はわからないもの」という先入観がありますが、「ここまでわかった」という到達点を見つけたら、「そこが君の成長(理解の最前線)だよ」と声がけできます。
達成感は言い換えれば自己肯定感でしょうか。数学に否定的なイメージを持たないように生徒さんと関わっていると感じます。
村越先生 その点は意識しています。生徒によって理解のスピードは違いますが、必ず成長していることを実感してほしい。いくらこちらが「成長しているよ」と言っても本人が実感できなければ学習意欲は高まりません。生徒自身が自分のことを見つめて、自分ができること・できないことを客観的に見られるようになるといいなと思います。
おもしろさを見つけたら自分で学び進める
教科横断の授業「クロスカリキュラム」にも取り組んでいますね。
村越先生 これまでに、英語で分数の計算をしたり、江戸時代の和算をしたりしました。クロスカリキュラムは不定期開催(通常の授業内)ですが、生徒はいつもより楽しそうです。教科に対する見方が変わりますし、目的を持って学べると思います。
数学が苦手な生徒も、好きな教科とのコラボなら、その内容を理解するには数学の知識が必要だと気づき、数学への学習意欲も高まるでしょう。こうした取り組みを通して、新しい価値観が生まれたらいいなと思います。
生徒は数学の教員は数学しか教えないと思い込んでいますが、クロスカリキュラムではそうではないことに気づきます。社会科とコラボするときは社会科の勉強もしますから、教員が学ぶ姿勢を生徒に見せる機会にもなっています。
また、課題解決に取り組む「プロジェクト学習」も行っています。例えば、数式を入力するとグラフが描かれるグラフ描画ソフトを使って絵を描いてもらいました。一次関数の直線を組み合わせて絵を描くには10個、20個の式が必要なので結構大変ですが、数学が苦手な生徒も楽しんでいましたね。
ある生徒は、三角関数のタンジェント(三角形の底辺と高さの比)のグラフに興味を持ち、独学で学ぶようになりました。その生徒は「高校の三角関数を理解するためには、中学の数学を理解しなければいけない」と気づき、三角関数を理解したいという目的を持って中学数学を学んでいました。

光英VERITAS中学校 室内温水プール
男子の縦横無尽な学びに女子が刺激を受ける
女子校から共学になって何か変わりましたか。
村越先生 全く違う学校になりました。解法に対するアプローチは大分違う印象です。女子はある程度決まった道筋に従って解いていく傾向にあり、考え方が一本道のような気がします。よしあしは別にして解法を覚えたがります。一方、男子はさまざまな視点を持っていて、いろいろなアプローチができるのが特徴です。あえて教員が教えた解法以外の解き方を見つけようとします。
教科書の順番でやらなければという先入観がある女子が多いのに対し、男子は順番を気にせず、中学生でも高校の数学に興味を持ったら、自分の好きなことに突き進む傾向があります。女子からすると、「そんな学び方をしていいんだ」という気づきが生まれたのではないでしょうか。
「これでいいのか」と疑う目を持ってほしい
高1が共学化1期生で進化の途上にあると思いますが、中高6年間のどんな数学の力を身につけてほしいと思っていますか。
村越先生 数学という教科を通して、疑う力、整理する力、自分の考えを表現する力を身につけてほしいと思っています。
疑う力は、社会人になって仕事をしたとき、「これでいいのか」と疑う目があれば、もっとよくしようという発想になると思います。数学でいえば、計算が合っているか、論理に穴がないか、別解はないのかということです。できたと安心せず、ふり返ってよりよい方法を考えます。
最近SNSでいろいろなウソが出回っています。情報を見聞きしたとき、本当に合っているかどうか一歩立ち止まって考える力はこれから必要になります。
整理する力は「物事を見通す力」と言い換えられるかもしれません。ある課題を解決しようとするときに逆算して考えられるかどうか。解決の道筋を自分で描けるようになってほしいですね。
数学は「計算する教科」だと思われがちですが、考え方が大切です。それは自己満足ではなく、正確に相手に伝えなければ意味がありません。数学では途中式や適切な言葉を添えて自分の考えを適切に表現する練習ができます。論理的に説明することで説得力を持たせられるし、間違って受け取られないように適切な言葉を選びも大切です。
世の中は算数・数学のように白黒はっきりしないことがほとんどです。必ずしも正しいことが適切だとは限りません。場合によっては正しさよりもわかりやすさを優先した方が相手に伝わることもあるでしょう。だからこそ、答えが1つに決まりやすい数学は、表現方法を学ぶ場としてふさわしいのではないかと思います。

光英VERITAS中学校 体育館
インタビュー3/3