シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

開智中学校

2024年04月掲載

開智中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.目に見えないものを、いかにつかむか。ものの見方や想像力を磨こう

インタビュー1/3

生活に密着しているものを題材に出題

久保先生 入試問題を作る際に、生活に密着していて、普段からわりとよく使うものの、あまり考えていないようなものを題材として選ばせてもらっています。今回はフローティングキャンドルでした。それ自体はあまり生活に密着していませんが、ろうそくは普段目にすることが多いだろうと思ったので選びました。
先端Bの入試では、ヒートテックを題材に出題しました。見方を変えるとまったく違ったものになる。あるいは、使い方を少し工夫することで、まったく違った使い方ができるなど、問題を解きながらおもしろさを感じてもらえる問題にしたいと思いながら作問しています。

出来はいかがでしたか。

久保先生 この問題の正答率と合格率がほぼ同じでした。約61%です。狙いどおりの出題ができました。

受験生が最初に目にする問題に、フローティングキャンドルの素敵な写真が載っていて、そこもいいなと思いました。

久保先生 ありがとうございます。リード文の「幻想的な」という言葉も、意図して使っているところがあります。

理科教諭・探究テーマ室長/久保 智先生

理科教諭・探究テーマ室長/久保 智先生

小問の流れのなかで考えを整理する

久保先生 受験生には机上で学んだことを、具体的なものを通して考える体験をしてほしいので、具体的な事例を必ずあげるようにしています。

誤答になんらかの傾向は見られましたか。

久保先生 「ア」と答えた人が多かったです。小問が5問あり、浮力についていろいろな視点で聞いています。主にどういう視点で考えなければいけないのか、ということを、小問の流れのなかで整理させようという意図がありました。

入試問題はどのようにして作っていますか。

久保先生 物理・生物・化学・地学、それぞれに専門の教員がいますので、各自でおもしろそうな問題を考え、持ち寄って、作っています。毎年、複数の試験を作るので、何ヶ月もかけて問題を作っています。

入試問題で使えそうな題材は、常に探しています。もちろんボツになるものもありますが、探している過程で、「そういえば、今、こういうものがおもしろいらしいよ」という、教員同士の会話から出てくることが多いです。論文(先行研究)などを題材として問題を作ることもあります。特に生物や実験系の問題は先行研究をもとに問題を作ることが多いです。

中1は週1で実験。入学後に浮力の実験、考察も。

先生のご専門は?

久保先生 私は化学です。この回では大問2を作りました。今、思い出しましたが、以前、和紙でできている紙鍋を題材に入試問題を作ったことがあります。水があることで紙は燃えないのですが、フローティングキャンドルも原理はそれと似ています。水と触れている部分はろうが溶けないので、それが関となって火が消えないのです。

浮力は目に見えないですよね。想像力が必要なので、小学生にとっては難しい部類の素材になると思います。

久保先生 中学1年生は週1回のペースで実験をしています。浮力の単元ではフィルムケースに入れる重りを少しずつ増やしていく実験を行います。当然、中の重りの数が増えていけば重くなるので、フィルムケースはどんどん沈んでいきます。生徒はフィルムケースがどこまで沈んだかを観察し、現象を認識した上で、沈んだ部分の体積と重さが対応していることを数値で確認します。

この問題を解いた子どもたちは、入学後に、その授業で「こういうことだったのか」と理解を深めることができるのですね。

久保先生 はい。こういうものは何回も触れて、ようやくイメージがつかめてくるのではないかと思います。

開智中学校 校舎

開智中学校 校舎

学習した内容を、使いこなせる力をつけてほしい

久保先生 理科はパッと見た時の印象と、本当の姿が違うことが多いので、入試問題ではそういうところに特にスポットを当てて作りたいと思っています。例えば、化学ではほとんど毎回グラフを書く問題を出題しています。この回の大問2では、単純に石灰岩の重さと、発生する気体の体積を与えてグラフを書かせる問題ではなく、含まれている不純物の量を計算して、グラフを書かせる問題を出題しました。そうすると、きれいに関係がわかるグラフになります。

他の回では、「燃焼」や「反応速度」を題材にした問題を出しました。「燃焼」の問題では、温度を聞くのではなく、最終的にどれだけの熱量が出たかという、カロリー計算をさせる問題を出題しました。特待Aの「反応速度」の問題では、一定の時間が経つと反応速度が半分になる、「半減期」という性質を工夫して使い、見た目上はまったく減っていかない、直線上のグラフを出しました。ちょっとした工夫をすることで、現象がすごくきれいに整理される題材で出題しています。

難しそうに聞こえるかもしれませんが、化学分野で聞いてるのは基本的に量的関係です。科学の世界には、物質の反応する量を2倍にすれば、発生する気体の量や熱量なども2倍になる、という単純な比例関係があります。それを聞いてるだけなのです。問題作成においては、小学校や塾で学習した成果を発揮できる問題を出したいと思っていますので、勉強した内容を使いこなせるように練習してきてほしいですね。

