シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

開智中学校

2024年04月掲載

開智中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.探究を軸とした学校。さまざまな場で探究に必要な意欲やスキルを磨いていく

インタビュー2/3

授業では目に見えないものを理解させるための工夫が満載

普段の授業でも探究心を刺激するような工夫をしていますか。

久保先生 先ほどお話しましたが、生徒にとって目に見えないものを理解するのは難しいことなので、そこはかなりこだわりをもって工夫をしています。例えば、粒子の大きさを認識させるために、泥水をろ過するのですが、あらかじめ食塩などを混ぜておきます。ろ過するときれいな水になりますが、それを熱して蒸発させると中に溶けている食塩が出てきます。何もないように見えても、見えないサイズのものが水の中に入っていることを、生徒は体験的に理解します。

中学2年生になると、化学結合など内容が高度になります。原子の結合はすごくわかりにくいので、理解させるために、マクロで起きた変化をミクロと結びつける、ということを常に行っています。例えば銅の酸化です。よくある題材ですが、ばらばらの銅粉を加熱すると塊になります。なぜ塊になるのかというと、熱により銅粉の粒子1粒1粒が結合するからです。つまり塊になったということは、結合したということなのです。そういうマクロの変化と、ミクロの変化を意識的につなげて理解させるということをしています。

生徒さんの反応はいかがですか。

久保先生 やはりすごく引き込まれていく感じはありますね。その学年が始まった頃と、終わる頃とを比べると、こちらの投げかけに対して生徒はどんどん考えるようになっています。

開智中学校 実験室

開智中学校 実験室

生徒同士で議論が始まる、学び合いが増えている

久保先生 最近、授業の形式がすごく変わってきています。一方通行の授業よりも、双方向のやり取りが増えて、学び合う形ができています。実験も基本的には学び合いです。実験→結果→分析、というパートがあり、班の生徒同士で議論しながら進めていけるように、事前にワークシートを配布しています。注目すべき点はすべてそこに書いてあり、生徒たちが自分で考えて、整理できるようにしているのですが、時には答えが見えないような実験をすることもあります。そういう時に困っている班があれば、こちらからキーワードを投げかけて誘導します。

例えば、カイロの材料としてラベルに表示されているものを揃えて、自分たちで発熱させてみよう、ということをやるのですが、食塩では全然温度上がりません。5度程度です。本当に必要なものはすごくシンプルで「水」なのですが、それだけをずっと隠しておくのです。

そうした工夫は先生のオリジナルですか。

久保先生 教科書に掲載されている実験もやりますが、僕たちが開発したものもあります。カイロは僕が作りました。まず観察させます。カイロの中で何が起きているのか見えないので、開けて見て、自分たちが作ったものと比較します。
比較すると全然違うのです。カイロの中身を紙コップに入れると、紙コップの表面に水滴がつくことがあります。自分たちにないものがある、と気づけば、それを工夫してやってみようということになります。

やはりよく見て、違いを見つける、ということが大切なのですね。

久保先生 そうですね、観察が1番大事だと思います。

自分のテーマを見つけることが難しい

久保先生は学校の探究テーマ室長なのですね。テーマ探しは大変な作業とよく聞きますが、いかがですか。

久保先生 以前は過去を振り返ることによって、自分のテーマを見つける取り組みをしていたのですが、なかなか難しいんですよね。自己分析がうまく進まない生徒が多く、自分が何に興味持っているか、よくわかっていなかったので、最近はインプットすることに重きを置いて、何かを体験させることから始めています。

例えば、中学1年生には磯のフィールドワーク、2年生には森のフィールドワーク(各2泊3日)があります。磯のフィールドワークでは千葉県の鴨川に行き、海の生物を題材にして自分のテーマを見つけます。初日はいろいろな生き物を捕まえます。捕まえた生き物は宿に持ち帰ってじっくり観察し、特徴を徹底的に調べます。そうして観察したなかで、何が1番おもしろいと思ったか。いわゆる生徒の心に引っかかったものをもとに、次に調べることを生徒自身に決めさせて、最終日に発表を行います。

鴨川ではヤドカリがたくさん獲れるので、「ヤドカリは宿を変えると言われているけれど、宿の選び方にどういう趣向性があるのか」「その宿は、そのヤドカリの体の特徴と関係があるのか」などは、よく出るテーマです。ヤドカリは捕まえようとすると逃げるので、そこに注目した生徒は「敵が来た時にどこへに逃げる傾向があるのか」と考えたり、複数の種類の生き物を獲った生徒は「この蟹とこの蟹は形が違うけど、どういう生き方の違いを反映しているのだろうか」と考えたり。どこに興味をもつかは生徒次第なので、毎年、どんなテーマが出てくるのか、楽しみです。

開智中学校 掲示物

開智中学校 掲示物

理科にかぎらず、全教科で探究型の学びがテーマに

毎回の授業で、常に探究的な授業が展開されているのですか。

久保先生 そうですね。長さはそのつど異なりますが、授業の中に説明やまとめなど、探究に関連する時間が盛り込まれています。生徒が個人でテーマを選ぶ探究については、レポートや論文の形でまとめますので、論文を書く段階になると、1時間丸々それに当てることもあります。