開智中学校 校内

開智中学校 校内

データなど情報をもとに推測する問題が多い

入試問題全体の構成についてお話いただけますか。

久保先生 なるべくいろいろな分野から問いたいということで、物理・化学・生物・地学、各1題ずつの構成で作成しています。試験時間が30分と短いので、そのなかで解ききれるように調整を行っています。
1つ1つ知識を問う問題だけでなく、それ以上のことを問おうとすると、理科の場合、分野の融合をせざるを得ません。今回、工夫したのは、地学分野の地震の問題です。通常、最初に地震発生時刻が記されています。そこから初期微動や継続時間を使って震源環境を推測するのですが、実際に僕らが解析する時に地震発生時刻は最初にわかりません。受験生にも生のデータから推測していく、ということをしてほしいと思ったので、あえてここに地震発生時刻を載せない、という選択をしました。

測定装置から出てくるグラフに基づいて解析するわけですから、先生のおっしゃる通りですよね。他にも実験結果など、情報に基づいて考える問題が多いような感じがしました。

久保先生 特に生物分野は、実験系を出したいという思いがあります。実験結果との比較から何が言えるのか、という、科学の1番基本的なところを問いたいという思いがあります。

開智中学校 掲示物

開智中学校 掲示物

特待Bの入試問題は攻めた

どの回も各分野1題ずつの構成なのですか。

久保先生 そうですね。今年の入試で言うと、特待Bだけ遊び要素がかなり盛り込まれた問題が多かったのですが、それ以外は同じような構成です。

「遊び要素が入った問題」とは、どのような問題ですか。

久保先生 他の回で出したかった問題が特待Bに集まったという感じなのですが。最初に万華鏡の問題を出しました。簡単に作れるんですよ。スライドガラスの裏面に黒い紙を貼り付けたものを、3つ組み合わせるだけで万華鏡になります。「そこに1枚紙を挟んで、1枚だけ反射しなくしたらどう見えますか」という問題を出しました。どこで反射しているかを、本当にわかっていないと解けないので、正答率はものすごく低かったです。

難しい問題だと思います。

久保先生 2枚の鏡を合わせると、いくつもの物が映るという経験は、おそらく小さい頃に誰しもが経験していると思います。過去に、それを自由研究の題材に選んだ中学1年生がいました。鏡を開く角度によって、見える物の数はいくつになるか、という研究でした。

そういうことに興味をもつ生徒さんがいるのですね。

久保先生 こうした問題を出せるのは、自ら学ぶ姿勢を求める先端Bでは、入試でどういう力を問いたいのか、ということが、僕らのなかで整理されてきたことが大きいと思います。正答率と合格率においても、今年は狙いどおりにいったのではないかと思っています。

インタビュー1/3

開智中学校
開智中学校1997年に岩槻に開校して以来、「平和で豊かな社会を作ることに貢献できる、創造型・発信型の国際的リーダーの育成」を教育理念とし、探究型の学びを中心とした新しい学習のあり方を模索し推進している。
岩槻キャンパスの自然豊かな敷地にある一貫部棟校舎は中央に5階までの吹き抜けがあり、開放的な空間となっている。その一階部分にはテーブルが複数置かれ、生徒たちが自習やミーティングなどで使用している。蔵書3万冊を超える図書室、広大なグラウンド、バスケコート二面がとれる体育館のほか、ステージ発表や講演などが行われるホールが複数あり、自習室にはブース式の学習スペースが140席程度用意されている。昼食は中2まで弁当持参だが、希望者には給食弁当もある。中3からは食堂などが利用できる。
入学時に入学者自身が自らの志望に応じてIT(目標の大学が決まっている人のコース),MD(医療従事者を目指す人のコース),GB(グローバルな仕事を志望する人のコース),FD(志望をこれから考えたい人のコース)の4つのコースのいずれかを選択する。加えて、全員がS特待生で構成される「創発クラス」を2024年度入学から設置。創発クラスでは数学の特別授業「ガウス数学チーム」など各教科でより発展的な授業を展開する。この4コース制と創発クラスは高1までで、高2からは志望大学別のクラス編成となり、医学部を目指す医系クラスも設置される。高2からは放課後の特別講座が開始され、生徒の多くが塾や予備校に頼ることなく難関大学への進学を目指す。さらに国際バカロレアのディプロマ・プログラムの候補校ともなっており、2025年4月以降はこの資格を利用しての海外有名大学への進学も視野に入る。
開智の教育の核となる探究活動は、中1から生徒全員が個人のテーマを決め、疑問・仮説・検証・結論のサイクルを何度も繰り返し、考察を深めていく。毎年行われる探究発表会ではポスター発表、スライド発表など様々な方法で生徒全員が発表を行う。フィールドワークは、中1は磯、中2は森で「はかる」「くらべる」をテーマにグループワークを行う。中3は関西をフィールドとして地域調査を行う。高1では首都圏で個人の探究テーマに関わる調査を実施し、高2ではイギリスの大学で現地の大学生を相手に探究の成果を発表する。中2~高1の希望者対象にオーストラリア・アメリカ・シンガポールなどへの語学研修もある。
生徒の自主性を重んじる校風で、生徒主体で作られた委員会や部活動もある。それ以外でも生徒の自主的な活動が活発で、SDGsなどの活動も盛ん。部活動は運動部18、文化部12、同好会1。ディベート部や文芸部かるた部門などは全国レベルでの活躍もある。