それは6年間かけて行うのですか。

久保先生 今はどの教科でも、探究型の学びを取り入れています。中学3年生では関西フィールドワークを行います。そこでは関西の、ある地域の課題について調べます。生徒がよく選ぶテーマは、オーバーツーリズムの問題です。京都など観光地に観光客が来すぎるために、現地の人の生活が困ったことになっていることがよくありますよね。その実態や、地域の人が感じていることなどを、アンケートで収集し、それを数値化して分析し、評価する、といった活動をしています。ですので、中学1年生の理科の授業では、数値化が1つのテーマになっています。体系化されていますので、中学3年間で、探究に必要な観察力や分析力などがしっかりと育っていくのではないかと思っています。

生徒の興味をきっかけに、探究から社会貢献へ

探究の時間は特に設けていないのですか。

久保先生 探究の時間もあります。そこでは、主にスキルを身につけさせるようなことをしています。例えば、自己分析には手助けが必要なので、現代用語辞典のWeb版を活用し、「共感」をキーワードに、自分が興味のある分野を整理させています。方法としては、そこに掲載されているコラムの中から自分が共感するコラムを見つけます。その共感したコラムを友だちに紹介し、友だちもそのコラムに共感するかどうかを評価していきます。

ただ、興味はどんどん移り変わります。中学1年生は自分主体なので、基本的には自分の興味を整理します。中学3年生以降になると、純粋に学問として興味をもつ生徒と、社会貢献に興味をもつ生徒に分かれます。専門化していくのです。

例えば、地産地消をもって農家の助けになるような取り組みができないか、と考えた生徒(高3)は、地元の農家さんとやり取りし、野菜作りについて取材しています。さらに東京都の制度を活用し、農業ボランティアとして農家のお手伝いをして、体験的に学んだ野菜の育て方を、近隣の小学生に対してプレゼンテーションしました。そして収穫した野菜を給食で食べてもらい、子どもたちの反応などを農家さんにフィードバックしました。

開智中学校 校内

開智中学校 校内

自分のテーマを見つけることはすごく難しい

久保先生 探究に取り組むことによって生徒が変わっていく姿を目の当たりにすると、大学入試だけのためではなく、生徒の自己理解のためにやっているんだ、と思うわけです。

皆さん、自分の興味を見つけられるのでしょうか。

久保先生 本当のテーマを見つけることはすごく難しいので、全員ができるわけではありません。ただ、少しずついろいろなことにチャレンジするうちに、ぼんやりしていたものがだんだん見えてくるのではないかと思います。本校の探究を表すイメージ図は、スパイラルを描くように、疑問→仮説→検証→考察→発表→振り返り→を繰り返しながら、中心の軸に向かって矢印が進んでいきます。それと同じように、だんだんわかっていくのだと思います。

今は、探究の中で、先輩と後輩の交流が結構あります。新入生が入学すると、2年生と1年生が一緒にオリエンテーションをします。その中で、2年生から1年生に「開智の探究はこういうものだよ」と伝授します。そういう機会が何回もあるので、生徒は学校の文化として探究を受け入れていきます。

インタビュー2/3

開智中学校
開智中学校1997年に岩槻に開校して以来、「平和で豊かな社会を作ることに貢献できる、創造型・発信型の国際的リーダーの育成」を教育理念とし、探究型の学びを中心とした新しい学習のあり方を模索し推進している。
岩槻キャンパスの自然豊かな敷地にある一貫部棟校舎は中央に5階までの吹き抜けがあり、開放的な空間となっている。その一階部分にはテーブルが複数置かれ、生徒たちが自習やミーティングなどで使用している。蔵書3万冊を超える図書室、広大なグラウンド、バスケコート二面がとれる体育館のほか、ステージ発表や講演などが行われるホールが複数あり、自習室にはブース式の学習スペースが140席程度用意されている。昼食は中2まで弁当持参だが、希望者には給食弁当もある。中3からは食堂などが利用できる。
入学時に入学者自身が自らの志望に応じてIT(目標の大学が決まっている人のコース),MD(医療従事者を目指す人のコース),GB(グローバルな仕事を志望する人のコース),FD(志望をこれから考えたい人のコース)の4つのコースのいずれかを選択する。加えて、全員がS特待生で構成される「創発クラス」を2024年度入学から設置。創発クラスでは数学の特別授業「ガウス数学チーム」など各教科でより発展的な授業を展開する。この4コース制と創発クラスは高1までで、高2からは志望大学別のクラス編成となり、医学部を目指す医系クラスも設置される。高2からは放課後の特別講座が開始され、生徒の多くが塾や予備校に頼ることなく難関大学への進学を目指す。さらに国際バカロレアのディプロマ・プログラムの候補校ともなっており、2025年4月以降はこの資格を利用しての海外有名大学への進学も視野に入る。
開智の教育の核となる探究活動は、中1から生徒全員が個人のテーマを決め、疑問・仮説・検証・結論のサイクルを何度も繰り返し、考察を深めていく。毎年行われる探究発表会ではポスター発表、スライド発表など様々な方法で生徒全員が発表を行う。フィールドワークは、中1は磯、中2は森で「はかる」「くらべる」をテーマにグループワークを行う。中3は関西をフィールドとして地域調査を行う。高1では首都圏で個人の探究テーマに関わる調査を実施し、高2ではイギリスの大学で現地の大学生を相手に探究の成果を発表する。中2~高1の希望者対象にオーストラリア・アメリカ・シンガポールなどへの語学研修もある。
生徒の自主性を重んじる校風で、生徒主体で作られた委員会や部活動もある。それ以外でも生徒の自主的な活動が活発で、SDGsなどの活動も盛ん。部活動は運動部18、文化部12、同好会1。ディベート部や文芸部かるた部門などは全国レベルでの活躍もある。